名将と参謀.jpg前著「黒船以降  政治家と官僚の条件」(2006年)に続く歴史対談集。「時代を作った男たち」と副題にある。

上杉謙信は評価しない。「直江兼続、小早川隆景、立花道雪、高橋紹運、豊臣秀長、福島丹波・・・・・・名参謀に共通するのは、主家に取ってかわろうとする野心を持たなかったこと。おのれの分を守り、補佐役に徹する」という。

「名参謀は無欲であることが必要、欲があれば主君に警戒される。あの黒田官兵衛・・・・・」「無欲であると同時に、主君に対してどういう思いを抱くか。忠誠心や尊敬心にかかわる問題です」「組織が生き残るために、参謀は身を挺して指令官を守らなければならない」「江戸時代を通じての最高の補佐役は保科正之」ともいう。

二人で戦国時代から明治維新まで、歴史に顔を出すあらゆる人を忌憚なく、ズバズバと批評しているのは心地よい程だが、「辛酸を嘗めた人間こそ、老後、どこかで活躍してほしかったなあ」という言葉がやけに残った。小松帯刀や小栗上野介など若くして死んでいった人への思いは深い。


多読術.JPG松岡正剛さんの2000年から始まった「千夜千冊」はすごい。ただの読書感想ではない。そのもの自体が論文、論考だし、しかも全てのジャンルにわたると同時に、さらに整理され、マッピングされる。

池田草庵の読書法(吉田松陰が真似をした)の「掩巻(えんかん)」と「慎独」は、全くそうだと思う。私自身結局、「読書が好きなんだ」と思うようになったが、本書を読んでその通りと思うことしばしばだった。松岡さんはケタはずれだが・・・・・・。

「デジタルVS読書」の項は、かなり本質的で、「通信回線の中の『知』は幻」という。編集の重要性だ。読書は編集である。読書は他者との交際である・・・・・・と。すごい人がいるものだ。


ベーシック・インカム入門.JPG新しい福祉を考える時、ベーシック・インカムや負の所得税、給付型税額控除などを本格的に考えないと、社会保障の制度間の矛盾などが解決しないのではないか。

本書が書かれた当時の定額給付金については、「定率減税より定額減税が低所得者にはいい」とし、給付付き税額控除の意味をもつと私は言った。

本書は、じつに200年以上も前から、著名な経済学者・哲学者がベーシック・インカムを主張し、今でもガルブレイスやフリードマンをはじめとして、常に議論されてきたことを示している。エーリッヒ・フロムもだ。

つまり、福祉国家の理念は、
(1)完全雇用
(2)社会保障
(3)公的扶助(生活保護など審査が必要)
――の3つで構成されている(保険・保護モデル)が、ベーシック・インカムはそれを越えるだけでなく、労働(働かざる者、食うべからずの思考)や、ジェンダー、グローバリゼーション、所有(何が自分の持ち分か)など、根源的問題を考えて提起されてきたものであることが分かる。

「労働価値(家事は労働か)」「市民権(生きる価値、権利、生存)」という根源的問題から提起されてきているわけだ。本書はその長い論争をたどってくれている。


新日本のお金持ち研究.JPGなかなかない研究だ。

明治29年の「日本紳士録」、昭和6年の『全国金満家大番附』など、興味をひくものや調査が各所に出てくる。

「株式投資か不動産投資か――お金持ちの資産運用」では、世界と日本の違いが税制や恐慌の経験の有無など構造的に浮き彫りにされる。

教育はきわめて重要。「教育で残すか実物資産で残すか」は、昨今の教育格差としてではなく、お金持ちの意識と経験から指摘する。

消費では、「真の富裕層」より「擬似富裕層」の方が購買意欲が高いというデータも示している。


夢曳き船.jpg材木商・伊勢杉陣庄衛門が向島の料亭から新築普請用の熊野杉千本を一万両で請け負う。窮地の伊勢杉に伊豆晋平が助け舟を出し、貸元・あやめの恒吉が動く。その杉回漕に代貸の暁朗を同船させる。

三河屋の喜作、杉の目利き・伊蔵、下田湊の貸元・保利蔵・・・。命をかけた男が命がけの暁朗を助ける。矜持と侠気。

「海の怖さを知ろうともせずただ命をかけると言っても、それは言葉だけのことだ」
「肝の据わった暁朗だが、心細さからは逃れられなかった。そんな心持ちでいただけに、ひとの親切・気配りを示されると、つい甘えた。獣のように研ぎ澄まされた渡世人の本能が鈍くなっていた」
「知らないことを正直に言えば、ひとは喜んで教えてくれる。が、一度でもわけ知り顔を見せると、見抜いた相手は二度と正味の付き合いをしなくなった」
「積荷を流したまま、知らぬ顔で生き続けるほどには、命根性はいやしくねえ」
「渡世人は生きるか死ぬかの境目と常に向き合っている」
――映画にしたらどうなるだろう。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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