1776060239731.jpg「古代の興亡から離散、ホロコースト、シオニズムまで」が副題。まさに今、アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃、ガザの戦闘の緊急事態のなかだが、昨年1月に刊行され話題をよんだ本書はまさに時宜を得たもの。ユダヤ教を信仰する民族・ユダヤ人。学問・芸術に長けた知力、富のネットワーク、ホロコーストに至る迫害、アラブ人への弾圧----。世界に影響を与え続けている「流転の集団」の3000年の歴史を雄大なスケールで描く大変な労作・力作だ。

人生そのものがそうだが、「主体と構造」の組み合わせから描く。「ユダヤ人は、歴史の大半の部分や大半の地域でマイノリティーであり、構造に規定される局面は非常に多い」。過酷な歴史だが、「ユダヤ人が構造と格闘したり、構造を前提にして、それを生かす道を考えたり、複数の構造を組み合わせて、第3のものを作り出したりするような『主体と構造』が織りなす局面」をひもとき抉り出している。

モーセの十戒(出エジプト記)。そのユダヤ教の「律法を守る」ユダヤ人。紀元前586年からの「バビロン捕囚」は、「いつかカナンの地に戻る時まで信仰を守り、実践するために、立法を整備していく」というユダヤ人としての意識を明確にしていく。ペルシャ帝国による支配、アレクサンドロス大王の制服によるヘレニズム(ギリシャ)文化。そしてローマの介入によるユダヤ教に対する冒涜的振る舞い。そこにユダヤ教指導層を批判し、貧者や女性などの社会的弱者を助けるイエスが登場する。律法中心、安息日、食物規定を重視、日常活動とするユダヤ教とは違う。ローマの支配の強化、ユダヤ王国の終焉、キリスト教の広がり、イスラム世界での繁栄(西アジアとイベリア半島)。そして十字軍----。異教国家の中の「法治民族」の古代末期・中世が解説される。「ユダヤ人を金づるとして利用する権力者と、それを腐敗と捉える庶民の間にユダヤ人が挟まれる。そこに庶民の反ユダヤ感情が蓄積していく」。十字軍とユダヤ人迫害の開始の構造が剔抉されている。

そして、「近世ーースファラディームとアシュケナジーム(ユダヤ人のニ大系統)(アシュケナジームが現在ユダヤ人口の8)」――。スファラディームを歓迎したオスマン帝国のように、アシュケナジームを歓迎したのがポーランドだった。

「近代----改革・革命・暴力」――。この時代になると反ユダヤ主義が変質、ポグロム(反ユダヤ暴動・虐殺)、ホロコーストの悲劇が生まれる。なぜ「問題」とされるのか。「伝統的なキリスト教世界では、ユダヤ人を道徳的な問題児として蔑みつつ経済的な機能は利用するという扱い」で、日本の江戸時代の「えた・ひみん」、明治からの「部落民」差別。ユダヤ人同士の格差や分断(同化志向の西欧ユダヤ人、ロシアのユダヤ人の深刻な後進性、地位の低さ、貧困)」。1900年の時点で、世界のユダヤ人人口の約半数520万人がロシア帝国、オーストラリア・ハンガリー帝国207万人だった(アメリカ100万人)。第一次世界大戦、ロシア内戦とロシア革命は極度の混乱と貧困、民族対立を招き、ユダヤ人は格好の標的となった。

ナチ・ドイツの反ユダヤ主義は「ドイツ人の優越意識と、東方のものに対する侮蔑意識がセットになった人種主義を原動力として、『人種衛生学』の科学的装いを伴ったものだった」。ホロコーストで600万人のユダヤ人が殺害されたが、ドイツのユダヤ人は16万人、ポーランド300万人、ソ連100万人、チェコ21万人、ハンガリー20万人だった。「東欧に固有のホロコーストの促進条件は、ソ連の脅威を感ずる。国境をまたいだ疑心暗鬼だった」と言う。

「現代----新たな組み合わせを求めて」――。1939年、世界のユダヤ人口約1700万人のうち600万人がホロコーストで死に人口の中心は450万人いるアメリカに移った。ホロコーストで3分の1となったが、ソ連には200万人が残っていた----。そして、1948年イスラエル建国。本書は、アメリカ、イスラエル、ソ連の3つの中心から相互の関係に注目しながら論述する。
2024
年現在、イスラエルのユダヤ人口700万人、アメリカにいるユダヤ人口600万人。イスラーム・テロリズムと戦う同盟相手となっているが、アメリカ・ユダヤ人とイスラエルの微妙な関係が述べられる。

まさに「主体と構造」で、ユダヤ人の歴史が立体的に立ち上がってくる。


1776060555414.jpgロシアのウクライナ侵略、アメリカ・イスラエルのイラン攻撃、中国が権益を主張する九段線、トランプ関税・・・・・・。戦後80年、世界が築いてきた秩序がガラガラと崩れる「大転換」の時代に突入している。「後退するアメリカ、仕掛ける中露、混迷する欧州、戦略なき日本」を、中国、アメリカ、ロシア、欧州、アメリカを中心とする安全保障の若き専門家が、小泉悠氏と自由かつ率直に対談する。あえて感情を交えた雑談風であり、極めて面白く現地の気分、潮流が伝わってくる。

「中国から見る大転換(津上俊哉、熊倉潤との対談)」――。「1つの大陸に2頭の虎は並び立たない――今のところアメリカという共通の敵がいて、中露のいろんな歯車が案外うまく噛み合っている」「ロシアの『勢力権』思想と違い、中国は『和平之友』。遠いアフリカや南米の国々と協力して、アメリカを牽制したり、自国の利益を追求していく勢力圏(アメリカの空白が生む中国勢力権の拡大)」「不動産・インフラ投資の精算ができるかどうかが、人民解放軍を維持できるかどうかに影響」「『中国ヒューマノイド』がサブスクになる未来」・・・・・・

「アメリカから見る大転換(金成隆一)」――。「トランプ支持者の言う『今の移民は同化しない』フラストレーション」「激しい格差。『学歴格差』をトランプの下品さが癒す」「理屈じゃない『あなたの生活が脅かされますよ』と言うナラティブ。敵は国内のリベラル」「反エリートのわかりやすく強いリーダーが人気を得る時代」「ヴァンスは新ヒーローなのか?」「完全に共和党にお株を奪われている労働者の味方・民主党が取り返せるか」「エニウェア族VSサムフェア族」・・・・・・。分断国家アメリカの現実を抉り出す。

「ロシアから見る大転換(小林昭菜)」――。「戦争を始めたのは、本当にプーチンなのか? インナーサークルのシロヴィキ(力の省庁)の情報分析」「ロシアの中間層が経済的理由で保守になる」「2014年にクリミアが取られるまで、ウクライナは『EU加盟賛成、NATO加盟は反対』が多かった」「プーチンによってウクライナが作られた。プーチンは、スラブ大分裂をもたらした男」「今回の戦争で、周辺国のロシア離れはますます加速」「ロシアの戦死者は17 万人。地域格差は凄まじい。貧しい人が戦争へ」・・・・・・。内情分析は極めて面白い。

「ヨーロッパから見る大転換(合六強)」――。「30年の時間軸(ロシア)80年の時間軸(アメリカ)2つの軸で、ヨーロッパは大転換を迎えている」「冷戦の終結で西側に入ったロシアが2014年から逆流、違うゲームを始めた」「プーチンのオウンゴール(ウクライナでも2010年頃までNATO加盟に対する支持は低かった)」「NATOの最大の危機とは?(ロシア人を追い出し、アメリカ人を引き込み、ドイツ人おとなしく。これがNATOの機能と言われたが----。各国に見られる脅威の認識ギャップ」「招かれた帝国・アメリカの80年軸だったが、消える現実かも?」「欧州懐疑主義やポピュリズムの台頭」・・・・・・。確かにヨーロッパから世界の大転換が見えてくる。

「安全保障から見る大転換(村野将)」――。「アメリカの変質と日本の立ち位置」「GDP 2%の限界と実質的な防衛力不足」「日本の『ノーガード戦法』と日本人の『腹のくくり方』」「日本の台湾防衛戦線から脱落しない事の重要性」「自衛隊の防衛力とロシアのマッチョイズム」「ウクライナ軍に学ぶ『素朴なレジリエンス』」「航空機用の防護シェルター造り」「核武装の前に、アメリカの拡大抑止をつなぎ止められるかどうか」「人を多く必要な有人航空機や艦艇を早期に退役させ、少ない人員とメンテナンスで運用できる無人システムへ代替するなど、抜本的な戦力構成を見直せ。許容可能なコストで、台湾有事に備える防衛力改革」・・・・・・。極めて専門的でリアリズムからの対談が続けられる。

アメリカ・イスラエルのイラン攻撃以前の著作だが、世界の大転換がリアルに伝わってくる。


1774316817029.jpg「カウンセリングの現場で見た絶望と変化」が副題。今から20年ほど前、山脇さんの「教室の悪魔」は衝撃的、現場での本質をついた素晴らしい著作であり、国会内で勉強会をもったことがある。久しぶりの今度は「夫婦」についての著作。現場のカウンセリングを通じた対応の希望を持てる良い本。

「夫への、妻への不平・ 不満は、実はやり直しの鍵」と帯にある通り、互いに理解し、努力すれば、やり直せる。「互いに余裕がなさすぎることが原因になっている場合もある。また、思いやりの気持ちが持てなくなってしまったのは、お互いに相手を責め、傷つけ合ってきた結果かもしれません。関係性というのは作っていくもの。相手を思いやり、優しくした分は自分にも戻ってくるはず」と結んでいる。

現場のカウンセリングの話だから極めて具体的----。「私が夫にイライラして仕方がないんです(『すぐやる』が苦手な夫」――母のようになりたくないのに、模倣してしまうと言う妻と、叱られた記憶がなく細部への観察力が低い夫の姿が浮き彫りになる。

「不機嫌に見える夫、顔色を窺ってしまう妻」――よくある話だが、親とのコミュニケーションが少なかった男性にこの傾向がある、と指摘する。「嘘の多い夫、GPSをつける妻」――男性は、子供の頃、厳しく行動について口うるさかった母の過干渉があったと言う。「妻の体調に配慮できない夫、受け入れすぎた妻」――尽くしすぎで「できない」と言えばよかったのに・・・・・・

「自分大好き、自分勝手で不機嫌な夫、不機嫌な時は怖くて話しかけられないので、何も言わなくなった妻」――これもよくある話。「不機嫌、舌打ち、怒鳴らない。妻と子供のしたいことを優先する。子供とちゃんと遊ぶ」ことをカウンセリングで言う。また「妻の実家を毛嫌いする夫、親と仲がよすぎる妻」が紹介されるが、いずれも子供の頃からの家庭環境が反映していると指摘する。実家から離れるようにと言うアドバイスだ。

「家事を一切やらない妻、捨てられるのが怖い夫」「DVを訴える妻、実は先に被害を受けていた夫」「突然『死にたい』と言う妻、とにかく心配な夫」「実家に尽くしすぎる妻、間に立つことにした夫」など生々しい例が出される。

「子育てをめぐる困難」も、夫婦間に多い。まず「余裕のなさ」があるが、共働き時代が反映している。「夫が何もしない」「全く問題を感じていない夫」「父親の呪縛から自由になれない」「食卓がピリピリしている」「子供を愛せない妻」など、その育った家庭環境が大きい。「放任主義の家庭に育った妻」とか「自立心旺盛な夫」とか。

違った環境で育った2人が結婚し家庭を作る。若い頃は会話もない猛烈社員と専業主婦だった我々の世代と、共働きが普通でコミュニティーが欠落し孤立しがちな(互いに家庭で本当の感情が爆発してしまう)という現代----。互いに理解し努力する、相手の嫌がっていることを察知する努力が必要不可欠だ。熟年離婚でも、「これからも夫婦を続けて行くかどうかを考える際に重要なのは、お互いが相手の不満を受け入れ、変わろうという気持ちを持てるかどうかです」と言っている。わかり合っているということが幸せで楽しいはず。夫婦は案外、妻は(夫は)わかっているはずという思い込みが会話不足、そして亀裂になっていくもののようだ。 


1776059902209.jpg「君がいつもそばにいるから、毎日があたらしい」「新しい音楽に出会って、それまで見ていた世界がガラッと変わる」――。人や音楽。人生は、出会いによって目の前の景色が色づき軽やかになる。「自分には生きる意味がある」と切り替わる瞬間があり、目の前がパッと明るく面白く(面の前が明るく) なる。

中学生の新----幼い頃から家に飾られていた今は亡きカリスマ的ミュージシャンの写真を父と聞いて育ってきた新。いい仲間が3人。「バンドをやろう」と匠人が言い出し、匠はベース、陽菜はドラム、新はギター。「うたいながらぼくは、目の前の光景が、ぐんぐん色づいていって、輪郭がはっきりしてくるのを見た。あぁぼくの世界、今まで色がとても薄かったんだな」と。ある時、祖母からの手紙がきっかけで、「ぼくは有名なバンドマンの隠し子ではない」と知ることになる。こっそり祖母を訪ね、衝撃的な父の死の事実と母のとった行動。ずっと母は何も言わない。隠された真実に触れ、心が揺れる。祖母は「あなたのお母さんは、とんでもなく強い人だと思うわ」と微笑むのだった。

母親の晴本くすか――。幼い頃から家庭環境に恵まれず、友達もいない、"誰にも見えない存在"として生きてきた。父はほとんど帰ってこないし、母は「あ、そう」と言うだけ。ある時、音楽に出会ったことで、「なぜ泣きたいのかわからない。町に色がついてることを、光を発していることを、音に満ち溢れていることを、くすかはこの日にはじめて気がついた」・・・・・・。高校2年の時、初めて人間の友達ができた。庭田さん。そして東京の大学ヘ進学、そこで全く同じ音楽趣味の豆田時生に会うのだ。

いろいろあったが、再会後に結婚、子供がお腹に宿る。しかしその時、突然のホーム転落事故で時生が死んでしまう・・・・・・

皆、一生懸命生きる。辛いこと、孤独・絶望もある。誰もが弱い。だが、「この絶望は私一人ではない。知ってる人がいてくれる」。12ヶ月で一気に書いたと著者は言う。そうだろうと思う。登場人物の感情のうねりが途切れない。人間っていいなと思わせるリズムがある。喜びと感動、思いやりが溢れている。素晴らしい小説に出会った。 


1776059556091.jpg大モンゴル国は高麗だけでなく南宋に迫る。その脅威をひたひたと感ずる鎌倉の北条時頼は権力を掌握。日本各地から情報を収集し、駿馬を集め、船を造り、水軍を訓練し、戦いに備えようと動く。蒙古襲来へ向けて、その激突前夜の静かな緊張感が迫ってくる森羅記第ニ巻。

お岩木山の北麓の台地から平野にかけて支配し、十三湊を抱える安東一族の木作繁安は馬群を引き連れ鎌倉に駆け付け得宗被官となる。松浦党の佐志タケルらも鎌倉と連携、造船を生業とする神田灯、海上輸送を行う松野青児、秀麗な水師・ 安房小太郎らも得宗被官として集う。劣勢の高麗で、懸命に珍島を守る波瀬一族(琵琶湖から日本海の舟運)も鎌倉と連携が深まっていく。北条時頼は、大モンゴル国の脅威を察知し、大型船の造船をはじめ態勢強化を急ぐ。執権を辞し最明寺入道となるが、きたるべき時のために嫡男の時宗(正寿)を厳しく鍛え上げる。

「大モンゴル国の内情を探ってみると大事な戦をニつ抱えているのがはっきり見えてくる。想像の及ばない遠い西の国の戦争、こちらからよく見える南宋攻略戦。大モンゴル国の視野にこの国が入っているのは間違いないことだ」「朝廷のありよう、寺と関係」「おまえは、いずれ執権になる。もしかすると、ひとりきりで立ち続けなければならないかもしれん。どうにもならないほどの、圧倒的な敵と向かいあったら、男が逃げることなどできないぞ」・・・・・・。父と子の「厳父の愛」「将軍学」は、この巻の白眉だ。

一方、大モンゴル国----。クビライの兄で第4代皇帝のモンケは「急ぎ過ぎる」性向を持つ。南宋攻略を任せられたクビライは、北部の燕京から西部の吐蕃、南西部の大理を陥し包囲網を成功させるが、南宋の防衛線は淮水と長江の間の平野で「壁」と呼ばれてきた。その防御の要は、2つの城郭、襄陽と樊城。「ニつの城郭を眼に入れた時に全身の毛が立つような感じがあった。陥せるわけがない。漢水の流れが本当の城壁だった。攻められない」とクビライは撤収する。

皇帝モンケは、「襄陽、樊城は自分で抜いてみせる」とはやり親征。クビライから軍権を召し上げる。西進していた兄貴のようなバトゥが死ぬ。モンケはテムゲ家のタガチャルを呼び出し総指揮とし親征を開始する。「クビライは戦わずして無理だと言った。そうなのかな。戦わなければ見えてこないものがある、と俺は思う」と広大な防衛地帯、襄陽と樊城に向かう。しかし、タガチャルは包囲したものの撤退。「あそこは、戦をするところではありません。地も、水上も空も支配されています」・・・・・・

再び・・・・・・「兄弟に戻れ。モンケはそう言っていた。欲していた。願っていた。頼んでいた」「痩せたか、兄者」「うれしそうでしたね、陛下は。皇帝になられて、寂しいのですね」・・・・・・。二人の心情が伝わってくるなかなかの場面だ。

モンケ、クビライの軍勢30万。主力のクビライ軍----クビライ以下、副官のバアトル、麾下隊長のラケイラ、赤影隊の阿咒、そしてパクパ、竜夏以。いよいよ壁を破りに・・・・・・。そこに一報が・・・・・・。「陛下、御崩御です」と。

蒙古襲来ヘ緊迫感がひたひたと増す。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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