平和、外交、安全保障、地球環境問題等を包括的にとらえる良書。国際社会の複雑な情勢を考える場合、それぞれの問題にはそれぞれの長きにわたる歴史的経緯
がある。今の瞬間のみの判断では過ちをおかす。東大駒場のキャンパスの「国際関係論」の講義に基づいて執筆されているが、教科書以上の外交の現場を踏まえ
たバランスの良い整理された深さが醸し出されている。
この社会の礎となる人間が崩れ、社会の底が抜けている。生活が崩れている。
空気は読まない。そう鎌田さんはいう。空気に流されない、空気に負けない、空気をかきまわせ、空気をつくり出せ、そして空気に染まってみることも。空気を変え、あったか空気で巻き込み、押し込め。
人のやさしさ――せっぱつまって困っている人を手助けする人へのやさしさが繰り返し、繰り返し述べられている。心を育て、心を鍛え、心を豊かにする心あたたかい人間が紹介され描き出されている。素晴らしい。
たとえば井伏鱒二について、「井伏鱒二の文章から伝わってくるのは、気取りもせず力みもしないが、贋物と真物とをしっかり見わけ、真物だけがそこに残されている心地よさである」「観念に惑うこともなく、一時の流行に染まることもなく、そこにはいつもゆったりと微笑を浮べ、自分の目で物を見、自分の見たところだけを信じている人がいる。この人がいる限り人間は大丈夫だという安心感はそのところからくるようである。井伏鱒二のその悠々たる風格に参るのである」と語る。
本阿弥の家の風にふれ、「天命を畏れ、己が心に省みて恥じぬことだけするのが、彼らの人間としての誇り」という。
大石内蔵助について「中心にどっしりと大石内蔵助がいて・・・巧言令色鮮し仁の反対の人間である」という。
良寛を「優游とした無所有」といい、「日本人は貧しさに強かった。貧しさに堪え、貧しさにもかかわらず心のゆたかさを求める文化を作りあげてきた」とし、最近、「物質的ゆたかさに酔い、ゆたかさには全く抵抗力がないことが判明した」と嘆く。
師とたのむ大岡昇平の「人間の根源的な問題と対決する姿勢を失った時、人間も文学もだめになってしまう」という言葉が語られる。
「私にとって生きるのは、『今ココニ』という時空があるだけである。・・・『今ココニ』がごろごろころがっていくところに私の人生がある」――。
中野孝次さん、2004年に逝去。79歳だった。
副題は「素粒子物理学で説く宇宙の謎」。この世で最も大きな宇宙を最も小さい素粒子で解明しようというのである。
まさに「ウロボロスの蛇」である。ウロボロスの蛇とはギリシャ神話に登場し、「世界の安全性」を表すシンボル。このヘビは自分の口で自分の尾を飲み込んでいる。