政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN

NO,88 相次ぐデータ改ざんが示す社会の脆弱性/ものづくりの信用、信頼の回復を

2015年11月 7日

富士教育訓練センター20130731.jpg生活の安全・安心に直結する偽装問題が相次いで発覚した。工事や製品の性能に関わる基礎データを故意に改ざんする行為は言語道断。国民の不安・不信を増大させるだけでなく、日本が保持してきたものづくりに対する信用、信頼を著しく損なうものだ。

まず一つは、横浜市のマンションで発覚した基礎杭のデータ偽装。杭打ちの工事を担当した旭化成建材の担当者が、建物を支える強固な地盤(支持層)に杭が達していないにもかかわらず、データを差し替えて基準を満たしているように見せかけていた。さらに、杭の先端部を地盤に固定するセメント量についてもデータを偽装。その結果マンションは傾き、渡り廊下で約2㎝のズレが生じた。このマンションは約700戸が入居する大規模マンション。建替えに向けた合意形成やその間の生活の確保など多くの住民に大きな支障が生じる。そして何よりも、ディベロッパー、施工業者に対する消費者の信用を大きく損なうことになった影響は大きい。

そしてもう一つの問題は、東洋ゴム工業の製品性能の偽装だ。同社は今年3月、建築物の免震装置について、試験結果のデータを改ざんして国土交通大臣認定を不正取得していたことが判明。その後、免震装置以外の全製品も含めた監査と再発防止策を講じたにもかかわらず、今回、電車や船舶の振動を抑える防振ゴム製品でも性能データの改ざんが発覚した。相次ぐ不祥事に、同社のコンプライアンス確立が強く求められている。

住宅取得20150217.jpgこの二つの問題で共通しているのは、工事の施工や製品の試験というものづくりの現場で、担当者がデータを故意に改ざんしている点だ。民俗学者の宮本常一は、ある山地で川の護岸工事のために石垣を組む石工職人の話を紹介している。「田舎を歩いていて、何でもない田の岸などに見事な石の積み方をしてあるのを見ると、心を打たれる」「いい仕事をしておくと楽しい。後から来たものが他の家の石垣をつくとき、やっぱり粗末なことはできない」「俺のやった仕事が少々の水で崩れるものかという自信が、雨の降るときには湧いてくるものだ。結局いい仕事をしておけば、それは自分ばかりでなく、後から来るものもその気持ちを受け継いでくれるものだ」――石を一つ一つ積み上げる職人の心は尊い。日本のものづくりには、その心が続いていると思う。今回発覚した問題では、そのようなものづくりのモラルが失われていたと言わざるを得ない。

さらに私が感じているのは、文明の進展により社会の脆弱性が増しているということだ。昨今の鉄道や航空機の事故で長時間運休せざるを得ないことが何度かあったが、痛感するのは社会システムが脆弱性を内包していることだ。文明や技術が進歩し、社会は高度で複雑なシステムで構成されるようになった。情報はますます専門的で膨大な量になり、一般的な消費者はシステムを信頼して行動するしかない。しかしシステムは、想定外の行動を人間がとると簡単に崩れてしまう。外から見えないところで故意にデータが改ざんされてしまえば、システムは機能しなくなるのだ。

宮城県20140806.jpgさらに、人間の判断力の脆弱化もある。仕事の機械化、コンピュータ化によりマニュアル偏重になり、自分で分析や判断をしなくてよくなっている。今回起こったようなデータの改ざんは、狙い通りの数字が出ないときに、その原因を追究せず、数字を操作すればよいというように、判断を放棄していることが原因だろう。

文明、技術の進展による社会、人間の脆弱性を克服し、ものづくりの現場と消費者の信頼回復を進めていかなければならない。粘り強い戦いが不可欠だと思う。

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