doguu.jpg「土偶は縄文人の姿をかたどっているのでも、妊娠女性でも地母神でもない。『植物』の姿をかたどっているのである。それもただの植物ではない。縄文人の生命を育んでいた主要な食用植物たちが土偶のモチーフに選ばれている」「土偶は食用植物と貝類をかたどっている」と言い、「ついに土偶の正体を解明しました」と宣言する。副題は「130年間解かれなかった縄文神話の謎」。

「土偶は何をかたどっているのか」「土偶はどのように使用されたのか」については、諸説あるものの、いずれも客観的な根拠が乏しく、研究者の間でも統一的な見解が形成されていない。現在の通説では「土偶は女性をかたどったもので、自然の豊かな恵みを祈って作られた」と言うが、竹倉さんは違うと真っ向から切り込む。土偶プロファイリングとして、「ハート形土偶」「合掌土偶・中空土偶」「椎塚土偶」「みみずく土偶」「星形土偶」「縄文のビーナス・カモメライン土偶」「結髪土偶」「刺突文土偶」「遮光器土偶」を解析する。そして「縄文人の生命を育んでいた主要な食用植物、貝類が土偶のモチーフに選ばれている。決して人体像ではない」ことを明らかにする。オニグルミ、クリ、ハマグリ、カキ(イタボガキ)、貝のオオツタノハ、トチノミ、イネ、ヒエ、サトイモが上記それぞれのモチーフだと示す。極めて面白いのは、まさにそれが現在のLINEスタンプのキャラクターであったり、地域キャラクターに土偶が酷似していることだ。生活密着、地域密着の土偶であることが浮き彫りにされる。また縄文=狩猟採集、弥生=農耕ではなく、縄文人が植物の栽培や半栽培、あるいは野生種の栽培化を行っていたことが現在では次第に明らかになっているが、この土偶の解析を見てもそのことがよくわかる。土偶はなぜ作られたのか。「魔的な力の襲来が、人間だけでなく、人間が養育する植物にも及ぶが故に、われわれ人類は栽培植物に対しても呪術的な手段を持って神的な守護を張り巡らせようとした。道祖神の招来によって集落を守護するのと同様の心性によって、縄文人はサトイモたちを魔的な力から守ろうとした」と、守護者としての役割を明らかにする。そして定説として確立されることを願い、挑んでいる。大変興味深い。


ukuraina.jpg「帝国主義に逆襲される世界」が副題。峯村健司さんが、小泉悠、鈴木一人、村野将、小野田治、細谷雄一氏と行った対談。現在の最大の問題について、学者というよりも率直にジャーナリスティックに語っており、俯瞰的で深く長く、現在の時点を浮き彫りにしている。

「奇しくもプーチン、習氏は、冷戦期や2つの世界大戦よりも前に時計の針を戻し、共に『帝国の復活』を目指して、国際秩序を塗り替えようとしているのだ」「冷戦期のように、アメリカと中国による2極化を基軸としながらも、帝国主義時代のような複数の大国によるパワーポリティクスが繰り広げられる。冷戦後続いてきた安定期とは明らかに異なる、パワーがむき出しになる世界が到来したのだ」「1980年代後半には世界のGDP7割近くを主要7カ国(G7)が占めていた。だが2014年にはその割合は5割を切り、影響力は相対的に低下している。インドの台頭もめざましく、インドネシアやブラジルといった『グローバル・サウス』はさらに影響力を増す」とし、「ポスト・ウクライナ戦争」の新秩序作りに影響力を持てる大国として日本が踏みとどまることができるかどうか、国際秩序の変動期に差し掛かっていることを、政府だけではなく国民一人ひとりが自覚することが大切だという。覚悟の時だ。

「ロシアはウクライナの軍隊や国民を舐め切っていた。ロシアを勝たせてはいけない。ロシアは大国でなければならないという国民意識がある。プーチンを増長させたバイデンの弱腰。自衛の能力と意志がなければ他国は助けてくれない。19世紀的『ネオ近代』の到来」などと小泉氏は「プーチンの戦争・習近平の夢」で言う。

続いて「武器を使わない戦争」と題する鈴木氏との対談。「第一次世界大戦も大義のないままに始まった。緊張が高まる以前に、プーチンが勝手にウクライナとの国境周辺に兵隊を集めた。緊張が高まっていなくても戦争が始まる怖さ」「経済制裁でプーチンの行動を止められるわけがない。国際関係は、いわば気合と根性の世界なのだ。覚悟を決めた国は簡単に相手の言うことを聞かない」「日中間に仕掛けられている相互依存の罠。デカップリングは無理」「経済安全保障推進法の成否は企業の自覚次第。人権侵害や人道上の問題はビジネスと関係がないという認識はもう時代的には許されなくなっている」「安いからとロシアにガスを頼ったドイツは、それでも原子力発電はやらず石炭による火力発電を再開。論理がめちゃくちゃ」「同盟が重視される時代へ」「同盟国がただ頼ってもアメリカは助けてくれない」などが語られる。村野氏との「苦境に立つアメリカ」の対談では、「ウクライナ侵攻前から弱まっていたアメリカの抑止力」「核の脅しは効く、と言う自信をロシアに与えてしまった」「2027年までに台湾危機、を裏付ける中国軍の航空戦力増強」「日本にはどんな打撃力が必要か」「中国の保有する核弾頭は500発程度といわれるが、2030年までには倍増する」「ロシア・ウクライナ戦争では、ルールに基づく国際秩序に対して力による現状変更を試みたプーチンの選択は失敗だった、と言う教訓を作ることが重要だ」・・・・・。

「台湾有事のリスクとシナリオ」での小野田氏との対談。「ロシアは1週間でキーウを制圧するつもりだった。そもそも戦意がないし、スマホで連絡しあって傍受されていたロシア軍」「人民解放軍創設100周年の2027年は要注意」「中国軍の揚陸能力は侮れないが台湾上陸作戦は難しい」「ケイパビリティ(質的概念)とキャパシティー(量的な概念)を区別して評価せよ」「中国軍の航空能力はあと5年でアメリカと対等に?」「自衛隊では新しい戦闘機を買うのに15年かかる」「安全保障よりも経済が一番大事、と言う人たちの存在」「ロシアは戦争防止のための人類の努力と英知の蓄積を破壊した」・・・・・・。

「パワーポリティクスに回帰する世界」での細谷雄一氏との対談。「民主主義国は人口ベースでは既に世界のマイノリティー。最も懸念されるのは、ロシアや中国の脅威それ自体より、むしろグローバル・サウスと呼ばれる地域の国々(まだ欧米側にも中露側にも属していない)が、外交的圧力と経済的インセンティブによって中露に近づいていくこと。民主主義諸国は過半数を割り、一部の特権的な白人中心の富裕国のようにみなされる」「グローバル・サウスがそうなると、国際的な不正義がますます拡大し、ジャングルになる。19世紀的な国際秩序への回帰であり、むき出しのパワーポリティクスとなる」「そうならないように、国際社会が結束してロシアの野望を挫折させることが重要。秩序が大きく変わろうとする時、国際的規範を崩壊させないためにはロシアの野望を挫折させることだ」「国家の安全を守る手段は個別的な自衛権集団的自衛権を用いた同盟集団安全保障としての国連――だ。国連に過剰な期待をするのも、過小評価するのも間違いだ」「アジア・アフリカにアウトリーチするのが日本の役割」「日本は米英とは異なる民主主義を発展させてきた。自信を持って自らの民主主義を世界に語るべきだ。日本は、普遍的な正義の実現よりも、妥協的な秩序の安定を求める政治文化がある。だから頻繁な政権交代が起こらない。それこそが日本の民主主義の特徴だ」「ウクライナも台湾も米中対立における『中間地帯』の取り合いだ」「ロシアもウクライナも両方悪い論は適切ではない。自分たちさえ戦争に巻き込まれなければ良いという利己主義であり、ニヒリズムとエゴイズムに陥らず戦わなければいけない」などと言う。

いずれも、「国土を守るという精神」「ルールに基づく国際秩序を世界に定着させる努力」を強調する。


リバー.jpg群馬県桐生市、栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で若い女性の遺体が相次いで発見された。いずれも首を絞められ全裸、両手を縛られて殺害される共通点があり、同一犯と思われた。刑事たちのみならず、その地域の人たちは胸がざわつく。というのは、10年前に同じ河川敷で若い女性の全裸遺体が連続して発見されており、しかも未解決事件となっていたのだ。「リバー事案」「渡良瀬川連続殺人事件」と呼ばれ、その手口からも同一犯と推定された。

隣接する桐生市、太田市の群馬県と足利市の栃木県。多くの人が執念の捜査に乗り出す。群馬県警では、斉藤一馬警部補やベテランの内田警部。加えて10年前に娘を殺された写真館を営む松岡芳邦。彼はこの10年、毎日河川敷に出かけ、「犯人は必ず来る」と写真を取り続けていた。また、栃木県警では平野警部補の班が結成され、足利北署刑事第一課の若手・野島昌宏が担当。加えて、10年前に池田清を犯人として追い詰めながら逮捕できなかった悔しさを持つ元刑事・滝本誠司が動き出す。

捜査線上に3人が絞り出される。まず池田清、暴力団とも、覚せい剤とも関係したサイコパスだが、今回の取り調べでも警察を翻弄する。もう一人は、県会議員の息子で引きこもりの平塚健太郎。調べてみるとこれが普通では全く理解できない多重人格者、違う人格が突然現れてくるのだ。そしてもう一人、太田市の大企業・ゼネラル重機で配送係として働く期間工の刈谷文彦。別件逮捕となるが、全く沈黙して答えない。外国人労働者も多いこの地域の日常が背景として浮かび上がってくるが、なかなか捜査は進まない。そんななか、恐れていた事件が発生する。三人目の被害者が河川敷で発見されたのだ・・・・・。

警察、検察、マスコミ、被害者遺族、容疑者の家族、容疑者を守ろうとする女、犯罪心理学者・・・・・・。648ページの長編、しかも容疑者三人が早々と示されるが、最後まで緊迫した状況に連れていかれる。とにかく容疑者3人も、娘を殺された親や元刑事の10年にわたり執念も、現職の刑事や新聞記者も、凄まじいほどキャラが立つ。ネットによるパパ活、売春の日常化。外国人労働者の多い地域での地域の安定化策。現在社会をも浮き彫りにする卓越した犯罪小説。


nihonjinga.jpg「中国東北部の建築遺構を訪ねて」が副題。満洲国は、13年半ほどしか存在しなかった「国」だが、日露戦争、ポーツマス条約以降を考えれば、日本が約40年、「満洲は日本の生命線」というように投入した熱量はきわめて大きい。多くの歴史書や小説を読んできたが、本書は船尾修氏が、旅順、奉天(瀋陽)、新京(長春)、大連、ハルビン、安東(丹東)などを回り、建築遺構を訪ねて文を書く、写真紀行だ。きわめて面白く、「満洲とは何であったか」が浮き彫りにされる。しかも満洲全域にわたって俯瞰的に時代を見るがゆえに、きわめて有益であった。

 満洲事変の舞台となった奉天、原野の首都建設計画の新京、満鉄の存在と役割、皇帝・溥儀が信じた偽りの復辟、ハルビンの悪魔の誘惑と731部隊、ロシア系ユダヤ人の受難、炭鉱の都・撫順・・・・・・。地図と事件が結びついてきた。


beniiron.jpg吉村昭と津村節子夫妻。それぞれ自立した作家でありながら二人三脚。作家というとてつもなく厳しい世界に身を置き、徹底した取材で透徹した世界を描ききった吉村昭。「3日以上家を空けられない。とにかく書斎に入りたいの。書いているうちにわからないことが出てくればまた行く。だから長崎にも107回も行った。一緒に長崎に行っても、あの人は取材だけなのよ」「ぱっと出かけるのよ。異常な執念よ」「あなたが(大河内昭爾)、司馬さんを史談小説、吉村のは史実小説と区別をしたのはうまいです吉村昭さんは文明論をやらないで、史実しか書かない」・・・・・・。凄まじい世界が語られる。小説家として生きる事は至難の業。吉村昭は「絶海の孤島から壜に手紙を入れて流し、拾ってくれる人がいるのを待っている心もとなさだ」と言ったという。吉村昭・津村節子夫妻は、ひたすら同人雑誌に書き続けた。本書を通じて作家として生きる執念を感じる。

 「火事明リ」「遊園地」など津村節子の短編にはキレがある。「追悼・吉村昭――ストイックな作家の死」という津村節子と大河内昭爾の対談は、吉村昭の凄さを私生活からも抉り出している。「桜田門外の変」にも「尊厳死の否定」にも触れ生々しい。「ポーツマスの旗」「戦艦武蔵」の俊敏な取材や鋭い歴史感覚に納得する。「夫が『花の好きな女だなあ』と言っていた。・・・・・・私はあじさいが好き」「飛脚の末裔――せっかく散歩しているのに、お前の先祖は飛脚か、といった吉村の声を思い出した」など、とても面白く心に響いてくる。

 「観光地のあり方」の中で「かれは桜田門外の変は2.26事件と通じるところがある、と言っていた。維新と敗戦という共に内外の情勢を一変させた原動力で、井伊大老暗殺事件を書いた作品の中に坂本龍馬についての記述はあるが、さして重要な役割を果たしているようには書かれていない」とある。安倍元総理銃撃事件の後だけに、特別な思いにふけってしまう。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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