yotte.jpg「青瓜不動」の1年前の「三島屋変調百物語八之続」。「賽子と虻」「土鍋女房」「よって件のごとし」の三話。江戸の袋物屋・三島屋の黒白の間で、人を招き、「語って語り捨て、聞いて聞き捨てる」百物語。主人の伊兵衛が酔狂で始め、最初の聞き手は姪のおちか、今は次男の小旦那・富次郎が引き継いでいる。

「賽子と虻」――。餅太郎の故郷は上州宇月藩の畑間村。母ちゃんが死んで、父、兄、姉との貧しい家だが、働き者で仲良しだった。自慢の姉が大きな商家かの一人息子に見初められ嫁になることになった。ところが誰かに恨まれて呪いをかけられる「虻の呪い」で生死を彷徨うことになる。姉を救うために"呪いの大虻"を餅太郎は飲み込み意識を失う。気づくと、さらわれた先の旅籠の里は神々が集う賭場で、餅太郎は下働きをすることになる。そこでも義侠心をふるい、燕の神を命がけで助けようとする。この土地には「ろくめん様」という土地神様がいて、鳥にも虫にも穀物にも神様があり、人はその加護を必要としていたのだ。苦しいことばかりの「11の時に笑い方を忘れました」と言う餅太郎の驚くべき話とは

「土鍋女房」――。兄の喜代丸は渡し船を操っている渡し守。三笠の渡しは粂川の河口にあって、さらに下流では海苔の養殖が盛ん。三島屋に来たのは、その妹おとび。おとびが言うには、喜代丸にたいそう良い縁談があるのに、頑として受け付けない。家に持ち込まれた土鍋があって、その中に女がいて、喜代丸と夜な夜な話し合っている恐ろしい光景を見る。それはどうも粂川の水神様のようで

「よって件のごとし」――あまりに信じ難く、恐ろしい途方もないことの次第をお城に送る申立書をしたためる際、文書の締めくくり「よって件のごとし」の文の上に汗が滴り筆先が震えたと言う。それほど恐ろしい出来事が語られる。語ったのは浅川真吾と妻・花代。浅川家は奥州久崎藩の2つの村を束ねる肝煎りで、中ノ村に住む。立冬の朝、浅川家の屋敷のすぐ裏手にある凍った夜見ノ池から土左衛門が浮かび上がる。白濁した目、よだれをたらした面妖な土左衛門は死んでるどころか、人に噛み付く"ひとでなし"と呼ぶ化け物。噛まれたらそのものがまた化け物の"ひとでなし"になる。池の向こうには奥州江崎藩南部の貧しい羽入田村があり、黄泉ノ池があった。ここでは、5年から10年に1度は"ひとでなし"が次から次といっぺんに増大する大変な厄禍があった。そこから逃れてきた若い娘の花江(後の花代)から話を聞き、浅川宗右衛門(真吾の父)ら中ノ村の者たちが池に潜って羽入田村に乗り込み化け物退治に奮戦する。そこで地の底の深いところに棲んでいる醜くて臭いけだもの「腐れ鬼」とも戦う。この化け物に噛まれたものが"ひとでなし"と化すのだ。激しい戦いにの果てに勝つのだが。コロナ禍と異常気象の中で書かれた小説なのか、江戸時代以前は怪異、災害、疫病、死、神仏が生活そのものに密着していたことを改めて思う。とにかく恐ろしい話。富次郎はあまりの展開にどう絵を描くか悩む。おちかの出産が近い。


kamininoroware.jpg「池袋ウエストゲートパークXIX」――。次々と変貌する社会。その現場で出てくる新たな事件。マコトとタカシが痛快に解決するシリーズ第19弾。私にとってなじみの大塚、池袋、常盤台などが出て来て実感が増す。

「大塚ウヰスキーバブル」――。JR大塚駅南口の商店街にあるお気に入りバーに来たマコト。そこに来た半グレ風の男は、国産のヴィンテージウイスキーを買い漁っているウイスキーバイヤー。なんと今はウイスキーバブル。響の30年物は今では100万円だという。バーの親父はなんと1本8000万という高値のついたウィスキーを持っており、脅しをかけられていた。

「<私生(サセン)>流出」――。推し活ブームのなか、私生活を追い回し過激な推し活をする危険なファンの私生(サセン)。芸能事務所の女社長から2人の悪質な私生に手を焼いていると相談を受ける。

「フェイスタトゥーの男」――。板橋区、豊島区、練馬区で三件立て続けに発生した連続強盗団。一日あるいはほんの2、3時間で100万もゲットする闇サイトの高額バイトに小心の若者が巻き込まれ、あげくに監禁される。タカシの腕が冴えわたる。

「神の呪われた子」――。神自身の生まれ変わりという天国の木教会。教祖は54歳。本や会費、高額有料イベントなどで金を集める上に、17、18歳の女性を妃候補として選抜するやりたい放題。宗教2世の切羽詰まった声をマコトが聞き立ち上がる。


matigaeru.jpg人の脳とは凄いものだ。複雑で不思議、総合力、展開力、自在無碍のようだ。「人はまちがえる。脳は、どんなに頑張っても間違えてしまう。コンピューターは忘れないし、正常に働いているコンピュータはまちがえない。脳は情報処理、脳内の信号伝達が本来、不確かで確率的である。ゆえにまちがえながら働く」「しかし、脳がまちがえながら働くようになっているからこそ、新たなアイディアを創造し、様々な高次機能を出現し、損傷しても回復できる」「AIと脳は本質的に異なる」ことを、最新の研究成果を踏まえて解説する。

脳の信号伝達は「ニューロンの発火とシナプスで受け渡す」ことが中心だが、ニューロンの形態も極めて多彩、シナプスを介したニューロン同士のつながり方も多様、ニューロンが発する信号の流れも実に多様。「ニューロンは協調して働き、同時発火により信号をより高い確率で伝える。集中時や正解時などに同時発火が現れる」「しかし、集団を作る個々のニューロンが、低確率で不確実な信号伝達により発火していることは変わらないため、そこから生じる揺らぎにもある程度変動が生じることは避けられない(エラーが起こり、人は時々まちがえる)」「脳はコンピュータのような機械とは、本質的に異なっており、人が創造可能な精密機械として理解することは難しい」と言う。しかも「脳の活動が心を生んでいることは自明だが、逆に、心が脳の活動を制御できることもわかってきた(脳を機械に例えることができない決定的な理由)」のだ。

そして「結局、マクロな脳部位のレベルでも、ニューロンレベルでも、そして神経伝達物質と遺伝子のレベルでも、脳の特定の機能を単独で担うものは存在していない。----脳の機能は、多様な部位、多様なニューロン、多様な神経伝達物質、そして多様な遺伝子が相互作用しながら働くアンサンブルによって実現されていると考えざるを得ない。そのアンサンブルの姿を解明した時こそ、脳を解明したといえるのであろう」と結ぶ。

「迷信を超えて――脳の実態に迫るために」の章では驚かされた。「反右脳左脳神話」――。左脳が言語や論理に関わっており、右脳は感性や視空間認知に関わっているというのは迷信。現在、唯一いえるのは、言語機能が左脳で優位の人が多いということぐらい。「反男脳女脳神話」――。女性差別を正当化するため、脳の違いを「科学的」の根拠として利用しようとしてきた代表例が、言語に関わるブローカ野の発見で有名なブローカだった。脳が大きければ機能が優れている論理は成り立たない。男女の差よりも個人差。また前頭葉は高次機能、頭頂葉は空間認知、扁桃体は情動制御と特定の部位と特定の機能、一対一で対応させることは単純すぎ信頼性に欠ける。「反10%神話」――。脳は10%しか使われていないというのも迷信。脳は寝ている時も起きている時も休まず全体が働いている。「脳の血流量の増大、つまりニューロン集団の活動量の増大は、必ずしも機能の向上にはつながらない」と指摘、「脳トレ」に否定的見解を示す。

「人は分類が得意である。しかし、分類と言う方法論だけでは、脳の最も重要な特性である多様性と可塑性、つまり、人の多様性と可塑性を説明できそうもない」と言い、「脳はいい加減な信号伝達をして間違えるからこそ柔軟であり、それが人の高次機能を実現し、一人ひとりの成長を生み、脳損傷からの回復を促し、個性を作っている」と言っている。極めて刺激的な著作だった。 


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3連休となった6、78日――地元では成人を祝う「ニ十歳のつどい」や町会などの新年会が行われ出席しました。

今年の成人(18)は、2005年生まれの106万人。2005年は日本の人口が初めて自然減になった年。今年が「2024年問題」と言われる本格的「人手不足」時代幕開けの年であるだけに、人口減少社会の象徴的世代となります。東京北区の式典は20歳が集う「ニ十歳のつどい」となりました。新成人3061名、そのうち約2割の606名が外国人。懇談をしましたが、今後「介護士になる」「外国系企業に行きたい」などそれぞれが目標を持っていること、親への感謝の言葉が印象的でした。会合に来ていない人へも思いを馳せました。人生100年時代ーーおそらく2100年を見ることができる世代となります。予想もつかないその時代、30年後すら予測できない時代に生きる若者は、「社会は応用問題ばかり。前向きの意思を持ちつつ柔軟に対応する創造的な対応力」がますます重要になってくると思います。安全で安心な明るい勢いのある国を、若者に届けたい。

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kougakureki.jpg「いい大学を出れば幸せか」「学歴があれば『勝ち組』なのか」――。当然、答えはノーだ。しかし日本社会では、学歴が一定の人物評価につながる事は間違いない事実だ。人と会う時にまず名刺交換から始まるということは、肩書がものをいい、どこの企業・団体に所属するかが日本社会の人物評価に関わることを物語っている。有名大学や有名スポーツ選手になるには「セルフコントロールができる」ことがあろう。人生にはそこが大事だと私は思う。そして、知的能力とともに、応用問題だらけの社会に対応できるには、知識ではない「知恵の力とコミニケーション能力」が欠かせない。往々にして懸命に受験勉強だけをしてきた"秀才"は、挫折に弱く、コミニケーション能力に欠けがちだ。プライドが高すぎる人、勝他の念が強すぎる人も結構いる。それが社会生活には邪魔となる。「高学歴難民」が多いようだが、そうした弱点が、思い描いたルートから外れたときにさらけ出される。「こんなはずではなかった」と悲惨な実態になる。特に、高学歴であるが故に、企業の側では扱いわづらい。コミュニケーション能力がなければ孤立する。しかもプライドが高いことが邪魔をする。悪循環が高学歴難民を生み出していく。この深刻な実態を、東北大学大学院在学中、日本で初めて犯罪加害者家族を対象とした支援組織を立ち上げ活動してきた阿部恭子さんが、そのなかで浮き彫りにされてきた「高学歴難民」の悲惨な実態、しかも隠されてきた実態を描く。

ポスドク問題は深刻だが、それがさらに高学歴者全体に広がり、歪んでいる。博士課程を終了しながら、非常勤の掛け持ちをしても、月10万円の困窮生活。追い詰められて、なんと振り込め詐欺や万引きに手を染める者。セックスワークで稼ぐ女性高学歴者。法科大学院へ進んで逆転を図ろうとしたが、司法試験には受からず、実家や妻の「ヒモ」状態の人。学歴至上主義の両親に育てられ有名大学に入ったが、人間関係が下手すぎてアルバイトもクビになる者

「犯罪者になった高学歴難民」「博士課程難民」「法曹難民」「海外留学帰国難民」「難民生活を支える『家族の告白』」「高学歴難民が孤立する構造」が描かれる。高いプライドが足かせになる。理想と現実のギャップに苦しみ現実を受け入れられない。

「高学歴難民同士が悩みや情報を共有し、難民生活を共に支え合うコミュニティーが必要だと考える」と言う。 

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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