塩田さんの初期の3つの短編と今年の小編。切れとユーモア溢れるとても良い話。
「小さい上司」――。いい加減でテキトーでケチで飲み会でも"途中ドロン"の係長・小山田義男。新入生の吉村啓太は、仕事は適当に振られるし、笑うしかない呆れることばかり。しかし啓太は小山田が両親の看病をしていたことを知る。職場の人はそれもわかっていて接していたのだ。誰とも何でも話し合えた学生時代だが、「社会人の人間関係はまるで違う。極端に言えば、互いに仮面をつけたまま、付き合いを重ねていくようなものだ。今のようにふと画面がずれたとき、見たこともない素顔を目にすることになる」「彼は愛すべき人。そう思うと腹も立たない。啓太は少し、大人になったように自覚した」・・・・・・。しかし、この上司、「小さいなぁ」・・・・・・。なんとも面白い。
「鈍い火」――。小学生が意識不明の重傷を負った交通事故裁判の担当になった新聞記者の瀬戸山育郎。執行猶予3年、加害者の態度、事故が起こるような場所じゃない一方通行の道路などに違和感を持った育郎は独自で調べ始める。驚くべき真相と結末が----。鮮やかだ。「人生の天秤は必ず未来へ傾く」・・・・・・。
「仮縫い」――。高校時代からつるんできた誠、浩一、秀樹、修、そしてリンネンこと林稔。「今年48やぞ、俺ら」・・・・・・。そして、「リンネンが結婚した」の報。なんと一番冴えなかったリンネンが5人全員の憧れの青木由美子(テーラー青木)と結婚することに・・・・・・。リンネンは定期的に仕立てを頼み、ついに10年前、仕立て屋になっていた。「想いを実らせた親友を見て、また成長できると思うと、足取りが軽かった。自分自身にももう少し誠実に向き合ってみよう。・・・・・・でも私は未だ、仮縫いの分際なのだ」・・・・・・。
「起点」――。孫が大学の課題のために訪ねてきて、「おじいちゃんがちょうど50年前に出版した『罪の声』って作品について聞かせて」と言う。つまり2065年頃の話だ。人間が"機械仕掛け"になり、義務教育修了後に脳内チップを装着することが基本となっているという時代だ。祖父は時代に取り残され、なんと紙の本を読んでおり、「もの書きを目指すんやったら、常に人の胸の内に答えを求めろ」「取材対象が秘めてること、悔やんでること、信じてること――そういった奥深い領域に触れられるか否かが勝負や」と言うのだった。
