黒田官兵衛その生涯.JPG逸早く信長を天下人になるとし、秀吉の下で軍略の才を発揮し、荒木村重の裏切りによって捕われる。有岡城の落城、救出、本能寺の変、水攻めの策と中国大返し、秀吉の天下統一......。まさに官兵衛の面目躍如たるものがある。

しかし、「世に恐ろしいものは徳川家康と黒田官兵衛である」(秀吉)。当初は竹中半兵衛も懸念した溢れんばかりの軍略の才知と野心は、秀吉の警戒心・疑心をより高め、官兵衛もその心を読んで戦慄する。「利を休めよ」との千利休を想起させるが、それが如水円清の名にも現われる。晩年の秀吉の傲慢と狂気への幻滅、石田三成の中傷と野心が家康と官兵衛の接近を生ずることになる。

そして関ヶ原――。主役となるのは官兵衛ではなく黒田長政だ。隠居の形はとっても、官兵衛の戦いの血は騒ぎ、九州平定から天下をもにらむが、関ヶ原によっての天下静謐はその野望を潰えさせる。そして家康もまた官兵衛を危険視した。

智略、人間学を備えた天才軍師は、軍師そのものの生き様として完結したが、それを超える将たる素質を蓄えていたがゆえに、はたして人生として完結したかどうか。すさまじい巨人の生涯だ。


日本人へ危機からの脱出篇.JPG「リーダー篇」「国家と歴史篇」に続く第三弾、民主党政権の始まりから安倍政権誕生までの期間の42本。日本の"決められない政治"、3.11東日本大震災、そしてユーロ危機、モンティ内閣・・・・・・。イタリア(文明と文化の欧州)と日本と古代ローマを踏まえた深き思索とゆるぎなき視点が開示される。

「明治維新が成功したのは、維新の志士たちも反対側にいた勝海舟もイデオロギー不在であったからだと、私は思っている。・・・・・・彼らを動かしたのは、危機意識であった。・・・・・・イデオロギーは人々を分裂させるが、危機意識は団結させる」「(永井陽之助のアメリカでのジョーク『世界に絶対ないものが4つある。アメリカ人の哲学者、イギリス人のクラシック作曲家、ドイツ人のコメディアン、日本人のプレイボーイ』を引いて)日本人は、馬鹿正直でお人よしで世間知らずで、それでも日本人同士ならば充分にやっていけるので、悪知恵を働かせる必要に目覚めないのだろう(他国人となると通用しにくくなる)」「(日本人は)入社試験に限らず、拒絶されるということへの反応が過剰すぎると思える(政治家も、就職も、安定志向の社会も)。・・・・・・どうにかなりますよ」「人間は、不幸なときこそ真価が問われるのだし、予期していなかった事態にどう対処するかに、その人の気概が表われるのだ」「指導者に求められる資質は次の5つである。知力。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。ユリウス・カエサルだけが、このすべてを持っていた」「寄って立つ支柱がなければ生きてこられなかった人は、その支柱が倒されても必ず別の支柱を求めるようになる」「権力自体は悪ではないのだ。リーダーを自覚できない人間が権力者であった場合にのみ、権力は悪に変わる(そうしたリーダーを選ぶな)」「衆愚政にだけは向かわないように。一人一人が愚かになった訳ではなく、一人一人が以前より声をあげ始めた結果ではないか。加えて、これら多種多様になること必定の民意を整理し、最優先事項を見きわめ、何ゆえにこれが最優先かを有権者たちへ説得した後に実行するという、冷徹で勇気ある指導者を欠いていたのではないか」・・・・・・。考えること大であった。


ロスジェネの逆襲.png半沢直樹――「顧客を優先し、自らの地位さえ顧みない肝のすわった仕事ぶり。知恵と努力で相手を上回り、僅かな糸口から事態を逆転に導く手腕」「どんな場所であっても、また大銀行の看板を失っても輝く人材こそ本物だ。真に優秀な人材とはそういうものなんじゃないか」「自らのサラリーマン人生を賭した。その結果、どんな事態が降りかかろうとも、半沢は決して後悔などしない。その信念と、潔さこそ、半沢直樹という男の真骨頂だ」「人事が怖くてサラリーマンが務まるか」......。

東京セントラル証券に無念の出向となった半沢はIT企業の買収を担当する。そこに立ちふさがったのが、なんと親会社の東京中央銀行だった。団塊の世代、バブル世代、ロスジェネ世代。それぞれに社会と組織の見方は確かに違うが、それをグチるのではなく、世代を突き抜けて戦え――半沢の魅力が本著でもあふれ出ている。半沢直樹シリーズの最新作。


キャプテンの責務.jpg2009年4月、米国船籍の貨物船「マークス・アラバマ号」がソマリア海賊に乗っ取られた。船長リチャード・フィリップスは乗組員を救うために人質となり、救命艇で連れ去られる。恐怖、緊張、暴行、勇気、息詰まる攻防......。そして米海軍特殊部隊によって救出される。オバマ大統領をはじめとする米国民の歓声。本書はフィリップス船長自ら書いた「いかに5日間を生き延びたか」の壮絶な記録。

この10月、「キャプテン・フィリップス」としてトム・ハンクス主演で映画化された。

生々しい現実を突き付けられる。


世界の美しさをひとつでも多く見つけたい.JPG「世界の美しさ」とは、世界各地の想像を絶する過酷な現場、戦争、貧困といったギリギリの極限状況のなかでも"生きなければならない"、業を背負った生命から噴出する「人間の美しさ」だ。希望を見い出し、光を見付けようとする人間のむき出しの生命力と、そうした次元において発見する"人の支えの力"だ。石井さんはそこに「小さな神様」「小さな物語」を発見し、「人と人とを結びつける。人にまったく知らなかったことを伝える。人が胸の内に大切に抱えているものを肯定する。人が人を思い、支えようとする・・・・・・」という、壮絶な人間世界をドキュメンタリーとして「責任」をもって表現してくれる。人間が自分の孤独を埋め合わせてくれる存在や「ぬくもり」をいかに求めているか。それが光とか希望というものとアイデンティティの正体であることなど、指摘は鋭く温かい。

 "装飾"に満ちた世界の対極に、人間の美しさが浮き彫りにされる。石井さんの"真っすぐ"な眼でこそ見える人間世界だ。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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