表
題から感ずるイメージと違って、内容は深い。基軸がしっかりしている。「紛争によって大量の死者・虐殺を出してきた世界(人為の国)」「自然災害で大量の
死者を出してきた日本(天為の国)」が、世界と日本との死生観から都市のつくり方、思考の違いまで生み出している。それを正確に認識しない限り、大きな気
候や地殻の変動、グローバリゼーションのなかにある日本の未来はない。「装置インフラを日本人はなぜ軽視するのか」「日本人はなぜ合理的になれないの
か」、そして日本人のDNAに刻まれたとも思える思考癖が、政治・行政・世論・メディア・外交・国
土学・国土のネットワーク等々、あらゆる場合で噴き出すことを剔抉する。いわゆる日本人論は多いが、大石さんは、政治・行政・国土に直接働きかけてきた人
だからこそ、抑制的ではあるが怒りや嘆きや使命感が伝わり、説得力があ
いよいよ(東日本大震災をきっかけに)本物の大空洞化が始まっている。高い法人税、がんじがらみの規制、円高、電力不足・・・・・・。グローバル企業は日本脱出を狙い、ロイターの調査では日本の21%の企業がビジネス拠点を変えると答えた。
救済政策は「強きを助け、弱きをくじく」が本来だ。「弱きを助ける」のは救済原理に基づいて行なう社会福祉政策だ。そうしたことから「責任回避システムが 社会を壊す」「大空洞化時代がはじまる。開国を急げ」「電力産業はどうあるべきか(冨山さんは産業再生機構のCOOだっただけに東電賠償をはじめとしてリ アルな分析をしてみせる)」「東京の集積力を磨き上げよ」「フロンティアを目指し、イノベーションを(東北を課題最先進地域に)(アジアをフロンティア に)」等を示し、「若い人の台頭、世界に打って出よ」と結ぶ。政治・行政の中に入った二人だけに、リアル。
1850年以降の歴史を俯瞰している。しかも世界と日本、そして経済と文化と官僚という視点が常にある。「東日本大震災は"戦後日本"の"終わり"を告げ
る大災害である。・・・・・・まさしく戦後日本の敗戦だ」という。たんなる敗戦ではない。明治維新の時も、あの昭和の戦争の時も、20年にわたる「下り
坂」、低落と言う足掻きと苦闘の果てのもの。今度も20年にわたる下り坂の末の大震災、つまり「戦後日本の終わり」を告げる第三の敗戦だと指摘する。
この本は読んで楽しい。伊集院さんが、涙も喜びもやさしさもいっぱいため込んで、自分の気持ちのまま生きているからだろう。粋で他者にやさしい。言葉はビシッと厳しい。たとえば新成人の若者への「大人の仲間入りをする君たちへ」で8つ言っている。兄貴が愛情こめて言っているようでいい。「妻と死別した日のこと」が出てくる。生老病死の極みでとったとっさの行動、そして「人はそれぞれ事情をかかえ、平然と生きている」と結んでいる
「"無縁死"3万2千人の衝撃」を追ったNHKスペシャルをはじめとした取材の集大成。
深刻な現実が水面下で進行している。社会が変質している。他人に興味を持たない社会。血縁が希薄化し、家族・親族という社会の最小単位、絆が崩れる。地域のつながりも喪失し、孤独と不安が深くしのび寄る社会。
「無 縁死=行旅死亡人」「広がる直葬」「急増する遺体の"引き取り拒否"」「単身化の時代」「都会に移る高齢者」「共同墓」――それらは借金の連帯保証人、離 婚、病気、生涯未婚、雇用の悪化など多くのきっかけがあるし、誰にでもあることだ。もっというと「誰にも迷惑をかけたくない」という日本人の心がある。
「つながりをつくろう」「迷惑なんかじゃない」「頼って頼られて、それでいいじゃないか」と行動を起こすなかで、「他人に興味を持たない社会」を「人、そして、"いのち"を思いやれる社会」に変えようと取材班は呼びかけている。