2040.jpg2025年は、団塊の世代がすべて75歳以上になる。2040年問題は、高齢者の人口の伸びは落ち着くが、現役世代(担い手)が急減する。2025年から2040年までに「担い手」は約1,000万人減少する。故に社会保障・働き方改革について戦略的に対応しなければならないということだ。本書を読むと、2040年の問題を、社会保障の問題として捉える事は大きな間違いである。社会自体が激変し、「経済成長」「中国、インドの台頭を始めとする世界の激変の中での日本の地位」「デジタル社会の進展」「自動運転やEV」「エネルギー問題」を見据えて、「今やるべきことをやらないと大変なことになる」ことを痛感する。「政治や行政は、23年先の事しか考えていない」と言っているが、どうしても部分的、対応型で、甘い見通しに立っている。現実を直視し、未来を正しく理解し、変化に備えられるかどうか。正念場だと思う。

「甘い予想の2%の実質成長は難しい。労働力人口は減少、マイナス0.71.0%程度。これを女性と高齢者の労働力率の向上で、マイナス0.5%程度に抑えることができるだろう。資本ストックの増加はほぼゼロ。そこで技術進歩、特に労働増大的技術進歩が経済成長を決める。特にデジタル化の進展。これができれば実質1%程度の成長が達成できる(1%成長できるかどうかが日本の未来を決める)(経済成長しないと社会保障は支えられない)」と言う。

「中国やインドと日本の所得格差が縮まる。中国の高額所得者は日本よりずっと多くなる。安売り戦略では日本の経済力は低下するばかり。日本で設計し東南アジアで生産して中国で販売する形態が必要。必要なのは日本の技術水準を高めること」。「増大する医療・介護需要――社会保障の負担を一定にするには給付を4分の1削減するか、4割の負担増の必要がある(全世代型社会保障というより、本当に重要なのは負担の増加や給付の引き下げだ)」「年金支給開始年齢が70歳になれば、生活保護受給者が激増する」「資産所得課税の強化が必要」「医療・福祉が最大の産業となる20年後の姿は異常。医療・介護需要の増大で経済は成長しないし維持できない(医療・福祉分野で必要な執行者は2040年で約1,000万人)」「医療技術は大きく進歩して不治の病も克服できる。医療はメタバースが重要な役割を果たす」と言う。

「メタバースがもたらす巨大な可能性――その中核技術は、テレプレゼンス、デジタルツイン、ブロックチェーンの3つ」「メタバース=VRではない」「自動車の試乗をメタバースで。メタバースを広告、勧誘、商品選択に使う。書店も作るし、『バーチャル大丸・松坂屋』も」「マイナンバーカードの取得・更新など官公庁の窓口業務をメタバースで」「既に稼働しているDAO

「自動運転とEVで生活も社会も大きく変わる(大量失業、物流が変わる、店舗がいらなくなる、車は所有するものではなく利用するものに」。「再生可能エネルギーで脱炭素を実現できるか」「核融合発電、量子コンピューターの未来」「量子コンピュータと量子暗号、インターネットの通信は暗号で守られている、仮想通貨は電子署名のために『公開鍵暗号』を使っている」「量子コンピュータが実用化すれば、現在インターネットで使われている暗号が破られてしまうかもしれない」。「未来に向けて人材育成(デジタル人材)が急務」「大学改革が不可欠」

日本は、先進国の座から滑り落ちようとしている。人口減少・少子高齢社会、AI ・デジタル社会、メタバース、自動運転とEV、エネルギー問題、私はそれに加えて頻発する大災害があると思うが、総合的かつ時間軸をもった戦略に踏み出すダッシュの時だ。野口さんは、「我々はまだ臨界点を越えてはいないと信じている。まだ修復可能な段階にあると思う」「一刻も早く日本の再建に全力を」と言う。


kaminote.jpg神の手をもつ福島孝徳さん。24時間患者さんのために闘い続ける世界一の脳外科医。すごいの一語に尽きる。世界を飛び回り、脳の鍵穴手術を年間600件。この本が出たのは十数年前、その時読んで読書録をそのままにしてきたが、今年の2月に、フジテレビの「アンビリバボー」に紹介されていて驚いた。80歳になった福島さんは、実に全く同じ1年に600件の手術を世界を飛び回って行っているというのだ。志も変わらない。患者さんを救う気迫も変わらない。超難手術に挑み続ける姿勢も変わらない。革新的な手術方法の開発もやり続ける。しかも1人の手術を終えるたびに、1ページの反省点を書いているというのだ。技術だけでなく全人格にわたるスーパードクターだ。

本書では、「脳外科は学問や研究ではなく、目の前の患者さんを救うことです。全力を尽くして患者さんを助けるのが、私の人生であり、ミッション(使命)です」「モットーは、手術一発全治」「私の手術は、赤血球の出ない手術。それぐらいクリーンです」「進歩は現状を否定することから始まる。現状に満足するのではなく、常にもっといい方法がないかを考える」と言う。

そして「すべては患者さんのために」「患者さんに感謝される医者になりなさい。患者さんに尽くしなさい」「患者さんからの感謝の声が、私のエネルギー、原動力」と言っている。

難しい鍵穴手術――とにかく速い、動きがなめらかでムダがない。そして美しい――それは、確実な基礎と膨大な経験の蓄積による。

手術して感謝された米大富豪から得た2億円を、ポンと若手養成の基金に。

医療最前線が戦場なら、大学医学部はペンタゴン。作戦本部の安全な場所にいたのでは、本物の戦いはできないという。現場で体で覚えるしかないわけだ。そして医療費、施設をと政治に叫ぶ。受け止めたい。


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日本の現場の底力である技能労働者の賃金アップにつながる公共工事設計労務単価が、3月1日以降の工事につき、全国・全職種平均で5.2%引き上げられることになりました。14日の斉藤鉄夫国土交通相発表です。引き上げは私が国交大臣の2013年から連続11年、2012年比で、実に1.655倍となりました。21世紀になって毎年連続して下がってきており、悲鳴が上がっていました。建設業では「担い手」が重要。特に若者が入ってくる職場にしなければ、日本の現場の底力がどんどん下落していきます。

建設業は、「きつい、汚い、危険」の3Kの職場とも言われてきましたが、経済活性化を促すストック効果のインフラ整備です。そこで新しい3Kとして、「給料がいい、休暇がある、希望がある」を発表。関係者上げての協力体制をとってきました。今回の設計労務単価5.2%アップは、9年ぶりに5%以上となったもので、「賃上げ」が最重要課題となっている今の日本の先駆けともなるものです。これが現場の職人さんの給料アップにつながるようさらに努力したいと思っています。


shimanootoko.jpg「清水一行と日本経済の80年」が副題。まさに激流とも言うべき経済成長の昭和30年代からの日本。その経済の生々しい現場、欲望の激突、そこから生ずる事件の数々。それら経済小説を書き続けた清水一行の波乱の人生と日本経済の興亡を描く。なんと生涯の作品数は214にもなった。あの城山三郎ですら118の作品であったことを思うと凄まじい。「全盛時代の昭和46年~60年頃は年間8~10作という猛烈な勢いで刊行していた」「400字詰め原稿用紙で月に800枚から1300枚という猛烈な勢いで執筆を続けた」という。

感じるのは、日本経済成長の凄まじい勢いだ。描かれる一つ一つの事件が自分の人生をたどるように思い起こされる。松本清張、あの梶山季之、黒岩重吾、森村誠一、横溝正史。梶山の「黒の試走車」と清水の「動脈列島」・・・・・・。走り回る取材スタッフ。映画化され、文庫は売れる。出版界も勢いを増す。追いまくられるように出版されるこれら経済小説、事件小説を読みまくったものだ。生々しい事件現場を描くゆえに、訴訟が起きる。ペンとは何であるか、最高裁にまでいく争いの激しさも描かれる。時代も経済も人も荒々しく激しかった。

忘れていたあの時代のエネルギーが蘇り、長期にわたり緩やかなデフレの中に沈む現在の日本を対比する。共産主義者として戦後の焼け跡を奔走し、結核にもなる。兜町を這い回り、週刊誌に株情報を書き続ける。書きためた原稿が、ついに昭和41年、「小説兜町」として、見出してくれた三一書房から出され、せきを切ったように次々と爆発的な売れ行きを示す。時代に作り出され、時代と人生を共にした男の姿を描く。清水一行、1931年生まれ、2010年没。


fukuoka.jpg「動的平衡」の福岡伸一氏が、西田幾多郎研究の第一人者・池田善昭氏と「生命とは何か」について対談。「ロゴス」の西洋科学・哲学思想に、「ピュシス」の実在把握によって対峙し、乗り越えることを示す。実在の全的把握で根底から包み込むといえようか。「生命をめぐる思索の旅」が副題。対談が進むにつれ、どんどん思索が深まり、ピュシスという新しい世界観を獲得していく「思索の旅」は感動的だ。

福岡氏は、「生命とは要素が集合しできた構成物ではなく、要素の流れがもたらすところの効果なのである」「生命とは動的平衡にある流れである」と言う。仏法哲学における「法」概念、鴨長明の方丈記に描かれる無常と、常住の十字路に瞬間を位置づけるということに通じる。福岡氏は、「西洋の科学や哲学においては、これまで、時間は点(の集まり)でしかなかった。・・・・・・まさに『不連続の連続』であり、ここにおいて初めて連続した時間が満たされることになる」「池田先生のご教示により、①ピュシス②包みつつ包まれる(逆限定) ③ 一と多(時間と空間)④先回り⑤時間ーーという五つのステップを乗り越えることができ、対話を通して西田哲学の重要性を改めて認識することができた」と言う。なお「ピュシスとは、切り分け、分節化し、分類される以前の、ありのままの、不合理で、重畳で、無駄が多く、混沌に満ち溢れ、危ういバランスの上にかろうじて成り立つ動的なものとしての自然である。自然とはロゴスではなく、結局はピュシスである」と言っている。

池田氏は、「彼は、生命のダイナミズムとしての全体性、すなわち『絶対的状態』を彼の内面に把握することとなり、世界で初めて生命の新たな定義をなし得ることに成功したのであった。福岡氏自身、彼の生命体の内面に『感得』するという全体的直観によって把握されていたがゆえにである」「生命における『実在』とは、存在と言う単にあるなしではなく、常にエントロピーに抗うがゆえに、『現在』がまさに『過去未来』に対して逆限定的に成立するからでこそあった。ここでこそ、有無の同時性が成立しているのである」「先回りという生命上の働きは・・・・・・福岡伸一氏は、西田の言うそうした『逆限定』を、特に、『動』と『静』との絶対矛盾的自己同一に習いつつ『動的平衡』として把握したのであった」と言っている。

量子力学において、ナーガールジュナの「空」の仏法哲学に論が及ぶことがあるが、私にとって「宇宙の法」「空」「諸法実相」「因果倶時」「依正不ニ」「無常と常住」の仏法哲学を思考する旅でもあった。

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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