tukinotatu.jpg人は毎日夢中で生きていると、自分だけが頑張っていて、周りは自由勝手に生きているように思いがちだ。辛さや苦しみが自分を孤独に追い込んでいく。本書は5つの短篇連作だが、主人公たちはポッドキャストの「ツキない話」で、タケトリ・オキナが毎朝10分だけ配信する月の話に接し、周りの人に支えられていることを知る。「新月」は見えないが「ある」。「新月」は新しい循環へのスタートだと心から思うのだ。「見ていてくれる人」「さりげなく寄り添ってくれる人」によって、人生はかくも豊かなものになるか。感動と涙の小説。

「誰かの朔」――看護師長目前で退職した朔ヶ崎怜花は再就職先が決まらない。劇団に所属している弟の佑樹を気ままに生きていると思っていたが・・・・・・。

「レゴリス」――青森から「お笑い芸人」を目指して上京した本田重太郎は、「ポンサク」(本と朔)のコンビを解消してさえない日々。宅配便会社のミツバ急便で毎日、配達に走り回っている。月では「レゴリス」という細かい砂が一面を覆っており、太陽の光で輝きを増しているという。

「お天道様」――東京のはずれで2輪自動車の整備工場をしている高羽は突然、娘から「この人と結婚します」と言われる。授かり婚。ずっとうまく会話ができないでいた。そこに荷物を運んで来ている本田。取引先のバイクショップで働いているのが朔ヶ崎佑樹。やがて「ありがとう、お父さん」「俺はいつだってぼうぼうと心を燃やして、おまえのこと、おまえたちのこと、想っている。だから遠くから照らしてやるよ。お天道様みたいにな」・・・・・・。これは泣ける。

「ウミガメ」――離婚した母と暮らす孤独な高校生の逢坂那智。クラスメイトの神城迅と親しくなっていく。迅の父親は劇団をやっているが、母親は離婚していないという。切り絵作家の母、切り絵をしている迅の想い。

「針金の光」――ハンドメイドのワイヤー・アクセサリーを作って販売している北島睦子。邪魔されない自分だけの大切な場所として、アトリエのワンルームを借りている。「この孤独を、何よりも愛して」・・・・・・。静かな夫、お節介なまでの世話やきの義母と距離をとり続けていたが・・・・・・。そして、忙しさの中で目薬を間違えてさしてしまう。助けてくれたのは・・・・・・。

「一人の時間を持つことと孤独は別のもの」「当たり前のように与えられ続けている優しさや愛情は、よっぽど気をつけていないと無味無臭だと思うようになってしまうもの」「環境が大事って私が思うのは・・・・・・周りの人たちと豊かに関係しあっていくってこと」・・・・・・。周りの人の愛情と支えに気づき、新しい気持ちで人生を再スタートしようとする。ちょっと静かに立ち止まって、周りを見ると、大事な大事なものが見えてくる。

 

 

 


yureru.jpg「京大地球科学教授の最終講義」が副題。「今日本列島は揺れている。東日本大震災以降、日本は地球の歴史から見て、地震、火山の噴火などが多い地殻の変動期、大地変動の時代に突入した」「南海トラフ巨大地震は2035年± 5年の間に発生する」「日本には111の火山があるが、そのうちの20個が『噴火スタンバイ状態』にあって、その最大の火山が富士山だ」と警告する。鎌田京大名誉教授は、火山学、地球科学、科学コミニュケーションの専門家。しかし研究のみでなく、「知識は命を救う」「減災の意識を持とう」「指示待ちでなく自発的でなければ命を守れない」「なぜ行動しないのか。人間には過剰な心配を平常の感覚に戻す認知メカニズム『正常性バイアス』があるが、同調性バイアス(他者が行動するまで行動しない錯誤)、同化性バイアス(異常を背景の中に埋没させてしまう錯誤)から、異常があっても正常の範囲内で捉えてしまい行動できない。この正常性バイアスを変えなければならない」「普段の時間感覚を見直し、100年、1000年とかの長い目『長尺の目』、かつ地球的規模、科学的な目でものを見ていこう」「地球のストック(資源)を、大量消費するストック型文明からフロー型文明に転換する必要がある」と、解説し呼びかける。「科学の伝道師」としても著名だ。

「20の火山がスタンバイ状態」と言う。海溝型の巨大地震が発生した場合、数カ月から数年以内に、活火山の噴火を誘発することがある。20世紀以降にマグニチュード9規模の地震が世界で8回ほど起きているが、いずれも近くの活火山が大噴火している。そのメカニズムを詳説しているが、その意味でも火山にもハザードマップとタイムラインが必要だと思う。本書では「富士山噴火をシミュレートする」として、①火山灰②溶岩流③噴石と火山弾④火砕流・火砕サージ⑤泥流――を解説する。いかに恐ろしいか、厄介な灰かがよくわかる。富士山噴火に備えなければならない。

また「地球温暖化は自明でない」と言っている。「何十万年という地球科学的な時間軸で見れば、実は現在の地球は氷期に向かっている。日本の平安時代は現在よりも温暖な時期だった。ただ14世紀からはずっと寒冷化が続いている。大きな視点からすれば、地球は寒冷化に向かっており、寒冷化の途上で短期的な地球温暖化状況にある、というのが地球の現状です」「産業革命以降に大量に放出された二酸化炭素が現在の温暖化を生んだのだという考え方がある。しかし二酸化炭素が温暖化を引き起こす寄与率については、研究者によってなんと9割から1割まで大きく意見が分かれている。私自身は、将来にわたって、今の勢いで地球温暖化が進むかどうかは必ずしも自明ではないと考えている」と言う。

「大きな自然の摂理を念頭に置くと、現在の地球の姿も、太陽系の寿命である100億年という時間内の進化の一断面だと捉えることができる。地球は誕生以来46億年が経過していますから、太陽系の寿命の半分に差し掛かる頃だ」と思考は壮大だ。しかし言わんとするところは「南海トラフ巨大地震も富士山噴火も、いつ自分の身に降りかかってもおかしくない出来事だ。自分の身は自分で守る姿勢に変わって欲しい」ということだ。全くそう思う。防災・減災は今こそだ。


jouhou.jpg「あなたを惑わすものの正体」が副題。コロナ禍でのデマや陰謀論、米国の大統領選での選挙不正やフェイク情報、ロシアのウクライナ侵略での情報操作SNS社会となり、まさに情報パンデミックの中で社会は不安定となっている。「虚実のはざま」「何が真実なのか」、そして「なぜ信じてしまうのか」「誰が、何の理由でフェイクを流布するのか」を現場を歩いて徹底取材をする。警戒されたりどなられたりの連続だったようだ。

ヨハネの黙示録「アポカリプス」に掛け合わせ、「情報の終焉」「情報の死の世界」の「インフォカリプス」――ネット空間で事実がいとも簡単に歪められ、おびただしい数の嘘で塗り替えられ、少しずつ社会が蝕まれていくことへの警鐘だ。本書を読むと、「ワクチン打ったら死ぬんだぞ」「ワクチン人体実験やめろ」「新型コロナは医療ビジネス」という「真実はこれだ」の陰謀論に、いかに多くの人が巻き込まれたかを改めて知る。反ワクチンのインフルエンサー、強固な反科学と政治と社会への不信が増幅作用をもたらした。発信源の匿名の「まとめサイト」運営者を探し出すと、「SNSや匿名掲示板に溢れているデマや真偽不明の話を加工するだけで、たった10分程度ですぐできる。広告収入が目的」とはっきり言っている。

デマや陰謀論を信じ込む要因となる脳の「癖」があるという。「合致する情報を集め、相反する情報は排除してしまう習性」「人は見たいものを見て、信じたいものを信じる」という「確証バイアス」だ。加えてネット特有の仕組みが指摘される。「エコーチェンバー(狭い空間で発信すると賛同する意見が反響する)」と「フィルターバブル(見たい情報だけを通過させるフィルター、その人の好みを自動的に推測するアルゴリズムを用いて利用者に勧める)」だ。YouTubeは要注意。

陰謀論は、なぜ私だけがこんな目に合うのかという不満を持ってる人にとっては、「隠された真実を私たちだけが知っている」という優越感や陶酔感が得られるという。その世界の人たちの間で、その優越感や陶酔感がどんどん高まっていくわけだ。その結果、家庭内の暴力沙汰や離婚にもなった現実が紹介される。ウクライナ侵略での「偽ゼレンスキー動画、地震の際の「悪意の改変、フェイク画像」、宣伝サイトでの「架空の人物による偽コメント、偽ランキング」など、このネット空間全体は危険に満ち満ちている。なかなか難しい問題だが、「嘘の蔓延に抗う知恵」として、ヨーロッパやブラットフォーマー自身の試みが提示される。「リテラシー教育」も極めて重要だ。注目を集めるコンテンツばかり主流となり、感情を煽るものが量産される「アテンション・エコノミーの過熱」は重大なところに差し掛かっている。


nenpyou.jpg「未来の年表」シリーズの第5弾。「瀬戸際の日本で起きること」が副題。業界、ビジネスの分野で何が起きるか、その姿を露わにする。「人口減少がビジネスに与える影響は、マーケットの縮小や人手不足だ。しかも、マーケットの縮小とは単に総人口が減るだけの話ではない。若い頃のようには消費しなくなる高齢者の割合が年々大きくなっていく。今後の日本は、実人数が減る以上に消費量が落ち込む『ダブルの縮小』に見舞われる」「この国内マーケットのダブルの縮小と、勤労世代の減少(担い手不足・人手不足)という『ダブルの変化』にどう対応するか」と指摘し、「戦略的に縮む」という成長モデルへの転換を提示する。「各企業が成長分野を定め、集中的に投資や人材投入を行うことによって、『戦略的に縮む』のだ」と指摘する。

第1部の「人口減少日本のリアル」には愕然とする。「革新的ヒット商品が誕生しなくなる(製造業界に起きること)」「整備士不足で事故を起こしても車が直らない(自動車産業に起きること)」「地方紙・ローカルテレビ局が消える日」「ドライバー不足で10億トン分の荷物が運べない(物流業界に起きること)」「30代が減って新築住宅が売れなくなる(住宅業界に起きること)」「ローカル線が消えていく」「地方に住むと水道代が高くつく(生活インフラに起きること)」「2030年頃には患者不足に陥る。『開業医は儲かる』という神話の崩壊(医療業界に起きること)」「多死社会なのに寺院は減少、葬儀も『直葬』が一般化する」「60代の自衛官が80代〜90代の命を守る(自衛官や警察官の担い手不足と高齢化)」をはじめとして、各業界の担い手不足、人手不足がいかに深刻か。地方の疲弊は想像絶するものになること、マーケットの縮小が各業界に根本的な転換を促すことを示している。

昨年の出生者数は約77万人、今年の成人式参加対象者(20歳)が117万人、団塊の世代最大の昭和24年生まれは270万人、戦争で極端に少なかった私の昭和20年生まれでさえ140万人。特にこの数年の100万人を切ってからの減少の激しさ(100万人を切ったのは2,016年)は、20年、30年後の日本の厳しい姿を示している。国内マーケットの激減と担い手不足・人手不足が、日本社会と各業界に襲いかかるのだ。「未来の年表」シリーズが示す現実から目をそらすことはできない。第二部の「戦略的に縮むための『未来のトリセツ(10のステップ)』」も重要だ。


bouei.jpg「元自衛隊現場トップが明かす防衛行政の失態」が副題。元・海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)の香田洋二氏が防衛省に対し、直言する。防衛費の増額が進められているが、「防衛力を強化するために最も大事なことが忘れ去られている。シビリアンコントロールが機能していないという現実だ」「それは、政治家が軍事的素養を磨き、現場の声に耳を傾けて初めて機能するシステムだ」「政治家が軍事の現場を知ろうとせず、また防衛省・自衛隊の内部では背広組の官僚が幅を利かせ、現場を預かる制服組の自衛官の意見が反映されにくいシステムにメスを入れなければならない」と言い、防衛省と自衛隊(背広組と制服組)との連携不足、官邸が省内人事を握る弊害、「国産」信仰の間違いなどを、具体例を挙げ厳しく指摘する。

「イージスアショア問題が浮き彫りにした防衛省の独善」はその最たる例で、「当初陸上配備を想定していたイージスアショアが、よくわからない経緯で、現在のイージスシステム搭載艦に変わった一連の騒ぎ」「この検討はミサイルの専門家である各幕僚監部の参画はほとんどなく、内局だけで決定したと言われている」「より高額になるかもしれないので、計画時には盛り込まれていなかった極超音速兵器対策として新たなミサイルを搭載することにしたのではないか」と所見を述べる。また、「防衛費1%枠文化」を変えなければ防衛力強化はおぼつかないとし、「防衛力は『正面装備』『後方』『教育・訓練』の三本柱が大事」なのに正面装備に偏り、例えば弾薬等が削られ続けてきたと指摘する。「『文民統制』ではなく、『文官統制』のDNAがなかなか消えない。イージスシステム搭載艦の導入も、ヘリコプター搭載型護衛艦『いずも』の空母化も制服組の意見が入っていない」「手初めに官房長、局長クラスに制服組あるいは制服組OBを登用してはどうか」「インド洋に海上自衛隊艦艇を派遣するにあたり、イージス艦の派遣を予定していたが、イージス艦は攻撃的で危ないという誤解があり、当面見送りとなった。イージス艦は守りを専門とする防空機能に優れた船だ。自衛隊制服組による国会答弁を行い、専門的議論を深めるべきだ」「不可解な12式中距離地対艦誘導弾射程距離の延伸」など、「元ミサイル撃ち」の香田氏の舌鋒は鋭い。

さらに憲法改正が重要だとし、「防衛出動が発令されていない段階で自衛隊が手足を縛られたままであるならば、自衛隊と米軍が共同行動する場合に、自衛隊が足手まといになる」「日米合同司令部がないという怖さ」等についても述べる。

「防衛力強化」「GDP比2%」論議の、まさに中身を徹底的に論議し、説明責任を果たせとの訴えはおろそかにはできない。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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