政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN

NO.6 今こそイノベーション日本

2010年2月20日

トヨタ自動車のリコール問題は、さまざまな問題を投げかけている。フロアマットが当初は焦点になり、次にアクセルペダルが戻りにくいということがいわれ、プリウスのブレーキが利かないように感ずるという点に発展した訳だが、そこには世界的な激しき競争にさらされている先端技術の高度化・複雑化の問題、そして情報社会のなかでの説明責任や危機管理の問題が鋭く問われている。ことは自動車に限らない。競争激化のなかで品質が問われる大変な時代に遭遇しており、それに挑むには相当な覚悟が必要だ。

まず、対応が遅れたということが指摘されている。不具合があったらただちに直す。謝罪・説明を素早くしないと不信と風評を増幅させる。危機管理がますます重要になっている。

もう1つ。それは先端技術の高度化・複雑化という宿命的課題だ。スピードと快適さ、安全性、石油の枯渇、環境への対応、燃費、そして価格も含む国際競争の激化など、全てに勝ち抜くための技術開発は極限化を余儀なくされている。自動車の場合、部品は3万点を超えるというが、複雑系のなかで品質を確保することは大変だし、先行しなければ勝ち抜けない。

こうしたことは実は自動車に止まるものではない。電機においても、ICT(情報通信技術)においても、医療においても、高度な先端技術が要求される難しい時代だ。

いずれの企業も組織も複雑化・高度化を押え込む能力を蓄積すること、そして、進化する顧客の要求に応える努力。加えて組織の官僚化や守りの姿勢を不断に克服し、磨くことが求められている。

私が思うのは、国や社会の役割だ。厳しい先端技術開発に必死な企業をどうバックアップできるか、強い意思をもって断行することだ。

第1に、全ての前提として、技術には光と影があり、人間の心がついていかないと暴走は止められない。開発するにも担う人材が必要だし、部品を製作するにも人材の厚味がいる。使う側にも、知識とともに相当のモラルが欠かせない。

大事なことは、人と社会の厚味をどう確保するかということだが、これが常に見落とされがちだ。国はこうした複雑化・高度化する社会に対応した幅広い教育(理工系も含む)を総合的に進めなければならない。

第2にイノベーションの推進だ。安倍内閣時代、経済成長戦略の柱は「イノベーション」と「オープン(国を開く、出ていくだけでなく外国企業と共に開く)」であった。そこで打ち出した「イノベーション25」は、2025年をめざし、どういう技術を育てるかという国の命運をかけた挑戦だ。

いうまでもなく、GDPの成長要因は、資本と生産性(イノベーション)と労働力の3つの要素からなる。人口減少社会となった今、私は労働力を男女共同参画型社会、60代の雇用、外国人労働者などの視点から改革を志向しているが、イノベーションの要素は経済戦略の要である。

ましてや、世界のなかで、日本の経済的地位は低下し、IMDの国際競争力ランキングは1990年1位、2008年は22位だ。しかもこれまで、国内の生産拠点が海外にシフトをしてきたが、このところ開発拠点、研究拠点までが海外に移転するという傾向がある。世界市場の伸びに伴い、日本のシェアが急速に縮小し、韓国企業などがグローバル市場に大胆な投資戦略をしていることなど、日本の戦略転換が不可欠だ。

この2年だけみても、日本はあらゆる機能で、アジアの中核拠点としての競争力を急激に失いかけているという危機的な状況に陥っている。日本の立地競争力が低下しており、とくにR&D(研究開発)拠点が急速に中国、インドなどに移っている。日本の事業コストが税制・空港・港湾などあらゆる面で高いことや、外国の人材の受入れの弱さなど、改革しないと大変なことになる。世界では、オープンイノベーション拠点の構築が進んでいる。ベルギーの"IMEC"は世界の500社が連携し、20年以上にわたって半導体研究開発拠点をつくり上げてきている。

「アジア版ニューディール」「アジアを内需と考えよ」と私は主張してきたが、あらゆる面で、内向きの思考を変えなければ、日本の未来はない。環境・エネルギー分野において世界トップのグリーンイノベーションを今こそ進めなければならないし、また医療・介護分野では再生医療・医療機器・ロボットの実用化など、ライフイノベーションをもっと進めなければならない。

グローバルな先端技術の熾烈な競争を見てはじめて、日本の置かれている現状がわかるのではないか。反転攻勢を急がねばならない。

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