そして、バトンは渡された.jpg父親が3人、母親が2人。血の繋がらない親の間を小・中・高校時代にリレーされた優子。不幸と思いきや、それが「親が変わっただけで、私は何も困ってない。全然不幸ではない」とリキむことなく感じ、言う。

彼女はいつも愛されていたし、どの親も親としての無償の愛情を注ぐことに喜びをもち、生き甲斐をも見い出していた。当然、家族がまた変わるかもしれないという不安があり、家族でありたいと振舞う緊張感が互いにあるが、それをも融かす愛情にくるまれる。

優しさと温かさに満ちた小説。普通なら激しくとげとげしくなる人間関係が、不思議にも「幸せな家族」の日常となる。優しく幸福感に包まれる。


悪の箴言(マクシム).jpg仏の歴史と文化と伝統、神と人間と教会、欧州の戦乱・攻防――。その激しくも深く蓄積されてきた思想・哲学と社交の中から抉り出された人間学。ルイ14世の時代に生きた文人ラ・ロシュフーコーの「マクシム」(辛辣な人間観察を含んだ格言、箴言)が紹介される。まさに「言葉の短刀」。ラ・ロシュフーコーとともに、パスカル、ラ・フォンテーヌ、ラ・ブリュイエール、E・M・シオランをも含めて、鹿島茂氏でなければできない圧倒的な力業の"悪のマクシム"。"社交する人間"で、他人には短刀かもしれないが、自分には「お前そんなカッコつけているけれど・・・・・・」とズバッと心の中を荒々しく掴まれるようだ。

「人間は自己愛(ドーダ)に生きる動物であり、どんなに自己愛と無縁に思われる言動にも必ず自己愛が潜んでいる。『マクシム』はドーダから始まりドーダで終わる究極のドーダ論だ」という。「人はパンのみに生きるにあらず。褒め言葉にこそ生きるのである」「"面倒くさい"は日本人を律する最高のルールである」「人間の営為のすべては気晴らしにすぎない。楽しい労働もつらい仕事も、遊びも戦争も。気晴らしだけが人間を無為と倦怠という最悪の事態から救い出してくれる」「ドーダは死よりも強し」「好奇心も善行も虚栄心にほかならない」「『理性による承認』がなされたとき、初めて人は自尊心の十全たる満足を得る」「人々が感心する徳は2つしかない。勇気と気前のよさである(生命と金銭という2つのものを軽視しているから)」「ホームグローン・テロリストにある"極悪非道ドーダ"」「自我は『他人の栄光』が許せない」「妬み、嫉み、恨みは生命力の根源」「情念の最大の敵は『面倒くさい』」「自己愛はおのれを破壊もする」・・・・・・。

「耳をふさぎたくなる270の言葉」と副題にあるが、本当に(本当だから)グサッとくる。


51ClsC7FcTL__SX311_BO1,204,203,200_.jpg本書を読んでいるさなかに大阪北部地震が起きた。ついこの間は土木学会が、首都直下地震、南海トラフ地震、三大湾の巨大高潮、三大都市圏の巨大洪水を対象として「南海トラフ地震の20年累計の経済被害は1240兆円」「首都直下地震では731兆円」などという衝撃的な報告書を出した。東日本大震災、熊本地震から今回まで、日本を襲う大地震は確実に増え、活動期にあるようだ。

本書は日本の地底では何が起こっているのか、巨大地震や火山の噴火がどういう構造から起きているのかを、理学的見地から解き明かしている。「いま日本の地底で何が起こっているのか」「日本を襲う地震・噴火のメカニズム」「地底を知ることで見えてくるもの」「地震予知はどこまでできるのか」「地震の国・日本に住む私たちに、いまできること」の5章から成る。

2億5000万年前の超大陸「パンゲア」、海底だったヒマラヤとインドの北上、活断層の可視化、地底探査、海底電位差磁力計、コンピュータ・シミュレーション・・・・・・。きわめて興味深い。


さざなみのよる.jpg43歳、小国ナスミがガンで亡くなる。ガンは長い闘いであるだけに、人はある意味では強くなり、突き抜ける部分もある。「だからぁ死ぬのも生きるのも、いうほどたいしたことないんだって」――。もともと明るく、真っすぐ。

 「ナスミは、好江の話をいつも自分のことのように聞いて、腹の底から怒り、バカみたいに喜んでくれた。腹立たしいことも、時間が経てば、二人は犬がじゃれあうようにそのことで大笑いした」。加藤由香里が上司からひどい仕打ちをしたことを知って2発、顔面に見舞ったりもした。「私がもどれる場所でありたいの。誰かが、私にもどりたいって思ってくれるような、そんな人になりたいの」「清には、ナスミと話したファーストフード店を思い出す。二人が悲しみの真っ只中にいたことを。あれは、悲しいけれど、少し甘酸っぱい時間だった」「あげたり、もらったり、そういうものを繰り返しながら生きてゆくんだ」・・・・・・。

ナスミは一人で死んで逝ったが、家族や友人一人一人には、さまざまな感情が渦巻く。感謝したり、涙したり、微笑ましく思い出したり、今の自分の中にナスミが住んでいることに気付いたり、夜はさざなみのように寄せてくる。


西洋美術史.jpgギリシャ美術から印象派に至るまでの西洋美術の変化には、西欧の歴史、政治・社会、文化、価値観の変遷が投影されている。とくに、信仰や権力者の意図もあって、一定のメッセージを伝える手段でもあっただけに、「読み解く」ことが重要でもある。これまで中野京子さんの一連の「読み解くシリーズ」や原田マハさんの幾つもの小説等を興味深く読んできただけに、本書は掛け足する俯瞰の良さをもつ。

「なぜ、古代の彫像は『裸』だったのか(男性美を追求したギリシャの価値観)」「ローマの大規模建築」「修道院の隆盛によるロマネスク」「巡礼ブーム・都市化とゴシック美術(神と光)」「ルネサンス」「15世紀の北方ルネサンス・ネーデルラント絵画」「16世紀ヴェネツィア絵画の自由と享楽」「カトリックvs.プロテスタントが生み出した新たな宗教美術・バロック絵画(ルーベンス、ベラスケス)」「17世紀オランダ美術の別格レンブラント」「かつての美術後進国フランスに設立された王立絵画彫刻アカデミー(明晰な精神と理性のプッサン芸術とフランス古典主義)」「ルイ14世死去(1715年)から生まれた繊細で華やかなロココ文化(貴族の時代)」「フランス革命と新古典主義の幕開け」「新古典主義と対立したロマン主義」「産業革命・都市の発展のなかで"現実"をそのまま描いたクールベがこじ開けた近代美術の扉」「さらに一層押し開いた近代絵画の父マネ」「文化的後進国イギリスの反撃」「身近な自然や田園風景を描いたバルビゾン派(ルソー、コロー、ミレー)」「印象派の画家とアメリカ」・・・・・。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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