runri-.jpg「日本へ大脱出する中国人富裕層を追う」が副題。「中国人が日本の土地やビル、タワマンを買っている」という話はよく聞くが、最近「開成などの有名中学受験で中国人が大勢合格している」などの話を聞くことが増えている。「潤」は中国語で「儲ける」という意味だが、発音のスペル(u)が同じ英単語から、逃げる意味を掛け合わせた流行り言葉。「様々な理由から良い暮らしを求めて、中国を脱出する人々」のことだと言う。最近、この新たな事態が日本で本格的に始まっている。その実態と本音を現場を徹底して歩いた衝撃的なレポート。

「潤」の人々は、この数年、特にコロナを経て急増してるようだ。「中国新移民はタワマン住民や超富裕層だけでなく、いわゆる中間層に相当する人も一定程度含まれている。祖国の経済減速の煽りをモロに受けた人々が、あの手この手で新天地・日本に活路を見出そうともがいている」「『潤』の人々は大別すると『良好な教育』や『資産の保全』、『言論の自由』を求めて日本へやって来ている」と言う。

「悪化を続ける受験戦争を避け、良質な教育を求めてくる一家」「祖国での高額なマンションを売り、割安なタワマンなどを通じて資産保全を図る中年層」「毒された情報空間から抜け出し自由な言論空間を享受したい知識人」「行き過ぎた愛国主義を恐れるうちに、安心安全なリタイア生活を過ごしたいと思うに至った経営者」などであり、「そうした人々に共通するのは抑圧から逃げる姿勢だ」と言う。

そうした衝撃的なエピソードを、次々にレポートする。「世界の現象としての潤(シンガポールに殺到する中国人)(歩いて米国に密入国も)(新華僑のモードはサバイバル、潤日は自由で豊かなライフスタイル)」「タワマンに住む人々(1520%中国人の東京湾岸タワマン)(受験の4大塾が揃っている)」「新お受験戦争(良質な教育環境を求める上海のアッパーミドル)(日本のインターナショナルスクールは中国人だらけ)・・・・・・

「引退組企業家安住の地(ジャック・マーのお忍び生活)」「独自のエコシステム」「地方という開拓地(ニセコの今) (首都圏で進む不動産開発) (千葉県鴨川など地方高校の中国人留学生受け入れ)(福岡の香港人コミュニティ)」「焦燥する中間層(経営者が日本市場に熱視線) (日本は中国の第二学区)」「リベラル派知識人大集結(北京で年々縮小する言論空間) (東京が知識人にとって最前線に)(第二の孫文は生まれるか)」「抗議者、小粉紅、支黒、大外宣」・・・・・・

「『潤』は世界の潮流の中で理解しなければならない」「『経済安保』や『抑止力強化』といったお題目だけでは対応しきれない、リアルな現象の数々が肌感覚を持って広がっていた」と言っている。 


kabukimon.jpg「火事と喧嘩は江戸の華」――江戸の文化文政時代の芝居小屋。庶民文化の沸騰ぶりが、躍動感のなか描かれる。著者はなんと現役東大生。9歳の頃、からくり人形芝居「忠臣蔵」を観たことから歌舞伎にハマっていき、毎月のように群馬県から歌舞伎を見に通ったという。

芝居町きっての色男、音羽屋の三代目尾上菊五郎、江戸の芝居の現人神とも称される成田屋の七代目市川團十郎、縦横無尽の大作者・鶴屋南北が、ぶつかり合いながら躍動。團菊に心を奪われる大店の娘、やんやの喝采を送る江戸庶民、「金子が大の好物」とちょっかいを出す玉川座、中村座の業突く張りの金主・大久保今助・・・・・・。その次々に起きる騒動が描かれるが、華やかな江戸庶民文化を彷彿させる見事な筆さばきに感心する。

最初の場面は、「助六所縁江戸櫻」の江戸随一のいい男「助六」を当たり役にする市川團十郎に、「俺も助六」と大喧嘩を仕掛けた菊五郎の「助六騒動」。

「ためつすがめつ」――。若君の身代わりに実の子の首を討たせる「菅原伝授手習鑑」の見せ場。「型を守る芝居の天才に立ち戻った」團十郎の新たな工夫。凄まじい世界。

文政6年市村座、春狂言「浮世柄比翼稲妻」初日。ヨリを戻した團菊の共演で大入り御免を叩き出す。團菊がすれ違う拍子に、腰の方の鞘がぶつかって、喧嘩になる場面で、なぜか本身の刀。「あの馬鹿ふたり、舞台で刀抜いちまったよぉ!」----

「連理松四谷怪談」――。菊五郎がやりたいのは古典の傑作「仮名手本忠臣蔵」。文政8年、夏狂言は「忠臣蔵」と「四谷怪談」を交互にやると、南北は考えた。市川團十郎扮する色悪・民谷伊右衛門、菊五郎を演じるお岩。南北の芝居づくりの才が冴えわたり大入り。

「盟信が大切」――。菊五郎を太宰府に追い払った座元と金主の今助。南北の新作は「忠臣蔵」と「五人切」をないまぜにした陰惨芝居。今助と南北軍団との戦い。「俺ぁ狂言作者だ、それっきゃできねぇ。ここを離れても書き続けるし、芝居をやり続けるさ」「ぼけたかい、南北さん! 小屋がなけりゃ芝居はできないよ、ましてあぁた金も人もいないんだろう?」「銭金で人を動かしゃ遅かれ早かれしっぺ返しよ。まっとうな人間なら金じゃあ動かねえ――人と人との信用は、銭金で買えるもんじゃねえや。・・・・・・這っても、泣いても出ていくぜ?」・・・・・・

そして、菊五郎が戻ってくる。「耶蘇噂菊猫」――。南北は菊五郎に十役早替わりを当て書きする。文政10年、夏芝居「独道中五十三驛」。菊五郎の化け猫はじめ十役早替わり、一座総出の大仕掛けの夏芝居は衝撃的な大喝采を受ける。

まさに「かぶきもん」。大向こうをうならせる面白さの初陣。 


pi-kuauto.jpg「『殺到する経済』と『合理的バブル』の限界」が副題。不動産バブルが崩壊し変調をきたしているといわれる中国経済。一方で、「新三様(3大輸出製品)といわれるEV、太陽光パネル、リチウムイオン電池の新興産業の快進撃が語られる中国経済――。中国経済の現状と今後を、経済学者とジャーナリストが解き明かす。

EVを始めとする新興産業という『光の部分』と、不動産バブルの終焉という『影の部分』の2つの現象は、いずれも『供給能力が過剰で、消費需要が不足している』と言う中国経済が抱える根源的な問題に由来している」「『一帯一路』構想は、貿易を活発化させて経済成長を目指し、国際的地位と軍事的プレゼンスの向上図るものと解釈されるが、実際には生産能力過剰を抱える中国が、国内では消費しきれない過剰な生産物を海外に輸出する経済対策という側面が強かった」「しかし2019年からは融資額より償還額が上回り、発展途上国の債務不履行のリスクが顕在化してきた。加えて、ウクライナ戦争の影響がある。中国の海外向け融資の20%がロシアとウクライナ、ベラルーシの三国が占め回収できなくなるリスクを突きつけられている」「EV等の『新三様』の先進国への輸出は『チャイナショック2.0』への警戒を強めており、新興国への融資も頭打ちだ」「長く続いてきた投資依存型の成長モデル、そこから生じる家計部門における有効需要の低迷こそが、中国経済の宿痾ともいうべき課題なのであり、現在の経済変調はその課題が顕在化したものだ」「過去20年にわたる不動産価格の高騰は、過剰投資の対象が不動産市場となって生まれたがそれが終焉。その過剰投資の是正策としての一帯一路もトーンダウン、新興産業、グリーン産業は過剰投資の最新のターゲットだが、それも生産能力過剰となっている」と言う。過剰生産と消費需要の低迷をいかに克服するかに焦点を当てている。

「中国の不動産市場に何が起きているのか(半減する不動産市場、荒野の巨大幽霊タワマン、チャイニーズドリームの終焉)」。「ポスト、コロナの不動産危機(企業債務の拡大はなぜ生じたのか、控えめだった財政出動、民生部門の保障不足)」。「新型都市化と不動産リスク(不動産危機、西へ)」「中国不動産市場と『合理的バブル』(長く続いた不動産バブルは、住宅価格がファンダメンタルズから発散しそうになると政府が手を打ち、長期にわたって一定の資産価格の上昇が見られる合理的バブルであった)」と指摘する。

「中国社会を覆う悲観論」――。コロナ禍と不動産危機をへて、投資から貯蓄へと時代のムードが変わった。企業から積極性が消えたと言うユニコーン企業も増えていない。成長は続くと言う楽観性が全体に失われてきたと言う。そして「地方は財源不足」「政府は供給サイドの改革に執着し、その14の拡大には消極的」であったと言う。

「殺到する経済」――。EVと車載バッテリー(リチウムイオン電池が用いられる)は世界のシェアの約60%、太陽光パネルは80%・・・・・・。いかに普及させたかが解かれる。市場の拡大と「ブームに殺到する企業」の組み合わせによって、一気に生産能力が拡大する現象を、中国経済の観察者たちは「殺到する経済」「多産多死」と言う。いかに「殺到する中華EV」となったかを分析している。

世界に大きな影響を与える中国経済の現状と今後を現地ルポを交えて紹介する。 


Csenjouno.jpgごみ屋敷、開かずの金庫、一冊の本、赤い革表紙の日記帳、姑と嫁の抑圧された感情・・・・・・。心が押し込まれるような「介護ミステリ」。

中学生の時に、両親を突然の事故で亡くした美佐は、叔母の弥生に引き取られ、高校時代を山間の人口3000人ほどの田舎町で過ごす。結婚して以来20年、叔母に認知症の症状が見られると役場から連絡があり、懐かしい故郷を訪れる。しかし美しく丁寧に暮らしていた家は荒れ果て、ごみ屋敷と化し、玄関前には、新聞がバリケードのように積み重なっていた。

片付けを進めていくと、当時の恋人・山本邦彦から借りた本「ノルウェイの森」を見つける。「返しに、行ってみようか」――返しに行った美佐は、邦彦の奥さん・菜穂と姑・菊枝が争う衝撃的な場面に遭遇する。ギリギリのところで、それを止めるが、菊枝は美佐をじっと見て「みどり屋敷の、弥生ちゃんじゃないか」「エルメスのスカーフは、弥生ちゃん、あんたが持っていたんだ。やっと返しに来てくれたんだね」と言うのだ。また、開かずの金庫をやっと開けると、なんと「延長コード」が大事に入っていたのだ。

延長コード、エルメスのスカーフ、そして見つかった弥生の赤い革表紙の日記帳・・・・・・。共に認知が入った弥生と菊枝は、共に姑に苦しめられてきた者同士であり、「交換家事」までし合っていた友でありながら、誤解と愛憎を秘めたアンビバレンツ関係にあったことがわかっていく。ニ人の開かずの扉が開かれていく様子は、まさに新たな湊かなえワールドに引き込まれていく。

「わかっている・・・・・・。姑という生き物は、その立場になった途端、すべての人に厳しくなるわけではないということも。たった一人、嫁にだけ辛く当たるようになるのだ。どこの家も同じだとわかっただけでも、交換家事をしてよかったじゃないか」「あんたの世話になんか一生なるものか。祖母はことあるごとに、母に向かってこの台詞を口にしていた」「デイジー(菊枝)さんが勝手に上がって、盗んだ? まさか」・・・・・・

人生には、家族にも誰にも言えない「出来事」「わだかまり」「秘密」があるものだ。認知が進んでも、それはいつまでも忘れ去ることなどできないもののようだ。そしてせめて一人でもいい、理解してくれる人が欲しいものだ。 


sakewosyusyoku.jpgエチオピアは他のアフリカとあまりにも違うそうだが、そのエチオピア南部になんと酒を主食とするデラシャという民族がいる。栄養の大部分をパルショータと呼ばれる酒から得ているというのだ。本当だろうか。1日中、酒を飲み続ける生活とはどんな感じだろう。日常生活や健康はどうなってるだろう? それを知るには実際に行くしかない。なんと高野さんは全行程2週間、突入する。まさにトラベルはトラブル。嘘のような本当の旅の物語が綴られる。

エチオピア南部、デラシャに入る前に隣のコンソという別の民族の村に入る。コンソ人も毎日、食事のように「チャガ」という酒を飲むという。なんとコンソの村は狭く、石がびっしり敷き詰められている異形の村。チャガ造り、朝から晩まで酒、大酒飲みのハードワーカー、降雨量も少なく川には水がなく水は貴重。乾燥に強いソルガムを作るが、それだけでは栄養が足りないので、発酵させて酒にすると栄養分が賄えるということのようだ。食事の席で相手への経緯と愛情を込めて「あーん」、覚醒植物「カート」、村のチャガバー----。驚くべき世界が語られる。それでも「チャガなくしてコンソの生活が成り立たないのは間違いないにしても、主な栄養源はソルガム団子と豆類ではないか。多く見積もっても『酒』と『固形物』が半々ぐらいのように見えた」・・・・・・

そしてデラシャへ。「コンソの大人が飲むチャガが1日平均して2リットルであるのに対し、デラシャはパルショータという酒を5リットルも飲むという」のだ。まず、民家どころか、大がかりな民族資料的ヤラセ、フェイク家族で騙される。それがわかり、「ホンモノの家族とホンモノの酒飲み民族」に出会う。パルショータ造り、凄まじいノミ、シラミ、トコジラミ、ダニの襲来、無数のゴキブリの大群。「誰も彼も酒を飲んでいる。パルショータは食事と水を兼ね備えたスーパードリンクなのだ。酒は煮炊きする必要がなく、一日、陽にさらされていても傷まない。好きなときに好きなだけ飲める。仕事中にはこれ以上便利な飲食物はない。ヤギ追いの子供たちに出会ったが、彼らが持っているペットボトルの中身はパルショータ。5歳の女の子が『へべれけのおっさん』になっている」・・・・・・。「外部の人は絶対に気づかない穀物を入れる地下の貯蔵穴『ポロタ』」も興味深い。現地の病院を取材し、医師にデラシャの人たちの健康状態を尋ねると、「全く健康で何の問題もない。気晴らしや娯楽のためではなくパルショータは食事。飲むことにも慣れている。むしろ最近になって、グローバリゼーションにより肉や油を摂る生活になってから悪化している」と言う。その病院では、なんと病室で酒を飲んでおり、妊婦まで酒を飲んでいると言うのだ。おいおいと思って笑ってしまう。

「彼らは決して遅れているわけではない。自然と共生しているわけでもなく、自然を作り替えるディベロッパーでもあった。西洋文明が世界基準になってしまった今、『遅れている』ように見えるだけだ。『進んだ方向が違う』のである」と言う。2023年に、WHOは「アルコールが少量でも健康に有害」と明言したが、「飲酒している人の食生活全体は何も言及されない。飲酒に害があるとしても、それはつまみに塩気の強いものや脂っこいものを摂るせいかもしれない」「イスラム圏を長く歩いている私には、単純に酒を飲まない生活が健康に良いなどとは到底思えない。酒の代わりに頭が痛くなるほど甘いお菓子を食べ、甘いお茶を飲み、私のイラク人の友人は『イラク人はだいたい高血圧と糖尿病で死ぬ』と言っている。油や砂糖の取りすぎは酒の摂取より有害なんじゃないかと思う」と言う。

デラシャの人たちは油を摂取しないし、砂糖もほとんど取らないし、塩分摂取も少ない。「食生活全体を見る視点が現代科学では決定的に欠けているように思える」との指摘は鋭い。「遅れている」「酒は有害」などと言う単純な議論を打ち砕く面白すぎる体当たりのレポートだ。こんな胃痛や下痢、全身虫刺されの命がけの体当たりをやってのける高野さんこそ、信じられない恐るべき人物だと思う。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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