「年功序列が奪う日本の未来」という副題がついている。3年で3割辞めるという新卒離職率、心の病をかかえる30代社員の急増、そしてニート、フリーター、非正規と正規社員。その正規社員の若者も恵まれてはいない。若い時の苦労は報われないし、ポストはこないし、給料もふえない。
無意識のうちに、昭和的価値観の「年功序列」のレールが今の日本にはある。しかし、現実にはそれが崩れている。この10年は急速だ。戻せるのか――そうではない。
年功序列は、組織が常に一定の成長をし、ポストがふえ、定期昇給が全ての人にあるようでなければ成り立たない。団塊の世代はそのなかで生き、勤続年数と基本給で決まる退職金も年金も多いからいいが、今の若者は下働きでキャリアも積めない。そして途中下車をする。
最近やっと成果主義がとられても従来の年功序列制度のレールの上に加えられた程度だ。年より功に少し重きが置かれるにすぎない。
大事なのは、レールに乗り続けても希望はない。レールに乗るだけで、何をやるかを志向しない日本人の意識革命、企業の側も成果主義を実現するには単線のサラリーマンでなく、キャリアの複線化を図ることだ。するとそこには当然、社内競争が始まり、今までの「何でもやります」とこなすだけの人間では人材とみなされなくなる。30代の心の病はそうした競争・不安・落胆、レールから放り出されることより生ずる。年長者ほど有利、派遣社員ほど便利、1999年の労働者派遣法の影響も出ている。新規採用の削減はおかしいと著者はいう。
若者を犠牲にするな。年功序列が若者の昇給を押え非正規社員をふやして使い捨てにしている。本書は若者の自立と自由な挑戦に頑張れコールを送っている。
「会社は誰のものか」という人がいるが、「誰のためにあるのか」だ。
株主のため、従業員のため、お客様のため、社会のため、国家のためで、金儲けのためなら会社をおもちゃのように売買したり、自由にしていいというのではない。国際競争力維持のために、この国は「人と技術」しかないのだから、科学・工学技術者の育成や、技術開発の基盤となる中小企業育成に十分な策を講ずべきだという。
「中間層に厚みを増す社会」という私の主張は、そうした面でも大切ということだ。改革力をつけるためには膿を全部吐きだし、身を切れ、とも。国際社会で勝つためには、借金経営の経営基盤の脆弱さを脱せよともいう。
経営者の感覚から「部分最適より全体最適を重視せよ」「日本人は手段を目的化する傾向があるから、仕事に命を賭けるな」「終身雇用、年功序列、成果主義への視点」「要は人づくりにある」「セーフティネットを設けた上での競争社会を」など、自らの苦闘のなかで培った哲学が示されている。