つまをめとらば.jpgこのたびの第154回直木賞受賞作。一年前、青山文平さんの「鬼はもとより」が、直木賞をとると思っていた。今回の「つまをめとらば」が受章して本当によかった。絶妙の筆致、奥行きといい、人心の機微、日常における人生の信念と芯、そしてゆったり流れる時間とテンポの心地良さ・・・・・・。

「つまをめとらば」は、幼なじみの五十過ぎた爺二人が再会し、貞次郎が「この齢になってなんだがな、世帯を持とうと思っておるのだ」ということから話が始まる。互いの人生経験、男と女、他人がいっしょになる夫婦というもの、結婚と離縁・・・・・・。「貞次郎との二人暮らしの日が重なるにつれて、省吾も、自分がなにをいちばん欲していたかに気づいていった。それは、つまり、貞次郎が言った平穏だった。平らかであり、穏やかである、ということだった」「三人の妻といるときは平穏とは無縁だった。常に、彼女たちなりの正しさに、付き合わなければならなかった。・・・・・・なにしろ、彼女たちは、まちがっていないのである」「1人暮らしになったときは、・・・・・・諸々の煩わしさから解き放たれたことを喜んだが、これは束の間で、すぐに孤独が目の前に居座った。静謐ではあったが、平穏ではなかった」「貞次郎にとって最も大事なのは、素晴らしい算学の問題をつくって、空と己が一つになることなのだろう」――。男の強さと女の靭さ。男の煩悩と女の生死。男の野望と女の現実。その他人が結ばれる夫婦というもの。本書はこのほか「つゆかせぎ」「乳付」など五篇が加わっている。いずれもいい。


23区格差.jpg諸データで東京各区の違いを分析している。各区をランク付けするのは、いかがかと思うが、日本をけん引し、世界一の東京をめざしての役割分担として各区の特徴を考えてみるということだ。各区が独立してバラバラに競い合っている訳ではないからだ。

高齢化率、病院や大学の数、所得、子育てのための諸施策、防災・減災や犯罪抑止への努力、人口の増減や外国人の比率、1人暮らしの内容と現実・・・・・・。それぞれ提起される現実のデータはシビアだ。しかし、東京各区が懸命に努力しており、変化している。事実、そのデータも急速に変わってきている。「住」ということは、まさに○○区に住むことだが、「何かの縁」にふれることと、「住宅費」「交通の利便性」などがかなりの要素を占めると思う。私の住んだり、活動してきた北区、板橋区、足立区、文京区、台東区、中央区などは、個性も違うが、いずれもいい所だ。


「絶筆」で人間を読む.jpgゴヤの「我が子を喰らうサトゥルヌス」から最後の「俺はまだ学ぶぞ」、ミレーの絶筆「鳥の巣狩り」、ティツィアーノの絶筆「ピエタ」など、すさまじい気迫の絵画もあれば、色彩の艶は褪せ、無味乾燥の教科書のごときボッティチェリの「誹謗」、魂が抜け落ちたダヴィッドの「ヴィーナスに武器を解かれた軍神マルス」などの晩年の絵画もある。ボッティチェリ、ラファエロ、ブリューゲル、グレコ、ルーベンスからフェルメール、ゴッホに至るまでの15人の画家の「絶筆」に迫り、生きざまを剔り出す。「畢竟、芸術作品は、産み出した本人を語るものだから」と中野さんはいう。

「明治時代に西洋文化を積極的に学び始めた日本は、ちょうどそのころ大人気を博していた印象派作品を、絵画の手本と思ってしまった節がある。・・・・・・それは長い絵画史におけるほんの最近の潮流にすぎない。西欧絵画はまず神とともにあり、王侯の嗜好とともにあり、時代ごとの民衆の生活とともにあった」・・・・・・。中野京子さんの著作にはいつも引き込まれる。


人生のみちしるべ.jpg宮本輝・吉本ばななの対談。実にいい対談となっている。「ばななさんの小説には、下卑た人間、嫌なやつってあんまり出ていないんです」「文学というのは、自分の小さな庭で丹精して育てた花を、一輪、一輪、道行く人に差し上げる仕事なのではないか――。現実世界は、理不尽で大変なことばかりだからこそ、せめて小説の世界では、心根のきれいな人々を書きたいと。書き手の心構えとして、その点は、ばななさんとも通底するんじゃないですか」ということから対談が始まっている。

誰もが実は直面している日常の生老病死。生きて死んでいくことをどう捉えるか、そのなかでの幸福をどう捉えるか。有無の二の語も及ばず、断常の二見を越える世界を如実知見する生命力――そんな語らいが続く。宮本輝の最新作「田園発 港行き自転車」で私は、「縁の世界」と「肯定の世界」を感じたが、「小説の世界では、心根のきれいな人々を書きたい」(宮本輝)、「輝先生の小説を読むと、気持ちが大らかに、優しくなるのかもしれません。人生を肯定したくなるんですね」(吉本ばなな)という言葉で、対談は結ばれている。


平成川柳傑作選.jpg毎日新聞紙上で、休刊日以外は休みなく掲載された「仲畑流万能川柳」のなかから選び抜いた秀作1365句。じつに4年半、248万句から厳選されたものだ。

「肉眼じゃわからないけど痩せました」「ぐれてやる即言いかえすぼけてやる」「お掃除の人が来るから片付けよ」「きれのあるビール飲んでもきれ悪し」「死んだ気でやれば死ぬかも知れぬ齢」「夫婦してのどまで出てる名を探し」「クラス会秀才こないなぜだろう」「酔うと出る昔の栄光いまの愚痴」「寝ちゃ駄目よ1泊5万なんだから」「ストレスをくれるストレスないお方」「『話せると面倒ですよ』獣医言う」「にこやかに別れたけれど誰だっけ」「神様が時々なさるえこひいき」「ヤなことば余生晩年未亡人」「あの世にはいったい何人いるんだろ」「弱いくせネット上では強くなる」「プチ整形したらというがしてるのよ」「内容は画一なのにバラエティー」「ゴーヤ植え窓が暗くて電気つけ」「1年の内閣が言う10年後」「株上げて税上げないで利子上げて」「出生欄ふり仮名なければ読めません」・・・・・・。

とにかく面白い。客観視できる時には乗り越えている。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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