徳川時代の文明の理念は、「静謐」であり、それが「武士の世界」を支配していた。徳川時代260年間は停滞と捉えがちだが、そうではなく、急ぐことなく、ゆっくりとした、静かな変革をめざしていた。家康の「人の一生は、重荷を負うて遠き路を行くが如し。急ぐべからず」――。そして藤沢周平は、その「静謐」な日本が好きであり、信長の猛々しさを嫌い、「武士道は死ぬことと見つけたり」の「葉隠」をもてはやした昭和戦前を「おぞましい光景」と感じたのだと、松本さんは言う。そこには、人間をつつみこんでくれる故郷・荘内藩があり、架空の海坂藩があり、支配権力の「正義」「武士道」からは一定の距離を置いた市井、庶民の生活がある。人間の心のやさしさ、はげしさ、哀しさ、ひだにも推理を働かせ、人情風俗をたっぷり書き込む。
山本周五郎の時代小説・人情物、司馬遼太郎の歴史小説にはない男と女、その心理をも描く藤沢周平の世界。その魅力を松本さんは鮮やかに読み解く。
本年、逝去された松本健一さんに哀悼の誠を捧げる。
「生物が生きているかぎり、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化して止まない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である」(ルドルフ・シェーンハイマー 20世紀前半)。福岡さんは、その生命の動的な状態の概念を拡張し、「秩序は守られるためにたえまなく壊されなければならない」ということ、つまり生命とは互いに相反する動きの上に成り立つ同時的な平衡=バランスであることを「動的平衡」として示している。生命とは動的平衡にある流れそのもののことだ。そして、この世界は、生物と生物の相互作用が織りなす大きな動的平衡によって成り立っており、動的平衡は生命観であるとともに、世界観でもある。
本書は知識人、学者、芸術家等との対談だ。幅広く、多彩で対話が生命の深淵へと誘う。カズオ・イシグロ「記憶とは、死に対する部分的な勝利なのです」、平野啓一郎「複数の"私"を生きる――分人主義とは?」、佐藤勝彦「知的生命体が宇宙にいるのは必然か」、玄侑宗久「無常の世では"揺らぐ"ことが強さである」、ジャレド・ダイアモンド「未来の知は"昨日までの世界"に隠されている」、隈研吾「建築にも新陳代謝する"細胞"が必要だ」、鶴岡真弓「"ナルトの渦巻き"は、うごめく生命そのもの」、千住博「"美しい"と感じるのは、生物にとって必要だから」の8人だ。
いずれも、動的、流動の変化相をどう観るか。無常と常住の森羅万象の全的把握。諸法実相、如実知見の哲学を思いつつ読んだ。
戦災復興事業と東京オリンピックは、東京の都市計画としては重要な大きなチャンスであったが、中途半端なものとなった。木造密集市街地はその最たるものだ。世界の都市間競争の中で、東京が持つ魅力とメリットは、効率的で正確で安全な鉄道網、きれいな空気と水とシャワートイレ、夜でも治安の良い繁華街、価格比では世界一の一般飲食店の質と多様性、下町の文化・職人技術・伝統・・・・・・。その一方で密集市街地や国際空港の規模・機能の見劣り・立ち遅れがあるという。
東京の都市計画がどう作られ、どうなって今日に至ったか。本書は、歴史と今を圧倒的な資料を基に提示する。自ら撮った写真や貴重な資料まである。驚異的だ。
そして今、2020年の東京オリンピック・パラリンピック招致が決まった。首都直下地震をはじめとする自然災害の脅威も迫っている。東京の都市政策に何が必要か。「首都直下地震への備え」「少子高齢化を踏まえたまちづくり」「公共施設の長期維持計画」「羽田空港の拡充強化」「都市観光・文化力の強化」「都市景観の回復」「人に優しく安全な公共交通」「都市の緑化」「オリンピック開催準備」「首都大学東京の都心下町への移転」「有楽町都有地に都庁防災庁舎を」などを示す。