「公共事業が日本を救う」「救国のレジリエンス」などの著書でも知られる、現在、内閣官房参与(防災・減災ニューディール政策担当)を務める気鋭の藤井さん。本書は国土強靭化、公共事業を当然書いているが、そうした現状分析や技術的データを駆使する本では全くない。表題にあるように「思想」であり哲学。文明論であり政治哲学の本であり、心理学にも論は及ぶ。副題に「強い国日本を目指して」とあり、国土強靭化のなかに貫かれているのは、日本強靭化であり、日本人強靭化だ。
時々挿話される「映画ガイド」がとてもいい。終章の「世界一タフたろうとする決意」にある村上春樹論もいい。「一身独立して一国独立す」も、まちづくりが「民俗の力」にまで及んでいい。
「諦め物語」を「希望の物語」へ。デフレは日本人の精神をも蝕み、「諦め」と「しょうがない」症候群を生んでいると思う。本来の「諦め」は東洋思想の「明らかに観る」という如実知見、諸法実相の哲学に立つべきものだ。卑俗な「ニヒリズム」と「ポピュリズム」を越える時、はじめて21世紀の日本が動くはずだし、動かしたい。気鋭の良い本。
「長生きを心から喜べる社会へ」と副題にある。
「人生100年社会」が来た。日本は男性片働き、男性世帯主モデルに固執し続け(それが成功体験になってしまってきた)、それが税制をはじめとして型をつくってきたが、男女とも税金を払って国を支える雇用の国、福祉の国、男女平等の国に切り替えないと超高齢社会は乗り越えられない。「遠くの親戚より近くの他人に切り替える」「在宅死できるよう(グループホームのような特別住宅も含む)切り替える」「出産退職、M字型を男女平等、持続可能な社会に切り替える」「ケアを加えたワーク・ライフ・ケア・バランス社会に切り替える」「大介護時代は総力戦、全員参加で挑む」「老老親子世帯、老親と独身の子世帯、男性介護者の増加、高齢者虐待の加害者第1位は息子、団塊の世代に起こる同時多発介護、などの変化を直視する」――。
そうした現状を語りつつ、樋口さんは、希望の動きが各地域で生まれている。全ての人が人生のどこかにケアを組み込む、介護を人々と分かち合い、「ながら」介護でいこう。全てを介護のために諦めなくてすむ社会への取り組みを始めようと呼びかけている。
「人の器の大きさは一体何で測るものだろう。指導力や構想力など、さまざまな要素が挙げられようが、"赦す力"の中にこそ、西郷隆盛という人間の器の大きさを見ることができるのではないだろうか」「優れた政治家は人間学に通暁しているものだ。それは相手の立場に立ってものを考えることのできる能力を人一倍持っているということだ。西郷には、勝の置かれた立場が手に取るようにわかった」「命もいらず名もいらず 官位も金もいらぬ人は仕末に困るもの也 この仕末に困る人ならでは 艱難を共にして国家の大業は成し得られぬ也」「事大小となく 正道を踏み至誠を推し 一事の詐謀を用うべからず」――。
西郷は民主的な徳治国家を追い続け、大久保の国権的な中央集権国家との間に亀裂を生じる。西欧流国家への志向と、そのなかで新政府の果実を奪い合う人間の発する腐臭に西郷は耐えられなかった。日本人は欧米列強に比して、断じて劣るものではない。欧米の金と物欲の邪神に毒されず、日本人が持つ高い倫理性と精神性を純粋に練り上げよ。そう感じた内村鑑三は、西郷を「代表的日本人」の巻頭に置く。
勝海舟、大久保利通、坂本龍馬、木戸孝允、高杉晋作、大村益次郎、山岡鉄舟......。これら人物を、北康利さんは見事に描き、西郷が行き着いた境地を静かに、堂々と、鮮やかに示してくれている。
名文、心にしみる言葉、人生の真実、社会の欺瞞......。こんな言葉に出会い、そんな言葉を吐いた人の境地と境智にふれることは、至福である。
「呑気と見える人々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする(漱石)」「才能も智恵も努力も業績も身持ちも忠誠も、すべて引っくるめたところで、ただ可愛気があるという奴には叶わない(谷沢永一)」「お金がすべてじゃないわ。持っている人はそう言うんです。(ジャイアンツのエリザベス・テイラーとジェームス・ディーンの会話)」「そら原作者の眼から見たら、ずいぶん不満もあるやろ、せやけど天狗ワテがつくった。これをいうたらあかん、しかし小説が売れた理由の一つはワテや、ワテの立ちまわりや(竹中労が書いた嵐寛寿郎の言葉)」「修学旅行を見送る私に『ごめんな』とうつむいた母さん、あの時、僕平気だったんだよ(日本一短い手紙)」「僕が母のことを考えている時間よりも、母が僕のことを考えている時間の方がきっと長いと思う(NTT)」「うますぎると評判ですが 私もそう思います(井伏鱒二が車谷弘の句集に対する葉書)」「『いいお酒ですな』と人に感心されるようなのみかたが、あんがい静かな絶望の表現であったりする(高橋和巳)」「美空ひばりには神様がついているけど、加藤和枝には神様がついていない(ひばり)」「東大出には、赤門とバカモンがある(山藤章二)」「私が田中角栄だ。小学校高等科卒である(中略)。できることはやる。できないことはやらない。しかしすべての責任は、この田中角栄が負う。以上。(田中蔵相就任の大蔵省演説)」――全てに生身のその人が出ている。
アデン湾を荒らし回っていたソマリア海賊はその範囲を広げている。インド洋西部の東経78度以西、南緯10度以北で区切られる海域がハイリスク・エリアとして指定され、各国は協力して安全保障のネットワークをつくり、緊密に情報交換をしている。
本書は海賊の実態、手口、装備の全貌を明らかにしつつ、海賊対策について詳説している。情報収集・インテリジェンスの強化とともに、現在、国会で法案審議となっている民間武装ガードについても語っている。資源開発で活況を呈しているアフリカと、資源の輸入が生命線である日本の戦略について、丁寧に論述してくれている。先日も、前線で本当に、頑張ってくれた海上保安庁職員から帰国報告を聞いた。