「辻堂ミステリの到達点」と帯にあるが、前作「ふつうの家族」とは違う全く普通ではない「家族」を掘り下げた緊迫、濃厚なミステリ。ギシギシに詰め込んだ凄まじい作品。
「殺人事件の加害者家族と被害者遺族――ひとつ選べと言われたらあなたはどちらになりたいですか?」を問いかける。東京・八王子に住む中年男性3人が騙され、長野の高原にある別荘の地下室に監禁される。道枝幸久、柏崎肇、隅田吾郎の3人。彼らは皆、14年前に起きた産院放火殺人事件で、妻や子を亡くしていた。生後3日目に子供を亡くした柏崎の妻・智子は火傷の重傷を負った。逮捕され誘拐・ 監禁を認めた犯人は湊川潤こと大森俊。14年前の放火事件の犯人として逮捕され獄中死した院長・大森千彦の息子だった。取調べを担当する警視庁の羽山圭司と高尾署の森垣里穂子に対し、事件時8歳の少年だった湊川は加害者家族として歩んだ悲惨で孤独な日々を一方的に語り続ける。
両親の離婚、度重なる引っ越しと転校、母親の自殺、施設への入所、改名の申し立てとインターネットへの流出、転々とする職場・・・・・・。「母が先に死んだから、僕は死ねなくなった。死ぬこともできない僕は、死ぬより辛い生を、この生き地獄を、殴られても、蹴られても罵声を浴びせられても・・・・・・たった一人で、誰とも心を通わせることなく、投げやりに、地を這いながら生きていくほかなかった」。生き地獄・・・・・・。
突然、思いもよらぬ恐るべき事件が発生する。3人の留守宅に爆弾が仕掛けられ爆発。同時多発放火殺人。柏崎肇の老父・靖男、道枝幸久の妻・薫と娘・千晴の3人が死亡する。しばらくして、柏崎の妻・ 智子が刺殺される・・・・・・。
「なぜ湊川は被害者の中年男性たちを殺さず誘拐・監禁したのか」「なぜ留守宅の家族を爆発・死亡させたのか」「なぜ父親は産院の放火殺人をしたのか。そして自供してしまったのか」・・・・・・。そして「加害者家族か、被害者家族か」・・・・・・。事件は、思いもよらぬどんでん返し、さらにまたどんでん返し。特に加害者家族の「生き地獄」、そのためには「死なせてあげる。何の罪もない家族を救済するための殺害= 救済という理解不能、筋の通らない理屈」・・・・・・。何が狂っているのか。そして、「大抵の真実は美しくない」・・・・・・。
悲痛な選択を迫られた時、人を支えるものは一体何か、を問いかける。かつて、「哲学は辺境の防人である。辺境とは虚無と人間の境である」という言葉に出会った。崩れ落ちんとする人間を、身体を張って守りぬかんとする防人のごとき人間哲学の不可欠性だ。極めて濃密で面白い小説だ。
