AI時代が加速する。AIは「意味」がわかる訳ではなく、ただデータの蓄積、計算機にすぎない。だが一方では、どうも人間がいつの間にか「意味」がわからず「読解力」のないものになり果てる危険に直面している。とくに「生徒たち、若者たちの読解力が壊滅的だ」という。
「読解力、すなわち物事を読み取り、理解する力。これこそが人間社会で生き抜くために不可欠な力だと断言する」「人間は、日々、読み取って生きている。・・・・・・読解のできない人間は文章を読み取れないだけでなく、状況も読み取れない。人の心、人間関係、社会状況、自然現象等も理解できない。読み取れない」「クレーマーが増えている。読み取りができないために、自分が正しいと信じ、周囲の常識的な読み取りが理解できずに、孤独な攻撃をしているのではないか。しかも読解力のない人も発信する手段を得たのが今だ。クレーマーと読解力不足は通底する」という。
そして、「語彙力を鍛える(言い換え力を鍛える、言葉を自分のものにする)」「文章力を鍛える(書けない人は読むこともできない、書くことは思考を明確にすること)」「読解力を鍛える」「読解力を使いこなす(読後感を発信する、日常のコミュニケーションにいかす)」などを示し、読解力を鍛える練習問題を具体的に提示している。「読書量の決定的な不足」「ネット記事、短文SNSの普及」の時代に反転攻勢をかけないと、人間社会はうるおいを失ってギシギシと崩れていく。幸せになれない。
野球への愛と嘆きに満ちあふれている。「本物の野球について今一度考えてみよう」「次世代に『正しい野球』を伝えてほしい」「投げて、打つだけの大味な野球にするな。野球は頭8分、気力1分、体力1分だ」「ブレイザー(ドン・ブラッシングゲーム)にメジャーの基本に徹する、考える野球を教わり、共鳴した」「目立ちたがりのパフォーマンスになるな」「さすがプロとうならせるような試合をもっともっと」「野球は楽しい。野球はつらい。野球は面白い。野球は悔しい。野球こそがわが人生。野村-野球=0だ」「ブレイザーのようにいつまでも野球について語り合える人間はいるだろうか。・・・・・・それぞれの"野球哲学"をそれぞれが持っているだろうか」「若い選手諸君、スマホばかり見ていないで、本を読もう。自分の言葉を持とう。野球のプレーについて自分の言葉でメモを取ろう。野球について考えよう」「ラクばかりしているとそこ止まりの選手になる」とボヤキどころか、ストレート球を投げ込む。
これは野球だけではない。軽くて浮遊し、悩み抜けない、本物になれない社会全体への本質的直言だ。勝負の世界に生きた野村さんだけにその「リーダー論」「組織論」「人間教育論」「人生論」、そして「人間学」「社会学」は、全てに通じる。「組織はリーダーの力量以上には伸びない」――。監督に求められる資質や器。「人望」「尊敬でき、信頼に足る、度量の大きな人物」「貫禄と威厳のある人物」「信頼を得るには説得力、自分の考えを言葉で表現できる『言葉力』。この力を養うには本を読むこと」「決断力。監督に迷いがあると選手のプレーや士気に影響する」――。全く同感、そう思う。
担当医から自分の人生に残された時間のあまりないことを告げられた海野雫。育てられた父とも別れ、一人暮らしの33歳の女性だ。残された日々を瀬戸内海の島のホスピスで過ごすことを決める。「ライオンの家」と名付けたこのホスピスには、代表のマドンナ、食事担当の狩野姉妹、入所者の粟鳥洲やシスターと呼ばれる女性、おいしいコーヒーを淹れてくれるマスターといわれる男性、有名な人気作詞家だった"先生"、可愛らしい少女・百ちゃん等がいた。雫は最愛の犬・六花やワイン作りに頑張る島の若者・田陽地らと交流し新たな生活が始まった。
単調な「食べる」「寝る」の日々のリズム。しかし、朝の工夫のこらされたお粥や昼のバイキング、夜は一人ひとりにお膳が出され、食べ物のおいしさに開眼したり、穏やかな瀬戸内の海や人の真心ひとつひとつに驚き、彩りを感じる。「生きていてよかった」と生を味わう日々は濃密で新鮮、感動的なものとなった。毎週日曜日には、入居者が人生でもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があり、「おやつ」へのそれぞれの思いが語られる。
「おいしい」「かわいい」「うれしい」「光がまぶしい」「眺めがすばらしい」「今、すごく幸せ」・・・・・・。ひとつひとつの濃度が増していく。怒りが支配していたこれまでの自分たち。下手にあがくことをやめて素直になり、癒やされるように変わっていく。「百獣の王ライオンは敵に襲われる心配がない。他人に気を遣ったり、無理をすることなく、安心して食べたり、寝たりすればいい」――。「なるようにしかならない。百ちゃんの人生も、私の人生も。そのことをたびたび体全体で受け入れて命が尽きるその瞬間まで精一杯生きることが、人生を全うするということなのだろう。まさに百ちゃんは、百ちゃんに与えられた短いけれど濃い人生を全うした」といいつつ、更に「私はまだライオンになんかなりたくない。生きたいよ。もっともっと長生きしたいよ。・・・・・・生きたい、まだ死にたくない、という気持ちを素直に認めてあげたら、心が軽くなった。それは自分でも予想していなかった自分自身の変化だった」「なんて味わい深い人生だったのだろう」「感謝の気持ちが、私の中で春の嵐のように吹き荒れていた」と語る。
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時は幕末。参勤交代をはじめとする支出、飢饉や災害もあり、大名といえども財政は火の車の藩が多かった。越後丹生山三万石も260年の間に積もり積もった借金総額がなんと25万両、支払利息だけで年間3万両、そして歳入はせいぜい1万両という惨憺たる有様であった。そこで隠居した父が企てたのが前代未聞の大名倒産。返すべき金をビタ一文返さず、悪評があろうと放置し、業を煮やした幕府が「領知経営不行届に付き改易」の沙汰を下すようにもっていく。責任は当主にとってもらい自害というわけだ。引きずり出されたのが、縁の薄い4男の松平和泉守信房(小四郎)。糞がつく真面目な男で算え21歳。計画倒産で逃げ切ろうとする先代、倒産を阻止しようと涙ぐましい努力をしていく若殿が対決する。
必死で健気な若殿に、家臣や民や商人たちの中から味方が現われ、貧乏神を退けて七福神まで手助けをする。諸天善神が舞う。諸天善神は人であり、真剣なところに引き寄せられることが、絶妙のタッチで描かれる。小四郎育ての親で鮭の養殖に力を注ぐ間垣作兵衛、老中・板倉周防守、大番頭の小池越中守をはじめ、登場人物はいずれもキャラが立ち魅力的だ。
「IUT理論の衝撃」が副題。フェルマーの最終定理、ポアンカレ予想などに続く数学の超難問のABC予想。望月新一京大教授が「宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)」を発表(2012年)、ABC予想を解決に導くだけでなく、数学界に革命的衝撃をもたらした。まだ理解されているとはいえないこの理論を、共に議論を交してきた数学者の加藤文元東工大教授が可能な限りわかり易く伝えようとした書。当然ながら難しい。しかし、間違いなく数学の世界の深淵をのぞくことができた。
IUT理論(宇宙際タイヒミュラー理論)とは、「『自然数』と呼ばれる『普通の数』の足し算と掛け算からなる『環』と呼ばれる複雑な構造をした数学的対象に対して、その足し算と掛け算という『2つの自由度=次元』を引き離して解体し、解体する前の足し算と掛け算の複雑な絡まり合い方の主だった定性的な性質を、一種の数学的な顕微鏡のように、『脳の肉眼』でも直感的に捉えやすくなるように組み立て直す(再構成する=『復元』する)数学的な装置のようなものです」と望月教授はいう。加藤教授は「IUT理論がやろうとしていることは①異なる数学の舞台を設定して、対称性を通信すること②受信した対称性から対象を復元すること③そうして生じる、復元の不定性を定量的に計測すること――の3つ。IUT理論がその基礎にもっているキーワードは、伝達・復元・ひずみの3つの言葉だ」「IUT理論の特徴は、『異なる数学の舞台を設定することで、欲しい状況をまずは同語反復的に作り出す』『舞台間の限られた通信手段を用いて、計算方法を伝達する』『対称性通信』によって生じた不定性・ひずみを定量的に評価することで、不等式を導く」などという。
国際というように宇宙と別の宇宙との宇宙際、異なる宇宙の間の通信、異なる大きさのジグソーパズルのピースをはめる、足し算の世界と掛け算の世界、素数と素因数分解、互いに素と根基、例外的ABCトリプルはとても少ないというABC予想、強いABC予想からフェルマーの最終定理を導く・・・・・・。数字には性格があるとか、数学とは何かを少し感じさせていただいた。
