1789200517486.jpg速斗と一樹はサッカーのコーチ・巽に追われ、廃校となった小学校に逃げ込む。そこで光汰朗を発見、駆けつけた透真らとともに怪我をしている光汰朗を救出する。巽は児童虐待で逮捕される。安堵と喜びに包まれるが、その後光汰朗は、「オレをつれていったの、逮捕された、あの人じゃない」「本間先生」「本間先生から、あの日、お前の家は人殺しだって、言われた」と言う。光汰朗の通う小学校で定年後に図工の専任講師を務めていた本間尊が監禁したという驚くべき発言だ。本間は逮捕される。本間は轢き逃げされた田村真也くんの担任で、「25年前、誘拐事件の直前に、新沼家の紗英さんか父親の忠治さん、どちらかが小学生の田村晋也くんを轢き逃げした」との噂を信じて新沼家を恨み、孫を攫ったという。

透真はL新聞に、「忘れざる夏」(噂はなぜ広がり、止められなかったのか)のコラムを書き反響を得る。「心配し、気遣う気持ちとともに、噂が広がる一因となるのはまぎれもなく私たちの興味と好奇心だ。悪意だという感覚すらなく、わかりやすい真実を求めて、地元だからと事件に前のめりになる」・・・・・・

その後、事件は驚くべき展開を見せる。服役中の久我受刑者が長男、次男等に手紙を送り、自分が田村真也くんを車ではね、死亡後に遺体を遺棄したというのだ。これをどう受け取ったらいいのか。時効となり、関係者は静かに生きようとしてる者もあり・・・・・・。その重い結末は・・・・・・

本書の圧巻はミステリのどんでん返しなどの展開ではない。被害者家族、加害者の長男・次男、行方不明となる子供の担任・学校関係者、報道する側の倫理、そして小学生自身の純粋な心の優しさ美しさ----。その葛藤、苦悩、愛憎のアンビバレンツが実に深く抉り出される。愛娘を失った新沼忠治の抑制された丈夫の心、親をこれほどまでにと思うほど気遣う小学生の光汰朗たち、逮捕された教師・ 本間の真也への思い・・・・・・。ミステリの筋立てとは別次元の辻村深月の世界が押し寄せ、人間の思いやりの深さと素晴らしさを感動のなか噛みしめる。「失ったものと、得たもの。覚悟して行動した先に、傷ついても、それでも得られた絆がある。言葉がある」――。それが最後の一行、「小蒔山を秋の太陽が照らしている。眩い光がプリズムを作り、光の粒が雪のように自分たちに降り注ぐのを――その時、透真は確かに見た」とある。噂の「ファイア・ドーム」が、光の粒の「スノー・ドーム」と転化する。

勿論、本書のテーマが、噂の「ファイア・ドーム」の恐ろしさにあることは間違いない。「負の言葉一つの破壊力に、どれだけ人の心が傷つけられるか」「噂は軽薄な娯楽だ。一時、興じて、あとは忘れる。消費して捨てる。その時にどれだけ熱くなったとしても、意図的に責任から逃れるよりも、ある意味では罪深く、だからこそ、恐ろしい」「狭い地域の中で、噂になったら生きていけないから」・・・・・・

「ファイア・ドーム」の辛酸を舐め続けた忠治は久我の息子たちに言う。「私たちみんなで、一緒に背負おう」・・・・・・。胸に迫り、涙腺を揺さぶる小説だ。噂の刃を乗り越えるのは、苦難を共有する人間の心の深いつながりにある。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

太田あきひろホームページへ

カテゴリ一覧

最新記事一覧

月別アーカイブ

上へ