前著「黒船以降 政治家と官僚の条件」(2006年)に続く歴史対談集。「時代を作った男たち」と副題にある。
上杉謙信は評価しない。「直江兼続、小早川隆景、立花道雪、高橋紹運、豊臣秀長、福島丹波・・・・・・名参謀に共通するのは、主家に取ってかわろうとする野心を持たなかったこと。おのれの分を守り、補佐役に徹する」という。
「名参謀は無欲であることが必要、欲があれば主君に警戒される。あの黒田官兵衛・・・・・」「無欲であると同時に、主君に対してどういう思いを抱くか。忠誠心や尊敬心にかかわる問題です」「組織が生き残るために、参謀は身を挺して指令官を守らなければならない」「江戸時代を通じての最高の補佐役は保科正之」ともいう。
二人で戦国時代から明治維新まで、歴史に顔を出すあらゆる人を忌憚なく、ズバズバと批評しているのは心地よい程だが、「辛酸を嘗めた人間こそ、老後、どこかで活躍してほしかったなあ」という言葉がやけに残った。小松帯刀や小栗上野介など若くして死んでいった人への思いは深い。
新しい福祉を考える時、ベーシック・インカムや負の所得税、給付型税額控除などを本格的に考えないと、社会保障の制度間の矛盾などが解決しないのではないか。
本書が書かれた当時の定額給付金については、「定率減税より定額減税が低所得者にはいい」とし、給付付き税額控除の意味をもつと私は言った。
本書は、じつに200年以上も前から、著名な経済学者・哲学者がベーシック・インカムを主張し、今でもガルブレイスやフリードマンをはじめとして、常に議論されてきたことを示している。エーリッヒ・フロムもだ。
つまり、福祉国家の理念は、
(1)完全雇用
(2)社会保障
(3)公的扶助(生活保護など審査が必要)
――の3つで構成されている(保険・保護モデル)が、ベーシック・インカムはそれを越えるだけでなく、労働(働かざる者、食うべからずの思考)や、ジェンダー、グローバリゼーション、所有(何が自分の持ち分か)など、根源的問題を考えて提起されてきたものであることが分かる。
「労働価値(家事は労働か)」「市民権(生きる価値、権利、生存)」という根源的問題から提起されてきているわけだ。本書はその長い論争をたどってくれている。
材木商・伊勢杉陣庄衛門が向島の料亭から新築普請用の熊野杉千本を一万両で請け負う。窮地の伊勢杉に伊豆晋平が助け舟を出し、貸元・あやめの恒吉が動く。その杉回漕に代貸の暁朗を同船させる。
三河屋の喜作、杉の目利き・伊蔵、下田湊の貸元・保利蔵・・・。命をかけた男が命がけの暁朗を助ける。矜持と侠気。
「海の怖さを知ろうともせずただ命をかけると言っても、それは言葉だけのことだ」
「肝の据わった暁朗だが、心細さからは逃れられなかった。そんな心持ちでいただけに、ひとの親切・気配りを示されると、つい甘えた。獣のように研ぎ澄まされた渡世人の本能が鈍くなっていた」
「知らないことを正直に言えば、ひとは喜んで教えてくれる。が、一度でもわけ知り顔を見せると、見抜いた相手は二度と正味の付き合いをしなくなった」
「積荷を流したまま、知らぬ顔で生き続けるほどには、命根性はいやしくねえ」
「渡世人は生きるか死ぬかの境目と常に向き合っている」
――映画にしたらどうなるだろう。