darega.jpg「日本人ヘ」の第5巻。20178月から20218月までのものを中心とし、「追伸」として20229月が付記されている。その間にはコロナ禍がある。イタリアの政治では、ポピュリズム政党「五つ星」が躍り出たが結局コンテ内閣は退陣、期待のドラーギ内閣も追われるという混迷の時期になる。その時々の指摘は、知的で率直で切れ味鋭く、面白い。

「ローマで給水制限?」「男と女・イタリア版」「日本人のトラウマが軍国主義の復活への怖れだとしたらイタリア人のそれは強力なリーダー、つまりファシズムの復活への怖れ。強くないリーダーでは本当の意味でリードできるのかと考えてしまう。強いリーダーは誰でもムッソリーニなるわけではないのに」「古代ギリシアの経験は近代に入って再発見されるが、そこで当初追求されたのは、良識的な政治指導者と短慮に走らない市民であった」「ツイッター合戦が投票に影響与えた。こうなると広い視野に立っての考察などは居場所を失ってしまう」「こうしてイタリアには民主主義なんて言ってはいられない政府が誕生したのである。だが所得税の最高税率だけでも43%、消費税22%、失業率11%、それでいて難民は際限なく押し寄せてくるのが今のイタリアだ(20186)」「民主政が『取り扱い注意』と思う理由」「制度化によって女が3割を占めるようになると、各人の能力のあるなしがもろに出てくる。女だからできないのではなくて、できる女とできない女の別しかないこともはっきりしてくる。そうなるとガラスの天井などという自らの無能を男たちの責任に転嫁する言葉も消えていくだろう」「いずれにしても『民意』こそが真の正当性を持つ、などという幻想からはいいかげんに卒業してはどうか」「外国人との共生の問題は、人道上の想いだけでは絶対に解決しない。かわいそうな人々なのだから寄り添ってあげなければ、なんて想いでは絶対に解決しない」「羽織を脱ぎ捨てて(衆議院憲法調査会議員団の視察)」「20年前にはまだ、加憲というアイディアはなかった」「抑止力とは、見せないでいては効果は期待できない。カエサルは、眼で見ることのできるものは全て見せたが、見ることのできないものは見せていない」

「前例のない激流の中に置かれている我々は、新しい技術に適応するための苦しい努力を続けなければならない。ややもするとわれわれは激流に足を取られそうになる。特に文明について早急な価値判断を避けて、その恩恵とともに善悪を見つめることが必要である。そう高坂正尭は言い、安全保障とは軍事にとどまらず、文明にも視野を広げてこそ明確に見えてくるもの」「昔から大作曲家には女は一人もいなかった。それは、この種の構成力となると、我々女は弱いからである。それらが足し算ではなく掛け算になって新しいものを創り出す、総合力となると劣るのだこうなったらクヨクヨ考えずに仕事上では男になることなのだ」「ロックダウンはしなかったヴェネツィアの例」「窮極のソフト・パワー『知恵』――われらが日本には、カネもなければ技術もない。だから、知恵を働かせるしかない(下河辺淳) 」「勝てる男――リーダーには、素質だけでなく、その位置に立つにふさわしい肉体的条件も重要なのだ」

 


tousika.jpg「投資と投機は根本的に違う」「ギャンブルではなく、利益を生み続ける本当に強い企業を見抜くインベスターシンキングを身につければ投資家として成功することができる」と言う。優良企業を見定める力、方法を身につけること。中長期にわたる戦略を立てての資産形成だ。このことは投資だけではなく、社会変化の潮流と本質、「すべての経済活動は顧客の問題解決である」「お金は問題解決してくれた人や企業に集まる。難しい問題であればあるほど、解決できれば付加価値が高まる」は、「政治(家)」の本質でもある。「他人に働かされ、受動的・対応するだけの労働者1.0から自分が働き能動的に行動する労働者2.0へ」と言うが、政治家も全く同じだ。「お金はありがとうのしるし」「利益は問題解決の対価」と述べ、「自己投資」「長期株式投資」を説く。問題解決型人材になるべく自分に投資することが自己投資だ。そして「インベスターは鵜匠、ビジネスオーナーであり、現在の株価を見るよりも、株価は利益の影であり、その利益はビジネス(事業の経済性)の影である。最も重視すべきことは、その事業が高い経済性を持っているかどうかをつかむ抽象思考力を持つことだ」と言う。

 「我々が投資を検討している企業を現地視察するときは、必ず沿革を尋ねる。創業者の信念や哲学、事業を成功に導いた理由などを細かく確認する。何故かというと、経営者は嘘をつく生き物だから」「経営者の話を鵜呑みにする事は危険。事業の経済性に関する仮説を構築するときは、一次情報以外の検索をするのは考えもの。誰かの意見とか感想などのニ次・ 三次情報は仮説構築の邪魔になる。断言できるのは、情報の量と考える量は反比例するということです。ネット情報を賢く利用している人は、一次情報の事実(ファクト)だけを集めて、99%は自分で考えている」と、「考える」ことの価値が高まっていることを指摘する。重要な指摘だ。「手を使って考える」「足を使って考える」と言い、「効率ならテレワークで良いが、付加価値をつけるならリアルでの温度感」と述べる。

「インベスターが用いる3つの視点」として①俯瞰的に見る②動態的に見る③斜めから見る――を上げる。具体例を挙げながら語っており、説得力がある。「トヨタ・フェラーリ・テスラ、あなたならどこに投資する?」を始めとして、「ネットフリックスvsディズニープラス」、IBM、ファーストリテイリング、シャキシャキレタスのセブン&アイ・ホールディングス、スイスの香料メーカー・ジボダン社、キッコーマン、日本電産、セブン銀行、コマツ、AKB48等についてインベスターシンキングを語る。「自分で働く=自分資産(若い人は自分を磨き自分という資産の価値を上げることが大切)」と、「自分以外に働いてもらう=金融資産(そのためにもインベスターシンキングが重要)」の組み合わせること。「ジブン・ポートフォリオ」を描いてみよう、顧客・社会の問題を解決していくという「利己と利他の融合」を図ろうと言う。


hitonokokoro.jpgコロナ対策で政府は国民の「心」に働きかけ三密回避やソーシャル・ディスタンスを取ることを求めた。一方で、金融政策においては中・長期金利の誘導や予想インフレ率をコントロールする観点から「人々の期待」への働きかけがキーワードとされてきた。この2つの「働きかけ」は、背景とする人間観・経済学が違う。合理的に満足を最大化させようとする人「エコン」と合理性よりも大事なものもある人間「ヒト」。行動経済学の成果を、主流派のマクロ経済学に加味した政策を行う必要がある、と言う。「行動経済学×マクロ経済学」だ。

人間というのは不思議なものである。必ずしも合理的な行動をとるものではない。トイレットペーパー・パニック、銀行の取り付け、バブルなどは、予定調和的なメインストリームの経済学の世界観とは違う。一方で面白いことに人間は、危険に直面するとすぐパニックを起こすとは限らない。災害や予期せぬ異常や危険に対して、過剰反応しないようにある程度鈍感にできているという「正常性バイアス」があると言う。金融市場にも正常性バイアスが働く。行動経済学の知見では、「正常性バイアス」とともに、明日や明後日の満足と比較して、「今の満足」の価値が突出して高い「現在バイアス」を指摘する。ダイエットの失敗も、今日はしっかり食べて明日から頑張ろうとして失敗する、というわけだ。政治でも将来への時間軸を考えないで、どうしても今のゆるい対応になるというのは「現在バイアスの罠」だ。チケットを買って映画を見ても、「面白くないが、お金をせっかく払ってるんだから最後まで見てしまう」という「サンクコスト(埋没費用)の罠」がある。それは国の予算を使って技術開発を行い、なかなかうまくいかなくても止められない、取り返そうとする「損失を取り戻そうとして深みにはまる罠」という行動だ。将棋でも「流れ」で読み切ってさす人間と、過去にとらわれず、その瞬間の最良の手を計算するAIとの違いがあり、AIには「サンクコストの罠」は無縁だ。それらの実例が本書で示され、行動経済学の重要性と面白さが伝わってくる。

そこで公共政策等における「働きかけ」の重要さが示される。「フレミング」と「ナッジ」――。表現の選択、見せ方で受け取り方が異なる「フレーミング効果」。「手術を受けますか」という表現の仕方で「手術後1ヵ月の生存率は90%」とポジティブにいう言い方と、「手術後1ヵ月の死亡率は10%」とネガティブにいう言い方では、手術を受ける人は80%と50%という大きな違いがあるとデータを示す。確かにと思う。「ナッジ」とは「注意をひいたり、何かをさせるために、人をそっと押す」ということ。人は利益の喜びより損失の痛みをはるかに強く感じるというプロスペクト理論もあり、行動経済学的な人間像が例示される。

これらを踏まえて、マクロ的な社会現象や経済政策に論究する。「日米貿易摩擦についてのポジティブなフレーミングの陥穽」「日本の移民政策についてフレーミングが強める現在バイアス」「日本のコロナ対策における人との接触を減らす打ち出し方。ポジティブな表現を使った」・・・・・・。

そしていよいよ焦点となる日本の異次元の金融緩和政策、デフレ脱却への「インフレ予想、期待への働きかけ」に論及する。「異次元緩和導入時に黒田総裁が強調したのは、市場や経済主体の『期待』を抜本的に転換することで予想インフレ率を上げることであり、マネタリーベース倍増はそのシンボルであった」と指摘しつつ、「そのメッセージは必ずしも一般市民には届かなかった」「家計は異次元緩和に関心を持たなかった」「マネタリーベースという専門用語は一般市民の大半は何の話だかわからないままスルーした」などと指摘する。行動経済学的な分析だ。「異次元緩和に欠落していた家計にとってのポジティブなストーリー。物価上昇の果実についてポジティブなフレーミングないしストーリーが必要だったはずだ」・・・・・・。昨今の慢性デフレの上に急性インフレが襲い、世界とはほど遠いにしても3%を超える物価上昇の日本。「物価が上がっても賃金は上がらない」を、「物価が上がるが、賃金も上がる」というポジティブメッセージを発せられる時だと思う。どう体制を作り、企業と国民に届くように語るか、最も重要な戦略だと思う。リアリズムに徹する知恵の総結集だ。


daiti.jpg「一握りの土に5億年の重みがある」「土は極めて複雑だ。大さじスプーンすりきり一杯(10グラム)の土に、世界人口を上回る100億個の細菌、さらに無数の菌類、古細菌、ウイルスが共存している」「地球の歴史46億年の中で、41億年目まで地球に土はなかった。5億年前に植物が上陸したことで、緑と土に覆われた大地が誕生した。ここで、他の惑星にも共通する石や砂の物語から分かれ、地球は独自の土の物語を紡ぎ始める。土壌とは岩石の風化によって生まれた砂や粘土に腐った動植物遺体が混ざったものだ」「植物と土の歩んだ5億年、ヒトと土の歩んだ1万年」――。副題には「せめぎあう土と生き物たち」とあり、土と人類の驚異の歴史が語られる。極めて面白い。

「土は少しづつ『変化』し、『酸性』という厄介な性格を持つ」「酸性土壌に適応したマツ、岩を食べるキノコ」「氷の世界の森と土」「水に恵まれた森の楽園・奇跡の島国日本、降り積もる火山灰」「草を食べ尽くすブラキオサウルス、ゲップやおならを含め2億年前の地球を温暖化させるのに充分な量」「アマゾンの黒い川と白い川」「オランウータン、土を食べる」「雨が増えると、土が酸性になる。樹木は生まれ育った酸性土壌に適応力があるが、ムギやトウモロ之シのような栽培作物は、生まれ育った半乾燥地の中性土壌に適応してきたので酸性の土壌には弱い」「エジプトはナイルの溶存有機物の賜物」「田んぼによる酸性土壌の克服、水田稲作のおかげで日本の農業は発展、人口も増えた」「窒素肥料の功罪、土壌劣化を加速する資本主義」「木材を輸入する森林大国・日本。木材は輸入で賄われ、熱帯雨林は減少、手つかずの日本のスギ人工林」・・・・・・。

土をめぐる競争と絶滅の繰り返し、「必死になって居場所と栄養分を求めてきた植物・動物・人間の試行錯誤の歴史の末に今がある」と言う。


tugaru.jpg関ヶ原の戦から10年後の1610年、石田三成の3女・辰姫が津軽家に嫁ぐ。三成が処刑された後、豊臣秀吉の後室の高台院(北政所)に庇護されていたが、19歳で津軽信枚に嫁いだのだ。ところがその3年後、家康の養女・満天姫が正室として嫁いでくる。満天姫は福島正則の姉の子・正之に嫁いでいたが、正則によって廃嫡・死亡され、息子とともに実家に戻されていた。辰姫は上野国大館ヘ移るが、後の藩主となる長男を産む。関ヶ原から遠く離れた津軽の地で、三成の娘・辰姫と家康の養女である満天姫とが切り結ぶ。西軍の花と東軍の花の対決。女同士の嫉妬や競争心の醜い応酬と思いきや、全く違う戦国女性のキリリとした聡明さと忍耐強さ、矜持を持ったニ人の姿が描かれる。男どもには及びもつかぬ女性の靭さに感服する。

「されど、家康殿は朝廷をわが思いのままにしようとされておる。・・・・・・源吾は言葉を発することができなかった。大阪の陣は家康が豊臣家を滅ぼそうと始めた戦だと思っていた。だが、高台院の話を聞けば、むしろ豊臣家から仕掛けた戦だという」「それにしても、津軽の花は見事に咲いたようじゃな。高台院はくっくっと楽しげに笑った」「世間から見れば憎み合い、謗り合う仲であるはずでした。しかし、わたくしにとって、あなたは生きる支えでした。あなたがいなければ、わたくしは自らのなすべきことを何一つなせなかったと思います」「わたくしも同じでございます。満天姫様に一度、お会いした時から、わたくしは自らを磨こうと思いました。まっすぐの道を歩もうと心に定めました。もし、そうでなければ、満天姫様に笑われる。その思いがわたくしを導いてきました」・・・・・・。縁は関ヶ原の戦いから始まり、津軽の地で、石田三成の娘として負けられない戦と、徳川家康の養女として勝たねばならない戦が繰り広げられたのだ。「守らなければならないものを守ろうとして」の戦だ。

本書は、このほかに「鳳凰記」「虎狼なり」「鷹、翔ける」の短編が収められている。「鳳凰記」は、後陽成天皇を守ろうとした豊臣秀吉の精神、大阪冬の陣に臨む淀君の姿が描かれる。「虎狼なり」は、関ヶ原の戦いに挑む石田三成の思いもよらぬ戦略と安国寺恵瓊。「鷹、翔ける」は、本能寺の変に向かう斉藤内蔵助利三の心に秘め続けたもの、を描く。いずれも良い。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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