親と切り離して独特の教育を行う「ミライの学校」――。"水"の販売で事件を起こし、社会から奇異なカルト集団と批判されるこの団体の跡地から女児の白骨が発見された。弁護士の近藤法子は、ふとしたことから「白骨死体は私たちの孫ではないか」と吉住夫妻から依頼され、代理人となる。じつは法子は30年前、小学時代の3年間、夏になるとその「ミライの学校」に"合宿"のように参加していた。そして、遺体は、自分の知っているミカではないかと胸騒ぎを覚えるのだった。白骨は吉住夫妻の孫でも、ミカでもなく、"ルールを守らない子"の井川久乃であることが判明するが、田中美夏による"殺人"ではないかとの疑いが浮上、法子はここでも弁護することになるが・・・・・・。親と子、大人の論理と子どもの感性、子育てと教育、理想による圧迫、保育園(待機児童)等の問題をキメ細かく剔り出す素晴らしい力作。
「お父さんと、お母さんに会いたい」「ミカって呼んで、手を握ってほしい」・・・・・・。「大人不在の夏休み」「美しい夏と<学び舎>の思い出。そこを共有したミカと私。自分はきれいな少女のまま、死を望まれているのだと思った」「誰かの望む"いい子"でなくてもいいんだ」・・・・・・。「ずっと放っておいて忘れていたくせに。骨が出てきて、自分の記憶を一緒に堀り起こされた人たちが、何かを取り戻そうとするかのように群らがることの、なんと傲慢なことか。取り戻せるものなど、もはや、何もないのに」「大人は誰も美夏と真剣に話してくれない。黙ったまま、美夏と、そのミライを守ると言って」「ヒサちゃんがどうして死んだのか、真実が知りたい」・・・・・・。
「失われた親子の時間」「罪を記憶に閉じ込めて、私たちは大人になった」「純粋な子どもの感性と大人のつくる秩序と論理」――いくつもの問題を考えさせる感性あふれる作品。
東北にある米崎市が舞台――。森口泉巡査は、県警捜査支援分析センターの機動分析係を志望していたが、実技試験に失敗し落胆していた。しかし突如配属が決まる。係長の黒瀬仁人が、泉の鍛え抜かれた記憶力等を評価したということだが、特別扱いの「スペカン(スペシャル捜査官)」とメンバーから揶揄される。事件現場で収集した防犯カメラ映像等のあらゆる情報を解析・プロファイリングし事件に迫る機動分析係。黒瀬以下、5人のメンバーはいずれも個性派ぞろい。ベテランの市場哲也、日下部真一、里見大、春日敏成だ。泉は並外れた記憶力と頑固というほどの粘り強さ、闘争心をもってメンバーに加わっていく。
そんな時、県警の会計課の金庫から約1億円が盗まれるという事件が発覚する。しかもその責任者の会計課長・保科賢吾が、定年前に早期退職希望を出し直前に辞めていたことがわかった。そして殺人事件が・・・・・・。泉が男ばかりの世界で、前に前に突き進んでいく姿。それに引きずられていくようにチームが結束していく様子が心地良い。
1989年、合計特殊出生率がそれまでの過去最低の1.57を更新して以来、日本はさまざまな少子化対策をとってきた。わが党が「児童手当」「幼児教育の無償化」「待機児童ゼロ」など「子育て支援」の推進役であったことは間違いない。安倍内閣での「希望出生率1.8」、菅内閣での「不妊治療の保険適用」など、子育て支援が政治の大事な柱となっている。本書は、子育て支援策が3つの分野においてどのような効果を及ぼすかを、厳密な経済理論、統計データに基づいて実証・分析を行う。3つの分野とは①出生率の向上への効果②次世代への投資として子どもの発達への効果③私的な子育てから解放された女性の労働市場進出への効果――である。しかも分析は、世界各国の研究成果を丹念に比較研究している。きわめて専門的、学術的な研究となっている。
「子育て支援と出生率の向上」――。「全体としていえるのは出生率は児童手当などの現金給付政策にある程度反応しうる」「第2子の出生に対しての効果は相対的に大きい」「日本でも保育所整備の方が現金給付よりも有効な少子化対策だが、その差は大きなものではない」「ジェンダーの視点で見ると、男性の家事・育児参加割合の高い国ほど出生率も高くなっている」・・・・・・。
「子育て支援は次世代への投資」――。「育休制度の充実は必ずしも子どもの発達に対して影響しない」「幼児教育のIQに対する効果が数年で消えたとしても、攻撃性や多動性など周囲との軋轢を生じさせる外在化問題行動の減少、非認知能力の改善は長期に及ぶ」「とくに社会経済的に恵まれない家庭で育つ子には発達改善効果がある」「保育所通いは子どもの言語発達を促す。保育の質が大切」・・・・・・。
「子育て支援がうながす女性活躍」――。「育休制度は出生率をあまり上昇させない」「育休3年制への移行はほとんど就業も増やさないし、女性労働者に対する企業側の需要を減少させる悪影響をもつ」「1年間の公的育休制度は女性就業を促進するが、3年間に延長しても効果はほとんどない」「希望するすべての家庭が保育所を利用できるようになるのが理想。保育の質を確保したうえで、そうした方向に政策を進めるべき」・・・・・・。
「子育て支援」策を世界の統計データを用いて厳密に分析している著書。
昨年の中国でコロナ発生から約一年間、二人で対談した世界の政治。アメリカ、中国・韓国、ヨーロッパ、ロシアと中東、そして日本と、各章を立てる。無類の映画好きの二人から各国の各時代を映す作品の数々が捜入される。懐かしくもあり、また思想・哲学・クラシック・スポーツに若い頃から傾倒していた私の知らないことが山ほどある。軽妙で面白く、確かに世界情勢がよくわかる。
「アメリカ――自由の国の根幹はポップカルチャーにあり」――「アメリカンドリームというのは誰もが成功して金持ちになるチャンスという意味と、専制支配から逃れてきた人たちが二度と自由を奪われずにすむという意味がある」「そこに自由の女神や憲法がある」「ミドルクラスの崩壊がトランプを生んだ」「SNS時代の政治の言葉」など、どうしてもトランプ中心の対談となる。
「肥大するチャイニーズドリームと朝鮮半島の宿命」――「天安門事件後に中国を擁護した日本」「胡錦濤時代は経済官僚を中心とした体制で、政府が共産党より優位に立とうとしたが、人民解放軍に対する統制も弱まった」「習近平は党が軍を統制し、内乱を抑えようとする」「一帯一路は覇権拡大を目的といわれるがそれ以前に中国企業への経済対策」「中国の理念が国際社会を主導する世界をめざすナショナリズム」「金持ちになると海外移住する夢」「韓国併合の捉え方」・・・・・・。
「ヨーロッパ統合の理想は崖っぷち」――「統合して大きなマーケットつくったEU。通貨統合に反対していたクルーグマン」「東欧はもともとヨーロッパ。トルコは希望しているがやはりヨーロッパとは違う」「EUの意志決定(行政は2万人の官僚のいる欧州委員会)」「イギリス経済の大陸への依存度は高い」・・・・・・。
「ロシアと中東――第三次世界大戦のパンドラの匣」――「対外的に強圧的なプーチン政権はジョージア侵攻、クリミア併合、ウクライナ東部紛争へ」「勝てる交渉にしか臨まない男プーチン」「中国もロシアも優位でいられる地域で展開して一線を画す」「トランプのINF条約破棄がロシア核開発を進めるゴーサインを与えてしまった。国際政治の前提を揺るがした(新START条約が2021年に失効、核拡散の危機)」「イラン攻撃が大戦争の引き金に」「アサド政権そしてイラン・アメリカの協力の土台づくり、米露衝突は避ける」・・・・・・。
「日本――この世界でどう生きる」――「日本を特殊と思いたがる日本人」「"日本人は大丈夫"は危ない」「2つの相対化――ナショナリズムとか日本人という帰属集団からの相対化と自分自身の相対化がないと排他的論理になる」・・・・・・。
二人の話はよく噛み合っている。
著者は動物行動学者。「動物行動学とは、『動物はどういう行動をするのか』『その行動にはどんな意味があるのか』『そのとき、その動物の中ではどんなことが起こっているのか』を観察し、研究する学問」「動物行動学の目を通した動物は、決して世間で思われている通りの姿をしていない。第一、動物の行動はそんなに単純ではない」「本書では『きれい』『かわいい』といった見た目の誤解、『賢い』『やさしい』といった性格の誤解、『亭主関白』『子煩悩』といった生き方の誤解について、実例から紹介したい」という。
「見た目の誤解」――。「アライグマはカワイイ見かけに反して攻撃的」「カラスは人間に嘴を突き刺すのはほとんど無理」「サメは思われているほど、大きな獲物を襲うのは上手ではない」「カモメはかわいがられるが、カモメ類はゴミ漁りの常習犯」「ハゲタカはハゲだから清潔に生きられる(大型動物の屍肉を漁るので毛は"じゃま")」「実は不潔ともいえないゴキブリ(媒介する病気は思い当たらない)」「チョウは花だけでなく糞にもとまる」「カラスは大変キレイ好きで毎日水浴びする(嘴を磨く、"カラスの行水")」・・・・・・。
「性格の誤解」――。「道具を自分で作れるカレドニアガラス」「日本のハシブトガラスは、餌を見つけると仲間を呼ぶ(フードコール)」「基本的に、動物は他人にやさしくなれない(利他的行動をしていたら生存も子どもを残すのも難しい)(集団を作るのは集団の方が楽)」「他種の子どもを育てるのは勘違い、気付いていないから」「ライオンやチンパンジーの子殺しは、子育て中のメスが発情しないから。殺せばすぐ発情する(ライオンが残したいのは自分の子孫)」「自分の子かどうかわかっていないカモ」「カッコウの托卵は信じられないほどリスキー(カッコウは自分で子育てをしない)」「ナマケモノは背中でせっせとコケを育てている(コケを自分で食べる)」「アフリカで一番ヤバイのはカバ」「コウモリは鳥が征服できなかった夜の空を手に入れた。超音波を発し、戦闘機のようなレーダー機能をもつ」「ネズミは多産ですぐ成長して繁殖できる(ネズミ算方式)。増やして食われても残っているものもいる方式」・・・・・・。
「生き方の誤解」――。「一匹狼というが、オオカミは群れる。群れるオオカミのなかで、移籍先を探している若い個体が一匹狼」「群れすぎてはぐれるペンギン」「ライオンのオスはトロフィー・ハズバンド」「オシドリは"おしどり夫婦"ではなく、メスを他のオスから守るために寄り添っている」「子どもに厳しい父カラス、子どもに甘い母カラス」「"こうやってごらん"型の人間、"トライ&エラー"型の動物」・・・・・・。
動物の生存戦略、必死に子どもを残そうとする姿が、改めて浮き彫りにされるが、人間は、どうも自分自身の行動原理を動物に投影し、勝手にイメージを作り上げているようだ。