18歳からの格差論  井手英策著  東洋経済新報社.jpg「日本に本当に必要なもの」「この生きづらい分断社会を終わらせる」「社会主義がきらわれ、資本主義もかなりくたびれている今、人間の顔をした社会をめざして智恵を出そう」――。図入りできわめてわかりやすく書かれているが、中身はきわめてしっかりしている。

「税への抵抗が強い社会は、誰かのための負担をきらう"つめたい社会"になっている」「貧困にあえぐ人びとを"見て見ぬふりする社会"を僕たちは生きている」「社会に数々の"分断線"が引かれ、人間を信頼しない社会になっている」という。そして「3つの分断の罠」を提示する。第1は「再分配の罠」(困っている人を助けようとすると中間層が反発する。格差是正の必要性を訴えるほど、負担者となる中間層の痛みが増し、貧しい人への非難が始まる)、第2は「自己責任の罠」(成長の行きづまりが、生活の行きづまりになる。国に借金が残り、社会保障の抑制や公共事業の削減が始まり、政府への怒りがわきあがる不幸の連鎖)、第3は「必要ギャップの罠」(お年寄りの利益が優先され、深刻な世代間対立が生まれている)だ。日本は「働くことが前提の自己責任社会、勤労国家」だったが、その前提の経済成長が崩れはじめ、社会経済の変動に対応できなくなった、という。

そして、「規制緩和、グローバル化、人件費削減が加速」「賃金が下がりつづけ、デフレ経済に突入、家計貯蓄率もほぼゼロ」になっている。

そこで、「更なる成長の道」か「成長には頼らない道か」の決断が迫られる。井手さんは、「発想を大転換し、思い切って中高所得層も受益者にする」「"必要の政治"によって格差是正を結果に変える。国と地方が、それぞれの役割を果たし、できるだけ多くの人に負担をしてもらい、可能な限り多くの人にサービスを提供する」「弱者を助けるのではなく、人間の必要を満たし、弱者を生まないようにする」「所得制限をふくめて、貧しい人たちにも、所得の多い人たちにも分け隔てなくサービスを提供する」という。さらに「分断線を消す、そして、自分の生き方を自分で決められる社会へ」という。巷間の格差是正論に「サービスを分厚くするために負担から逃げない」と、全く違う切り口で挑む。


新しい幸福論.jpg経済成長率を上げるより、国民が心豊かな、幸せを感じられる政策を考えることが重要ではないか。現実に格差は拡大し、人々の生活の満足度(幸福度)は低下してきている。これを「経済的豊かさと人々の幸福度との関係」を柱に分析している。

「日本はアメリカほどではないが、格差拡大中の国である」「高くなるお金持ちの所得額と資産額」「ここ30年弱の間に貧困率が12.0%から16.1%に増加している(貧困者の定義は相対的貧困者で、国民の何%の人が貧困かの比率)(とくに高齢者と単身者と女性、母子世帯)」「弱い再分配(税と社会保障)政策」「脱成長路線への政策」などに論及。そして「脱成長路線を支持する私であっても経済成長率をマイナスにせよ、とまでは主張しない。日本は少子高齢化のなかにいるので、労働力不足と家計消費の低下は避けられない。生活水準の低下を招く負の成長率は避け、せめてゼロ成長率(定常状態)にすべき」「成長論者は格差問題を無視する傾向が強いが、格差是正は大切。格差拡大を放置すると、経済成長にマイナス効果が発生する」「格差社会である限り、家計所得の増大は富裕層に向かう。分厚い中間層が減少する。それは経済活動に最も貢献する有能な労働者の減少でもある」「日本の成長戦略は、格差社会を是正する手段を同時に講じないと成功しない」「格差(ジニ係数と貧困率)と経済成長の国際比較を見ると、格差の存在が経済成長率を下げた、といえる」・・・・・・。

こうした分析をしつつ、「心豊かで幸せな生活とは」と哲学も含めて分析。「いま、何をすべきか」を、若い世代、高齢者、女性について提案している。


戦争が大嫌いな人のための正しく学ぶ安保法制.jpg国家国民の安全をどう守るか。北朝鮮の昨今をはじめとして日本周辺の安全保障環境の変化にどう対処するか。国際社会の平和と安全にPKOをはじめとして、日本はどう関わるか。この2年余、国会で議論し、成立した平和安全法制。

政治は、国際情勢にしても経済においても、どこまでもリアリズムが貫かれなければならないと思う。煽情的な政治、ポピュリズムの政治に陥ることを戒めなくてはならない。

小川さんは「集団的自衛権とはそもそも何か」「平和安全法制はどんな法律が含まれているか」「集団的自衛権と集団安全保障はどう違うか」「自衛隊の国連平和維持活動(PKO)参加の実情」「ROEとは何か」「自衛官が"戦死する"というデマ」「若者は徴兵されるのか」「平和安全法制と憲法9条」などを、軍事アナリストとして国際社会のリアリズムのなかで丁寧に整理して解説している。そして「安保法制で日本の平和と安全は高まる。"戦争法""戦争ができる国になる""自衛官が戦死する""アメリカの戦争に引きずり込まれる"などは誤りであり、デマである」と、安全保障の根幹と実態から指摘する。


通貨の未来 円・ドル・元.jpg英「エコノミスト」誌が直近に執筆した、「通貨」に関する記事を集めて一冊に編んだもの。複雑化する世界経済を見通す鍵として「通貨」の角度から分析したものだ。

焦点は何といっても米国、ドル。次いで元だ。「この70年間、世界の金融・通貨システムに君臨してきた基軸通貨、ドルだが、その力を支えてきた米国の経済力は弱体化し、この覇権のぐらつきによって世界経済は急激に不安定化している」「米国はIMF、世界銀行、WTOといったグローバルな経済的枠組みに責任を果たさないようになっている。その原因は、国内の中流層の没落とリンクした国内政治での左右両極のポピュリストの台頭にある」「急速に拡大している米国外のドル資産、オフショアドルの世界。このドル資産をもとに米国以外の国は経済を運営しているが、そこには危機の際に国家や金融機関を救う『最後の貸し手』がいない」「世界各地に着々と人民元取引のネットワークを築いている中国だが、それは中国国内の完全自由化とトレードオフであり、習近平のジレンマだ」「通貨の未来――ビットコインとサイバー上におかれる改竄できない公開台帳『ブロックチェーン』の技術は、為替リスクのない信頼できる究極の基軸通貨にすることができるのか」・・・・・・。

米経済や中国の政治・経済をイギリスからの視点で語り、円についても「マイナス金利」「アベノミクス」について述べている。米国の「金利上げ」をとってみても、世界の経済全体がリンクして激震の波が伝播していることが実感させられる。


日本人はどこへ向かっているのか.jpg2012年から3年余、雑誌「潮」や読売新聞等で発表してきた文章をまとめたもの。この間、世界も日本も政治・経済・社会の激動が続いたが、その激動の底流にある人間、人心、文化、文明の大きな変化から解き明かしている。まさに如実知見。哲学と教養が心奥に届き響く。掲載された都度、「『持続可能な成長』を脱却する」の定常型社会論をはじめとして、安倍総理とコピーをもとに話し合ったことも多々ある。現代社会の本質を剔り、その確たる動体視力が素晴らしい。

「高学歴・低学力という病弊」「世は無常であることを痛感するがゆえに、今日を常の通りに生きようとする、という積極的無常観のすすめ(今日を深く味わう生き方)「混迷を極める"道徳感情"」「"介護の社会化"が家族を救う(新しい家族関係)」「(科学技術の進展のなか)だからこそ今必要なのは人間とは何かという哲学」「戦争を起こし、一転して再び平和な日常に回帰した日本人の"律儀"と呼ぶ倫理感覚」「目を覆う高学歴・低学力化を変えるには、まず義務教育の再構築」「教養と知的能力を備えた社会人を育てるに十分な教育を」「人生十年先延ばし論」「国立戦没者追悼施設のための議論を」「ポピュリズムとナショナリズム」「若者の労働観を抜本的に変える教育を」「18歳選挙権とそこに欠落している権利は勝ち取るものだという歴史の教訓」「戦争犯罪を詫び続ける理由」「知的エリートによる戦後復興」「人類史的大転換に知的に衰弱した日本社会は対応できるか」「煽情的な政治運動、ポピュリズム的な大衆感情をいかに賢明に防げるか」「政治に知性の安全弁を」――。この哲学不在の時代、いずれも改めて感銘を深くした。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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