image1.jpeg「南洲翁遺訓」の刊行は明治23年1月。戊辰戦争において西郷隆盛の寛大な処置にふれた荘内の人々が、礼と指導を仰ぎに次々と鹿児島を訪れる。そこで西郷隆盛の大きな人物と教えにふれ、感動をもって書き遺したのがこの「南洲翁遺訓」だ。酒井玄蕃は名高いが、とくに菅実秀と門弟等によって集録、篇纂。西郷の賊名が除かれたことを契機に明治23年1月刊行となった。

感ずるのは、人間の思想的骨格の太さ、ゆるぎなさだ。当時を反映し儒教等がその中核を成しているが、死線をくぐり抜け、維新回天の大偉業を成し遂げただけに、実践知、まさに知識・見識・胆識、まさに胆力を伴った見識が滲み出る。第21章、第24章にある「敬天愛人」――。「道は天地自然の物にして、人は之れを行うものなれば、天を敬するを目的とす。天は人も我も同一に愛し給うゆえ、我を愛する心をもって人を愛する也(第24章)」。「君子と小人(徳が才に勝る者と才が徳に勝る者)」「講学の道は敬天愛人を目的とし、克己を以て終始せよ」「命ちもいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕抹に困るもの也。此の仕抹に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり」「道に志す者は、偉業を貴ばぬもの也」「平生道を踏み居る者に非れば、事に臨みて策は出来ぬもの也」「誠はふかく厚からざれば、自ら支障も出来るべし(誠というものは深く厚く)」――。西郷南洲の大きな人物像、その仁徳、豊かな庶民的人間味、私に堕せず道に生きる、処分(対応力)・実践の人、「敬天愛人」の人間学が表出する。


ブロードキャスト 湊かなえ著.jpg中学時代に陸上部に所属していた町田圭祐。駅伝で全国大会をめざしていたが県大会で僅差で敗れる。エースの山岸良太を出していたらとの後悔が拭い去れずにいた。そして陸上の強豪校・青海学院高校に進学したが、合格発表の日に交通事故に遭い、肝心の足はギブスで固められた。高校での部活・・・・・・。同じ中学出身の宮本正也に誘われてなんと放送部に入部する。いつの間にか、ラジオドラマ部門で全国高校放送コンテストへの参加をめざすことに熱中していく。そこでも「部の代表として誰が選ばれ東京に行くのか」で葛藤が広がる。そんななか、中学時代の「山岸良太欠場の真相」を知ることになる。

青春のひたむきさ、それを包む大人たちの心遣いがさわやかな旋律を奏でる。


夜汐.jpg幕末の「あの破れかぶれの熱気」。尊王攘夷、大政奉還、王政復古・・・・・・。逃れられない"運命"としかいいようのないなかで、もがく人々。「その宿命ってのは戦とか尊王攘夷とか、そんな御大層なもんじゃねェ。もっとちっぽけで、俺らひとりひとりが抱えてるもんなんだ・・・・・・」。

吉原から幼なじみの愛する女・八穂を救い出そうと、賭場を襲わせたやくざ者の蓮八は、殺し屋・夜汐から身を隠そうとして京に上り、新選組に加わる。そこには「沖田はひとりぼっちで性質の悪い咳に悩まされ、芹沢は酒に酔い、近藤は仏頂面をぶらさげ、土方はうっとりと死に場所を夢見ている」という面々がいた。八穂から手紙をもらった蓮八は脱走し江戸へと向かう。殺し屋からも新選組からも追われ、必死で八穂を求めて進む蓮八。

運命をかみしめながら生きる各人の心中を描く名文は、余韻を伴なって心奥に迫り、あたかも芝居の名場面を観るようだ。「ありがとうございます。嗚咽の合間に、声を絞り出すのがやっとだった。・・・・・・時折胸を引き攣らせながら、蓮八はつぎになにが起ころうともそれは御仏の思し召しなのだと悟った。生きるために盗み、奪い、謀り、殺してきた。そのようにしか生きられぬ者は、やがてそのように死んでゆく。誰かが生き長らえるために、使い捨てられてゆく。その誰かもまた、誰かに使い捨てられる。昼と夜が交互に訪れるように、生と死もかわるがわるやってきては人を照らし、隠す」・・・・・・。


あなたに伝えたい政治の話.jpg2015年から3年間の評論――。安保法制、70年談話、日韓合意、沖縄、憲法改正、アベノミクス、加計問題、トランプ誕生、衆院選と野党、官僚の不祥事・・・・・・。これら難題はかなり構造的かつ深い位相をもっている。

「日本は、安全保障上の脅威にリアルにさらされることなく、延々と字句解釈を続けてきた」「安全保障論議を法律論だけに押し込めて語ってはいけない。日本の安全保障環境をめぐる情勢認識が最初にあって、それを踏まえてどのような安全保障政策が必要かという議論が必要」「情勢認識――中国の軍拡、北朝鮮の核武装、米国の内向き化」「積極的平和主義とは、現実と向き合って生きる覚悟を持つこと」「日本の安全保障論議にもっとも不足しているのは、政策判断をめぐるリアルな議論」「憲法学者への疑問」「宇宙やサイバーなどの新しい戦場における一定の戦力の確保」「どうして9条を変えなくてはならないか――9条2項の規定が現実と著しく乖離してしまっている」「シビリアン・コントロールの大原則を確立することと政軍関係」「自衛隊を軍事組織として位置付けることは、明白に憲法事項」「自民党2012年改憲草案は気持ち悪い」「日本型リベラルが9条信仰の道づれになって敗北すること」「口利き政治を誘発するのは官僚支配。国家が社会的な供給量を決めてしまうのは、社会主義が浸透しているから。国家は獣医さんの品質に関わるけれど、供給には関わらないこと」・・・・・・。

感ずるのは、はっきりしたもの言いと、徹底したリアリズムだ。


どんまい.jpg東京の郊外、十棟が並ぶ「ちぐさ台団地」。そこに草野球のチーム「ちぐさ台カープ」が結成されており、それぞれの人生模様が描かれる。人生は辛いこともあるが、いい。悔しいこともあるが、「どんまい」で生きていけば、そしてスポーツ仲間がいればなんとか乗り越えていける。

離婚して再スタートを切る洋子と中学生の娘・香織。ともに「負けず嫌い」で「いじいじと落ち込むぐらいならノーガードでも前に出る」という母娘だが、なんとこのチームに加わる。将大――プロで大活躍する有名投手・吉岡の元女房役、甲子園に出場した若者。田村――広島に要介護の親を抱え、週末に通うキャプテン。ヨシヒコ――生意気で嫌われてもカッコつけて生きる青年、野球はうまい。沢松――きわめて無口な職人肌、香織と同級の中学2年生。宮崎――札幌に残した家族を思う単身赴任サラリーマン。ウズマキ眼鏡の小倉――バントの達人だが、なぜかフルスイングにこだわる三振王。福田――息子の鍛え方に空回りする親父。橋本――三十路半ばの独身男。伊沢――亡き母を偲んでカレーライスを食べ続ける男。そしてこのチームをつくったカントク――広島の原爆で身内を失った老人。広島カープに熱烈な愛情をもつ人生練達の苦労人だ。

とくに洋子・香織の母娘のストレートと、カントクの味わいある緩い変化球がいい。重松ワールド全開。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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