「トランプ・ショックの本質を読み解く」が副題。第二次世界大戦以降築き上げてきた世界の秩序が次々と打ち破られる世界。特に突然のトランプ関税で世界を混乱させるトランプ。その本質は何か。「世界経済の解像度を上げる一冊」と帯にあるように、ズバズバと「主流派経済学」「貨幣論」「新自由主義」「グローバル・インバランス」「テクノ・リバタリアンと暗号通貨」などに切り込み、「問題は関税ではなく、通貨である」「(トランプ大統領自身の見解は、ともかく)第二次トランプ政権が企てているのは、既存の国際経済秩序、とりわけ国際通貨体制を再編することである」「その企ては必ず失敗する。ただし、それはリベラルな国際経済秩序を復活させるのではなく、その崩壊を決定つける。戦後のドルを基軸通貨とする国際経済秩序が終焉を迎える可能性すらある」と言う。
安全保障と為替に入らず関税交渉をするというのが、今回のトランプ関税交渉の入り口だったと思う。事実、そうした展開のように見える。しかし第二次トランプ政権の大統領経済諮問委員会(C EA)委員長になったスティーブン・ミランの「マールアラーゴ合意」に注目する。それはスミソニアン合意やプラザ合意と同様に、狙いは「ドルの切り下げ」だと言う。「ミランの認識ではドルは過大に評価されており、それがアメリカの産業競争力を損ない、製造業の雇用を奪っている」「アメリカは、世界に流動性を供給するために、経常収支を恒常的に赤字にしなければならない(トリフィンのディレンマ)」「その義務の負担が経常収支の赤字を生んでいる。その負担も限界に達しつつある」「アメリカが相対的な経済規模が縮小しているのに、準備通貨国としての地位を維持し続ければ、国際競争力は、ますます弱体化し、製造業の雇用は失われ続けるであろう」と主張しているのだ。安全保障も含めてもはや耐えがたいと言うわけだ。
アメリカの貿易赤字と財政赤字――。ニクソン・ショックと符合する。ニクソンは一方的にドルと金への交換を停止したが、トランプも国際協調ではなく一方的に国際通貨体制を再編しようとしている。だから、「本質は関税にではなく通貨にある」と言う。
「商品貨幣論(貨幣は交換手段となる商品)」と「信用貨幣論(貨幣は特殊な『負債』の一種、ケインズ、シュンペーターなど)」「貨幣は負債の発生によって創造され、負債の解消によって消滅する」「『特殊な負債』とは、具体的には、政府の負債(硬貨)、中央銀行の負債(中央銀行券、準備預金)、そして民間銀行の負債(銀行預金)」を解説する。シュンペーターは「銀行が『信用を創造する』、すなわち、銀行が貸し出しという行為の中で預金を創造すると言う方が、銀行が預託された預金を貸し出すと言うよりも、ずっと現実的である」と言っている。そして、「信用貨幣論のレンズを通して、財政を見ると、自国通貨を創造する政府にとって、収支の均衡を目指す『健全財政論』は意味をなさないことになる。財政運営の指標は、財政収支ではなく、例えば失業率、インフレ率、金利水準といったものになる(失業率が高い場合には、財政支出を拡大したり減税を行ったりして需要を拡大すべきである。逆に完全雇用を達成し、かつインフレ率を抑制すべき状態にある場合には、需要が供給を超過しないようにするために財政支出を抑制したり増税したりすることになる」・・・・・・。トラス・ショックの真因について分析、「年金基金による保有国債の投げ売り、インフレ率が約10%と高かった」などを上げ、機能的財政に則るべきことと、政府の財政政策と中央銀行の金融政策の協調の大切さを指摘する。
「ニクソン・ショックと同じことを企てているのがミラン、第二次トランプ政権ということになろう」――。しかし、「トリフィンのディレンマは存在しない」「ミラン論文の欠陥(ドル安を誘導できない)」、さらに、「中国による米国債の売り浴びせは、経済的な打撃を与えるためではなく、アメリカによるドル資産の凍結を恐れて、米国債を売却している」と通常の逆の見方を示している。「通貨安を誘導したとしても、自国の貿易収支が改善するとは限らず、むしろ悪化する可能性すらある」などを指摘する。
問題は「グローバル・インバランス」。新自由主義とそれがもたらすグローバリゼーションの結果、労働者の所得の低迷とバブルとその破裂による金融危機の繰り返し、世界経済の構造的不均衡、グローバル・インバランスを分析する。「輸出主導レジームの国々が成長戦略を図り、賃金を抑圧し、消費需要を拡大しようとせず、アメリカが提供する需要に依存している、これがグローバル・インバランスをもたらした」と言い、第二次トランプ政権の関税措置は、ベッセント財務長官が言うように、この是正を狙いとすると指摘する。「グローバル・インバランスは、新自由主義の産物であり、これを是正し、国際通貨体制を再編するのであれば新自由主義のイデオロギーを放棄しなければならないが、第二次トランプ政権、ミランやベッセント等は、新自由主義を信奉し続けている」「例えばドイツは輸出主導レジームの行き詰まりにより、ついに積極財政による内需主導の成長を決断し動き出した」・・・・・・。
さらに、アメリカはテック業界の大物たちに見られるように、テクノ・リバタリアン、新自由主義よりもさらに過激な自由放任主義が台頭している。また反対に先崎彰容教授が指摘しているように、、バンス副大統領などの若手には、地域・家族・保守革命(古き良き時代のアメリカ)の台頭があり、アメリカの振れ幅は大きい。結局、「グローバル・インバランス、低賃金、格差の拡大など、新自由主義が生み出した問題を新自由主義者たち(第二次トランプ政権)は解決できず、失敗するであろう」と言っている。
ドル本位制ともいうべき基軸通貨国特権が弱体化していく時、世界はどうなり、各国はどう動くか。「アメリカと共にの選択をするとならば、日本は賃金主導の成長を実現し、内需主導のレジームへと転換する必要があるし、アメリカはその新自由主義と訣別しなければならない」と言う。
著者は、先入観や通説を疑い、全てを総動員する議論を求めている。大変な激動の時代、重大な岐路に差し掛かっていることは間違いない。
国債と言うと「1100兆円の国の借金」とか、「令和7年度歳出115兆1978億円で、国債費28兆2179億円、社会保障38兆2938億円、防衛関係費8兆6691億円、地方交付税交付金等18兆8728億円、公共事業6兆858億円・・・・・・」。一方、「令和7年度歳入は、所得税22兆6660億円、法人税19兆2450億円、消費税24兆9080億円、特例公債21兆8560億円・建設公債6兆7910億円・・・・・・」などがすぐ頭に浮かび、「長期金利が上昇している」などが話題となる。
本書は「国債の基礎知識について包括的に解説する」としたもの。表題の通り、日本の国債の仕組み、債券や証券、日銀の市場操作などの金融政策、銀行や生命保険の運用等を通じ、日本経済の変化を理解できるようにと丁寧に解説する。
「『金利』は利子(クーポン)を意味するのではなく、債券のリターンを指す」「だから、金利が上がると債券価格が下がる」「イールドカーブ(年限と金利の関係、利回り曲線)」・・・・・・。「証券会社と国債市場の重要な関係(財務省による国債の入札、証券会社は国債の営業を担う)(国債のマーケット・メイク)」・・・・・・。「日銀の役割と公開市場操作(オペレーション)」・・・・・・。
「国債からわかる日本の金融政策史:量的・質的金融緩和から、量的縮小へ」ーー2013年4月の量的・質的金融緩和(QQE)(マネタリーベースを年間60兆〜70兆円程度増やす目標)。2016年1月のマイナス金利政策(日銀の当座預金の1部にマイナス金利を付す)。イールドカーブ・コントロール(YCC)。そして「2024年3月、YCCを撤廃するとともに、マイナス金利政策を解除、利上げ」・・・・・・。
「銀行や、生命保険会社と国債投資の関係」「日本国債はどのように発行されているか(60年償還ルールと借換債)」「デリバティブを正しく理解する(レバレッジと証拠金)(金利スワップ)」「短期金融市場と日銀の金融政策(国債購入の減額と量的引き締め:QT) (短期国債の大部分は外国人投資家が保有) (大部分の日本国債は現在国内投資家に保有されているが、2024年時点でも日銀の保有割合を除くと、外人投資家による保有割合は3割弱で増える可能性も)」・・・・・・。
複雑で、デリケートな国債の世界から経済の動向を見る。
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