政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.160 CO2削減のカギ握るEV、スマートシティ/未来に向けた「グリーン」「デジタル」の成長戦略
ロシアのウクライナ侵攻から1か月余――。ウクライナの必死の抗戦でロシア軍の苦戦も伝えられ、停戦協議も始まっているが、ロシアの蛮行は続いている。許されないことだ。今回の暴挙は、国際社会が長年築いてきた「力ではなくルールに基づく国際秩序」を、大国自らが覆す許されざる出来事だ。日本をはじめ国際社会は決然と対峙することを常に示し.結束・対応しなければならない。
同時に、なおコロナ禍にある日本は、油断することなく感染抑制、生活・医療・企業支援を続けるとともに、急浮上している原油・エネルギー等の資源価格や資材の高騰に迅速に対応することが不可欠である。こうした急変する世界的な外交・経済社会の変化に対して、その構造変化を看取し、時間軸をもっての対応を常に考えなければならない。この10年は、ますます大事な10年となっている。
我が国がめざす「2050年カーボンニュートラル」。その実現に向けて、昨年改定した地球温暖化対策計画では、2030年度に温室効果ガスを13年度比で46%削減、さらに50%削減の高みに向けて挑戦するという目標を掲げている。脱炭素社会、グリーン社会実現の成否がかかる2030年までは、まさに20年代こそ「勝負の10年」だ。
その達成のためには、産業部門に次いで排出量が多い運輸部門の削減がカギを握っている。運輸部門の排出量は我が国全体の約2割。そのうち自動車からの排出量が約9割と大半を占めている。
しかし、我が国の新車販売台数のうち、環境性能に優れた電動車(電気自動車・EV、ハイブリッド車・HV、プラグインハイブリッド車・PHEV、燃料電池車・FCV)の占める割合は約35%。EVだけで見ると、わずか0.5%にとどまっている。ヨーロッパや中国に比べ、普及が大きく遅れている状況だ。2030年度の削減目標、さらに「2050年カーボンニュートラル」を達成するためには、ガソリン車やディーゼル車から電動車への転換にアクセルを踏み込まなければならない。
政府は昨年6月の成長戦略会議で、「2035年までに、乗用車の新車販売で電動車100%を実現」という目標を立てた。そのためには、特にEVの普及を進めていくことが不可欠だ。蓄電池の容量や寿命、充電スピードなどの技術的課題や、まだまだ充電スタンドが少ないといった利便性の問題はあるが、EVの普及は、社会に大きな変化を生む可能性を秘めている。特に私が重要だと考えるのが、「エネルギー」、「イノベーション」、「まちづくり」だ。
まず「エネルギー」。EVは、運転時だけでなく製造過程でも使用する電力が大幅に増えるので、それを賄う電力は再生可能エネルギーによる脱炭素化が大前提になる。世界の熾烈な競争のなかにあるEVだが、その普及は、太陽光、風力、中小水力など再生可能エネルギーの比率を大幅に高めていく弾みになるはずであり、同時並行の実行が肝要だ。
また、EVは、電気を使うだけでなく、停電時には外部に電気を供給できるため、「動く蓄電池」になる。蓄電池についても世界の競争は激しい。リチウムイオン電池では日本が「液体」でリードしてきたが、急加速に負けない不断の研究開発が重要となる。避難所のエネルギー源として多くのEVを活用すれば、災害時の不便を大幅に解消できるはずだ。
次に「イノベーション」。自動車のガソリンエンジンが電動モーターに変わり、自動車産業とIT、電機産業が連携することで、これまでになかったような車の使い方、価値が生まれる可能性がある。
とくに、EVは電気系で駆動・制御するため、デジタル技術を組み合わせて自動走行・自動運転の技術に繋げやすい。自動車のEV化と自動運転の実装を同時並行で進めていけば、ヒトとモノの移動のあり方が大きく変わっていく。自動運転により人間の操作ミス・運転ミスによる事故がなくなるし、歩行者にとっても安全な環境が生まれる。公共交通機関が不十分な地方などでは、高齢者など移動弱者の移動手段になる。トラックやバスのドライバー不足の解消にもつながるはずだ。
そして「まちづくり」。EV、自動運転が普及すれば、都市が進化する。AI、IoT、ビッグデータなどのデジタル技術を駆使してさまざまな暮らしの課題を解決し、人の利便性を向上させるスマートシティだ。
自動車の走行データをリアルタイムに収集・解析して、渋滞なく移動できるようになれば、省エネルギー、時間的ロスの削減、生産性の向上につながる。電力供給も、環境シミュレーションや分散型エネルギーシステムの導入により、再生可能エネルギーの最適化を図れる。
スマートシティの実現に向けた取り組みは、すでに動き出している。静岡県裾野市の自動車工場跡地では、「ウーブン・シティ」の建設が始まった。これは、自動運転のほか、AI、ロボット、パーソナルモビリティ、スマートホームなど最先端の技術を導入するこれまでにないまちづくり。完成後は約2000人の住民が住み、暮らしを支えるモノやサービスがつながる実証都市だ。
2030年までのダッシュ――。「グリーン」と「デジタル」を車の両輪にして、未来に向けた成長戦略を進めていかなければならない。