2011年「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。いわゆるサスペンス、ミステリーというのとは違う。ミステリアスな小説だ。
繰り返し繰り返し見る夢が私にもあるが、夢のなかでこれは夢だと思いつつまたそれも夢の中とい うことがある。夢、幻か、トラウマか。何が幻で何が夢で、現実に対する夢と夢見る身体そのもの、生きているということと死ぬということの彷徨と境界、そし てその往復、そのはっきりした切断に拳銃をこめかみに当てるという自殺が位置づけられている。
メディアの影響力は大きい。本書冒頭の「ベトナム戦争とメディア――外信部長の追放劇」からグイッと引き込まれる。クロンカイトの「きちんとした情報を
持った国民がいて初めて民主主義は機能する」「ジャーナリズムの役割は事実に光をあたえることにある。われわれの民主主義は、二つの前提によって成り立っ
ている。一つは人々が賢く、判断する力を持っているということ。もう一つは情報が行き届いていることだ。ジャーナリストの仕事は、人々が自分で道を見つけ
られるように報道によって光をあたえることなのだ」――メディアのあり方を考えさせられる。
「ベトナム戦争」「大阪毎日新聞」「三等重役とその時代」「政治家のメディア感覚」など。――いずれもその時代を立体的に解き明かしてくれる。
「もしドラ」といわれる大ベストセラー。iPadで読んだ。岩崎さんは放送作家で「とんねるずのみなさんのおかげです」「ダウンタウンのごっつええ感
じ」等のテレビ番組の製作に参加、AKB48のプロデュース等にも携わっているという。通常の小説というより、テレビドラマのよう。スーと入り、どんどん
引き込まれて面白い。これは読まれて当然だ。
松下幸之助さんは「成功は小さい努力の積み重ね」(江口克彦さんの著)とともに、運を重視した。そして「運は信念、運は準備(備え)、運は連鎖」といって いる。確かにその通り。とくに運は連鎖だと実感する。この「もしドラ」はそういうことだ。引き込まれる小説だから、挿入されるドラッカーの理論がうるさく 感じたりするほどだ。
「徹底討論」財政危機をどう乗り越えるか――と副題にあるが、もっと広範な討論となっている。財政の危機、税制、社会保障、そして政府の役割りまで論じら
れている。共通の考え方であるゆえに、激論というより、論点の整理と、方向を提起している。そして竹中さんが、政府の中に入って仕事をしていただけに、た
んなる学者の提起を越えている。
話題の小説。第5回ポプラ社小説大賞受賞作。生と死、死に直面して生は際立つ。とともに生きるということは人の交わり、人を愛するなかに鮮やかさを増す。
哀切かつ峻烈な「命」の物語と解説されているが、まさに実存的世界、ギリギリの異次元のなかで、ピュアな清流を感ずるのは若者の感性のゆえか。生と死・肉
体と生死・臓器移植とテーマはあまりにも重いが、ピュアさとゴツゴツした力みすら感ずる文体に若さの素晴らしさを感じた。