日本企業の復活力.jpg戦後の日本を襲った4つの経済危機――オイルショック、バブル崩壊、リーマンショック、そして今回のコロナショック。日本はこれまでこれらの危機を「危機はチャンス」と乗り越えてきた。しかもコロナ感染の影響を欧米に比べて小さく抑えることができている。「このコロナショックを奇貨としてプラス効果を生み出せるポテンシャルも日本企業はもっている」「自粛を萎縮にしてはならない」「現在、日本企業は十分な経営体力をつけており、"背伸び"にも見える『オーバーエクステンション投資(過度拡張)』が必要だ」「ポストコロナの人材を育て、日本と海外の人材交流をもっと増やせ」「日本企業の復活とさらなる発展の可能性は十分にあり、ここは日本企業の正念場であり、分水嶺だ」と、日本企業の歩むべき道を描く。

ポストコロナで日本企業に大きなインパクトを与えるのは「世界経済の勢力図の変化、グローバリゼーションのブレーキ、デジタル化の加速」の3つ。「テレワークがあぶり出した日本の危機、そのプラスとマイナス」は、コロナショックのインパクトの大切な部分で、「働かないオジサンのあぶり出し」「場の共有による情報の受発信の意義(フィジカルに集まる)」「日本の組織マネジメントや雇用慣行の非合理の弱点をあぶり出す」。「ゆでガエル」に熱湯を浴びせ、改革が否応なく迫られるチャンスだと指摘する。「コロナショックによるデジタルインパクト」もそうだ。日本はGAFAMなどのプラットフォーム分野で劣後したが、ポストコロナで日本らしい「部品」「アナログベース」「ラストワンフィート」のヒトとITの巧妙や組み合わせで勝負できる。「顔認証をはじめとするアナログベース・デジタルシステムで日本企業は戦える。日本企業にとっては面白い時代になりそうだ」という。人材と投資が不可欠となる。

「逆張りのグローバリゼーション加速」――。国境でのブレーキが多少かかったグローバリズムとなる「ボーダーフルなグローバリズム」到来だが、「日本企業にとっては、この状況のなかであえてグローバリゼーションを加速することが必要だ」と指摘する。そして、ドーナツ型グローバリゼーションでなく、日本が従来とってきた「ピザ型グローバリゼーションで三方よし」「サービス産業のグローバリゼーションの可能性」を説く。ユニクロ、公文、セコム、丸亀製麺を例示する。さらに米中「新冷戦」は日本のチャンスという。「コロナショックが日本の産業を強くする」――不採算事業の整理とか、他事業との統合による拡大とか、ビジネスモデルの転換もコロナショックの産業インパクトだ。「製造業は2.4次産業へ、サービス産業は2.6次産業へ」と、本業を踏まえての構造転換を促す。

コロナショックの雇用・人事インパクトも大きい。「デジタル化加速でも、逆張りグローバリゼーション加速でも、人材の再配置や新しい人材の供給強化が必要」で、コロナショックの熱湯効果をチャンスとするのだ。「管理職の能力不足への対応」は、政治にも官僚にも当てはまることだ。評価基準は「人間力と実行力」だという。最後に、ある意味では最も基本的かつ重要な「成長への心理的エネルギーが最大の鍵」を強調する。日本企業はバブル崩壊の傷をまだ引きずっているが、「大切なのは自信」「自粛から萎縮へはなるな」「最重要の行動はオーバーエクステンション投資」「心理的エネルギーの源泉は利他の精神」という。そして「積極的に民間外交に貢献」「世界の産業図の再編成」という位の大きな志をもって「グローバリゼーション」「産業再編成」「デジタル化」に邁進してほしいと、勇気と希望、エールを送っている。


白鳥とコウモリ.jpg2017年秋、東京で善良な弁護士・白石健介の遺体が発見される。捜査が始まり、1984年5月、愛知県で起きた「東岡崎駅前金融業者殺害事件」とつながっていることがわかる。そして、「白石さんを殺したのは私です。そして愛知の灰谷昭造を刺し殺したのも私です」と倉木達郎という初老の男が名乗りを上げ逮捕される。自供は明白、事件は解決したと思われた。二つの事件には、愛知の事件の犯人として逮捕され、留置場で自殺した男の家族・浅羽母娘と倉木達郎の人知れぬ関係が介在していた。

しかし、倉木の息子の和真は「父はそんなことをする人ではない。どうしても信じられない」と思い、白石の娘・美令も「あなたのお父さんは嘘をついていると思います。うちの父は、そんな人間ではない」との思いを募らせていく。「真実を知りたい」――加害者の息子と被害者の娘、立場上は敵同士の二人が、まるで白鳥とコウモリが一緒に空を飛ぼうとするかのように、同じ目的に向かって手を組んで進むという驚くべき展開となる。「被害者の家族と加害者の家族の苦しみ」「罪と罰」が業火となって善良な者の心奥を襲う。宿業と因縁の世界が迫り、東野圭吾さんの描く世界に時空とも引き込まれる。「不器用」で「実直」な風土といわれ、中日ドラゴンズファンも多い愛知・三河地方の雰囲気もよく出ている。傑作長編。


虹色チェンジメーカー.jpg「年々、LGBTQ政策に取り組む企業が増えてきていて、本当に素晴らしいと思いますが、まだまだ都市部、人事部門、大企業が中心です。パワハラ防止指針でも取り組みが義務づけられましたし、今後もっと、地方、現場、中小企業へと広がっていくことが期待されます」という。村木さんは、認定NPO法人虹色ダイバーシティ代表。「LGBTQ視点が職場と社会を変える」が副題。「LGBTの当事者は日常生活でどのような困難を感じ、どのような社会を共に生きていきたいと望んでいるか」――。何に困っているか、という打開策もさることながら、生き辛さを感じ、苦しんでいる人の状況を知り、社会全体をあたたかなものへと変えていくことの重要性。「『LGBTも働きやすい職場づくり』、ひいては社会づくりの輪に加わり、アライ(LGBTの同盟者、支援者)として一緒に社会を変える力になってくれることを願っている」という。

「LGBTQであることは『趣味嗜好』ではなく、基本的に生まれつきのもので、自身の意志で変えられない」「SOGIは『性的指向』と『性自認』の頭文字。LGBTQという表現でもLGBは性的指向について、Tは性自認で別々」「LGBTQの働きやすい職場づくりは、他のダイバーシティ課題と一緒。就職時の困難、差別的言動、健康診断、アウティングのショック、職場での辛さ・孤立感、プライベートな話題、トイレ・更衣室・服装、育児休暇・介護休暇の付与」「トイレ利用にストレスを感じているトランスジェンダーの人は6割超。自認する性別のトイレを希望して実際にそちらを使っている人は、トランス男性の27%、トランス女性の35%。多機能トイレや男女共用トイレ」・・・・・・。先進的に取り組んできた企業の実例として、野村證券、ゴールドマン・サックス、ソニー、ライフネット生命(死亡保険金の受取人指定範囲の拡大)、大阪ガス、資生堂、楽天、NTTドコモ、グーグル、みずほ銀行、JT、LIXIL、TOTO、オムロンなどの具体例が示されている。


なんで家族を続けるの.jpg「選択的夫婦別姓」「同性婚」などが問題提起される今、「家族」についての対話は見逃せない。「私たちは"普通じゃない家族"の子だった」という二人。内田也哉子さんは樹木希林と内田裕也の娘であり、希林と裕也は同居していたのは最初の1~2か月、45年間はほぼ別居だが、娘のお宮参りなど、ことあるごとに写真館で家族写真を撮ったという。19歳で本木雅弘さんと結婚、三児の母として家族を最優先に生きてきたという。中野さんも大変裕福なエリートと思いきや、ご両親は離婚、親との葛藤を抱え込んできたという。

「2040年、日本人の半分が結婚を選択しなくなる」「アホウドリのカップルの3分の1はレズビアン(その時だけオスと浮気をし、子育てはメス2羽でする)(子育てと生殖行動は別)」「貞操観念はたかが150年の倫理観。本来、人間の性のあり方はもっと多様だった」「産みの親と育ての親はどっちの影響が大きいか(育ての親)」「知性は母から、情動は父から受け継ぐ」「脳科学は生理学の延長で自然科学、心理学は哲学の延長で考え方の仕組み」「生物にとっての最重要課題は、自身の生命の維持(集団のメリットと利己機能を削るストレス)」・・・・・・。

「家族のあり方というのは、一意に定まるようなものではなく、歴史的、民俗学的に見れば多彩な様式が存在した。その柔軟性が私たちにとっての生存戦略的な武器であった」「社会的な機能を十全に果たしていれば、家族というのは決して現在の私たちが刷り込まれているようなステレオタイプなものである必要はないはず」と中野さんはいう。「普通の家族とは何なのか」「家族ってこれでいいのか」と問いかけながら生きてきた二人の実感こもる対談。


エデュケーション.jpg凄まじい壮絶な人生の回顧録。タラ・ウェストーバーさんは、米国アイダホ州生まれ。ブリガム・ヤング大学、ケンブリッジ大学、ハーバード大学で研究者となった歴史家・エッセイストの女性。1986年、アイダホ州クリフトンでモルモン教サバイバリストの両親のもと、7人兄姉の末っ子として生まれ育つ。父親の極端な思想的呪縛の影響は強く、政府を目の敵とし、子供たちを学校に通わせない。科学や医療を否定し、民間療法を盲信、社会から孤立した暮らしをする。父親の廃品回収とスクラップの仕事は乱暴なもので、子供は命にもかかわる危険な作業を強制される。現実に爆発事故、落下事故、交通事故・・・・・・。親も子供も瀕死の大事故は、よくぞ何とか死を免れたと思うほどだが、身体に残った後遺症は大きい。父親だけでなく次男ショーンによる熾烈な暴力もタラを極限まで追い詰める。

あまりにも残酷、あまりにも過酷、深い絶望のなかで、タラは大学に行くことを決意する。学校に全く行っていない子供たちだが、絶望のなかで救いを求める光となったのが、彼女の強靭な意志、美しい歌声、凄い知力。「大学は私の人生を変えた」が副題だが、呪縛から離れて大学に行ったのではない。父母、兄弟の呪縛は、その後も間歇泉のように随時、噴き上がる。「あの場所は私に取り憑いていて、もしかしたら一生逃れられないかもしれない」と思う。ところが父は「結果から見れば、お母さんとお父さんが学校に行かせなかったのは正しかったんだ。ホームスクールのおかげだとなんで言わなかったんだ」「神の魂が歓迎されない場所(ケンブリッジ大)だったら、行くことはない」とまでいうのだ。愛憎のアンビバレント的関係に宗教思想原理の実践が加わったなかでも、家族の絆は放擲することができないのだ。最後の最後まで胸が締め付けられた。全米で大きな話題となったベストセラー。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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