きわめて貴重な重要な本となっている。2005年にスタートした水害サミットの証言・提言集だ。被災地の首長さんが体験に基づいて「水害現場でできたこと、できなかったこと」を実践的に述べたことをまとめたもの。私も昨年の「第9回水害サミット」に参加した。
「災害時にトップがなすべきこと」「災害発生時の対応」「発災後における対応」「平常時の対策」等をまとめているが、集約すれば「序論 災害時にトップがなすべきこと 11項目」となる。
1.「命を守る」ということを最優先し、避難勧告を躊躇してはならない
2.判断の遅れは命取りになる。トップの決断を早くすること
3.人は逃げないものであることを知っておくこと(人を逃がすための工夫)
4.ボランティアセンターをすぐ立ち上げること
5.住民はトップを見ている。トップは住民の前に、マスコミの前に全力で働いている姿を見せること
6.住民の苦しみや悲しみを、トップはよく理解していることを伝えること
7.記者会見を毎日定時に行い、情報を出し続けること
8.大量のゴミ対策を
9.お金のことは後で何とかなる。やるべきことは全てやれ
10.視察は嫌がらずに受け入れること(現場を見た人は必ず味方になる)
11.応援・救援に来てくれた人に感謝の言葉を伝え続けること
避難勧告、指示など、「どう住民に危機を伝え、的確な指示を出せるか」ということで苦労してきた首長たちの珠玉の生の声、現場の声があふれている。良書。
東京計画2030+。2030年の東京都心市街地像。激しい世界の巨大都市間競争のなかで、東京の誇れる人材と資産を活かし、世界から「人・モノ・カネ」を呼び込む。東京23区の生産年齢人口がピークとなり、減少し始める2030年までに、世界があこがれる首都・東京をめざし勝ち抜こう! まさに「たたかう東京」だ。
7つの計画を示す。「山手線内の安全市街地化」「都市部の高容積化(都心市街地のエリア区分)」「国際居住区の指定(都心周辺部に)」「羽田空港第5、第6滑走路と地下鉄新線の整備(首都高の再構築・地下化も)」「リニア中央新幹線と品川地域再開発の融合」「江戸東京商店街のルネッサンス」「臨海部・アミューズメント国際特区の推進」――。土地利用、交通、防災、環境、エネルギー、法制度、マネジメントを広範囲に入れ込んだ「現実的な都市計画像」を示している。
"Invest Tokyo""Visit Tokyo"として、東京が老いる前に、力と魅力ある、世界一の都市・東京へ向けての意欲が伝わってくる。
「ドキュメント戦争広告代理店――情報操作とボスニア紛争」(講談社)を取り出してみると、2002年、12年も前の刊行だ。衝撃的だったことを今も記憶している。その高木徹さんが、ニュースが瞬時に全世界の情報空間をかけめぐるなかで、イメージづくりの激烈な国際メディア情報戦の実態を示したのが本書だ。
「セルビア共和国のミロシェビッチ大統領は、いかにして国際的大悪人となったか――ジム・ハーフとボスニア紛争」「予想外の大混戦となった米大統領選挙の第二回テレビ討論会――窮地のオバマは、どのようにピンチを切り抜けたか」「ビンラディンとは、国際メディア情報戦を最大の武器としたテロリストだった」「ビンラディン殺害作戦の現場中継映像を見る閣僚たち――オバマ政権はなぜ写真を公開したのか」「さまようビンラディンの亡霊――ボストンマラソン・テロ事件など次世代のアルカイダ」「2020年東京五輪決定とPR戦略――東京は現金を落としてもかえってくる、とび抜けて安全で平和な国・日本」「PR会社と広告代理店の違い」・・・・・・。
三つのキーワード、基本的テクニックとして「サウンドバイト(発言の短い断片)」「バズワード」「サダマイズ(敵の極悪人化)」が詳説される。映像だけではない。今はインターネットの世界だ。そして情報戦とは、情報機関が水面下で暗躍して秘密情報をいかに取るか、ではない。重要な情報をいかに外部に発信するか、武器とするか。「出す」情報戦の勝負となっていることに日本人は気付け。そして、民主主義、自由、人権、人道、差別との訣別、透明性を点検し磨き上げ、安全な日本という「資産」を育めと指摘する。それは、「現代の国際政治のリアリティは、(自分たちの方が敵よりも倫理的に勝っている)自らの倫理的優位性をメガメディアを通じて世界に広めた者が勝つという世界」だからだ。
低賃金、長時間労働で"正社員"を使い倒すブラック企業、暴力・暴言で労働者を苦しめるモンスタークレーマー、モンスター消費者。「ブラック企業VSモンスター消費者」というより、両者は密接に関係している。
本書を読んでドクターXの米倉涼子の「いたしません」を思い浮かべた。
サービス業が拡大し、「おもてなし」「サービス」が求められる――それが、働く人の職務・範囲がはっきりしていない日本の社会(文化)のなかで雇用されると歪みが生ずる。「もてなされる」のが当然になると「モンスター消費者」の一因となり、それがまたブラック企業の「君にはいつもクレームが来る」として解雇の因にもなる。消費者は「サービス」はタダだと意識が強い一方で、企業側は「付加価値」「サービス」と称して、残業代を払うどころか、際限のない労働を消費者に提供するよう従業員に強いる。勿論、過当競争も背景にあるが、そうした「おもてなし」「サービス」の過剰要求と、日本社会の「休まない文化(欧州ではコンビニも休みをとる文化)」、さらには「命令に従順な日本人」が一体となって、働く若者を追いこんでいく。サービス業従事者の職務・範囲が定義されない雇用システムが悪循環をもたらすという。
日本人論や文化論に拡散させないで、問題は労働問題だという。体が壊れない労働時間で、休める時間を増やして、暮らせるだけの賃金を得られるベースで産業を設計しなおそう。長すぎる労働時間と、無限に広がる職務という日本の特殊性を直視し、「過労防止基本法」「最低休息期間制度」「労働契約を具体的な職務に基づくものとし、職業訓練制度、職業資格制度の充実・強化」――これらからまず始めようと、提起している。