1762491320897.jpg「西洋の敗北」の著者エマニュエル・トッドが、日本オリジナル版として出したもの。ウクライナ戦争、イスラエル・イラン紛争、トランプ関税、米欧の分裂が意味する「西洋の敗北」。「西洋の民主主義」を作り出した英米仏の三極は安全保障においても、産業の空洞化・経済的にも崩壊し、なかでもプロテスタンティズム「労働倫理」が崩壊、「進歩」という理想が崩壊していると言う。「西洋は世界から尊敬されていて、西洋が世界を指導している」と言うのは現実には違っており、「西洋の虚偽意識」なのだ。それは今、「2008年、ジョージアとウクライナを将来的にNATOに組み込むことは絶対に許さない」とするプーチンの宣言は、「信頼できるロシア、信頼できない米国」「ロシアが軍事的に優勢に立ち、経済も安定しているのに対して、産業が空洞化した米国は十分な武器を供給できず、欧州は経済制裁の最大の被害者となっている」に帰結していると言う。

そこで、日本の根本問題は「安全保障」と「少子化」という先進国共通の文明史的問題だ。安全保障においては「日本は核武装せよ」と言う。「核の傘概念は無意味で、使用すれば自国も核攻撃を受けるリスクのある核兵器は原理的に他国のためには使えない。米国が自国の核を使って日本を守るとは絶対にありえない。核は『持たないか』『自前で持つか』以外の選択はない」と言うのだ。また「『異国』を戦争に巻き込む米国」であり、日本に勧めたいのは「できるだけ何もしないこと」と言う。

エマニュエル・トッドは人口学者。「私が懸念しているのは、日本だけでなく西洋諸国、北欧ですら低下している出生率の低さ」。経済との関係のなかで言う。「今日、核家族社会では『教育水準の低下』が顕著です。核家族社会はドイツと日本など直系家族社会(育児を可能にする持続的な夫婦関係)ほど、子供を教育で『囲い込む』ことがない。教育水準が低下した結果、今日の米国には『良質で勤勉な労働者』が不足している」と言う。 

「イスラエルは神を信じていない」「戦争自体が自己の存在理由に」――。「ガザは、イスラエルの政治的主権が及ぶ地域でイスラエルの一部」「ハマスはイスラエル国家の支配空間に生まれたもので、ハマスは明らかにテロリストの集団ですが、『イスラエルの現象』」と言う。「イスラエルは、宗教的に『超正統派』の存在にもかかわらず、『宗教的空虚』(宗教のゼロ状態)が社会を覆っている」と言い、「今や西洋は米国や欧州のニヒリズムの原因となる『宗教のゼロ状態』に達している」「イスラエル国家の振る舞いは、社会的・宗教的価値観を失い(ユダヤ教・ ゼロ)、国家存続のための戦略に失敗し、周囲のアラブ人やイラン人に対する暴力の行使に自己の存在理由を見出している国家だ」と言い切る。戦争自体が自己の存在理由になっていると言うのだ。

「危険なのは、イランより米国とイスラエルだ」「日本と同じくイランの核武装は何の問題もない。平和に寄与する」・・・・・・。「世界は米国を必要とするのではなく、米国は世界を必要とする」と強調する。だからと言うべきか、世界的なベストセラー「西洋の敗北」はまだ英語版では翻訳がされていない。 


1765763530485.jpg「享保のデリバティブ」と副題が付いている。第8代将軍吉宗の享保時代。天下の台所、大阪堂島には全国から米が集まり、日々値がつけられ、膨大な取引が行われていた。しかもこの時代、貨幣経済が始まり、すべての中心の米の市場が形成されるという歴史の分水嶺。

江戸の幕府は、米の年貢収入が権力の根源であっただけに、その米価が大坂の商人たちの意のままに決められていることに苛立っていた。商人たちは、紙と筆と頭脳を用い、利鞘を稼ぐ今でいう先物取引に魂を注ぐ状況。「米価は武士にとって死活問題。その米価を大坂商人がほしいままに操るとは不届き千万」と米価の決定権を握ろうとする幕府と、市場の自治を守ろうとする大坂商人との真っ向勝負、「銭金の世の関ヶ原」が描かれる。史実に基づく躍動のフィクション。

主人公は垓太とおけいの双子の姉弟。おけいは大橋屋安兵衛という小さな米仲買の妻であったが、夫が大坂を襲った「享保の大火」で圧死、垓太に跡を継がせる。一方、江戸の吉宗は大岡越前守忠相に指示し、江戸の商人を大坂に送り込み、コントロールしようとする。

激しい頭脳戦。焦点は帳合米の扱い。「なんでこの世に帳合米があるのか。・・・・・・まさしくそれです。下がったら上がる。上がったら下がる。手を加えるなんて誰もできひん。大岡様も上様も。それを決めるのは、商人たちの欲の流れなんです」「資本の親子関係というべきか。大阪の米の値段とは、こういう巨大な蜘蛛の巣のようなものによって、日本の隅々にまで伝わっているのだ」「せやから大坂の値段は、大坂の値段やないんです。天下の、値段」・・・・・・。吉宗も、支配、被支配とは全く違う利益と損失の論理が世に行き渡り、大名も百姓も商人も巻き込んで、全国60 余州の国と民をひとつのものにしてしまっていると思い知るのだった。

市場経済、貨幣経済が、江戸と大坂、武士と商人、享保の米騒動の激しい戦いの中で始まっていく。面白い。 


1764635819583.jpg「アルプの軌跡、日中友好の足跡」が副題。金沢市中心に臨床検査事業をはじめ食品環境衛生事業、調剤薬局事業など幅広く展開するアルプ()の創業者古賀克己会長。「尽くして求めず」を信条に、企業経営と日中友好交流事業の2つに取り組んだ人生の軌跡と哲学を語る。人を大切に苦難を乗り越え積み上げてきた姿がそのまま浮かび、感動する。

「借金の保証人から極貧生活の中学時代」「豆電球の明かりで勉学」「三井系の鉱山会社に就職し福井へ」「20代で組合専従の書記長に」「金沢で臨床検査業務で独立」「初めてもらった仕事は検便」「自前検査へ、急成長の波に乗る」「創立5年で自前の本社ビル新築」「大手検査会社との競争に耐え抜く」「臨床検査、調剤薬局、食の安全審査の3事業の発展」・・・・・・

「人のために尽くす」との姿勢の徹底が貫かけている。一人ひとりを大切に、社員を大切に、そして社会貢献。日中友好交流を人を通じて還暦から拡大。大連中心に訪中は実に190回を超える。「その貢献の取り組みが、企業の認知度を高め、社会的信用も得られ、社員と家族のモチベーションが上がる。そして、交流を通して人脈が広がり、またビジネスのきっかけになる」と言っている。そこには「克己復礼為仁」の高い精神性が貫かれている。

信用と信頼----謙虚な心を持ち、「一人ひとりを大切にする」「尽くして求めず」の日々の積み重ねがいかに大切か、価値創造への前進の知恵の重要性を感じる。 


1764635592676 (1).jpg「夫が死んだ。死んでいる。私が殺したのだ。ここは? 仙台市内の自宅マンションだ」――。結婚して妊娠、そして夫の転勤。その頃から、夫は別人のように冷たくなり、罵られた。そしてついに暴力。佐藤量子は、金槌を掴み・・・・・・。もうそろそろ息子の翔が幼稚園から帰ってくるのに・・・・・・。そこに何故か、2週間前に近所でばったり会った大学時代のサークルの後輩・桂凍朗が訪ねてきて、「量子さん、旦那さんはどうしていますか。怒られているんじゃないですか。問題が起きていますよね?中に入れてください」と、事件がわかっているようなことを言う。そして死体を革袋に入れ、車で山奥に運んでいく。そこで量子は意識を失う。

山中で眠っていた量子を起こしたのは破魔矢と絵馬の若い夫婦。「俺たち、探しているんですよ。桂さんを。ジャバウォックで何かを企んでいるから」。「鏡の国のアリス」に出てくる怪物・ジャバウォック。トキソプラズマという寄生虫が脳に入り、恐怖心や不安感を鈍らせる神経伝達物質を作らせるように、ジャバウォックは、人間の脳の前頭前野(理性や衝動の抑制を司る)に張り付いて収拾のつかない暴れ方をさせると言う。アルコールが脳に働きかけ、冷静な思考を妨げ、失言や暴言、暴力を誘発するが、それ以上のケタ外れに・・・・・・

「人の脳からこのジャバウォックをいかに剥がすか」――。桂も破魔矢も絵馬もSFのような物語が展開される。音楽家・伊藤北斎とそれを助ける斗真、ジャバウォックに侵されるた北斎の娘・歌子。「歌子さんの場合は、あの交通事故で亡くなった人から移ったんだろうと言われました」「音楽を使い、ジャバウォックを剥がす。そして亀に移動させる」・・・・・・

そもそも「人間の本質は『暴力』なのか、『親切』なのか」「動物の中で、これほど温厚な種はいないし、これほど残忍な種もない」「人を助けると気分が良くなるという性質がプログラムされている時点で、ヒトは、特別に温厚で親切。そして、優しい」「他人と過去は変えられない。だけど、自分と未来は変えられる。・・・・・・桂さんは、他人どころか、ヒト全部を変えたかったんですよ」「ヒトのニ面性----ずいぶん前から『琴線に触れる』と『逆鱗に触れる』を混同する人が増えているのを知っていますか?  ・・・・・・意外に紙一重だと思いませんか。感動と怒りは、実は近いんです」・・・・・・

物語は、SF的、あるいは翻弄される主人公的存在・ 量子の名に象徴される量子力学、量子もつれ、さらに人間の善悪の哲学、科学の進歩と人体実験などを往還しながら、最後のクライマックスヘと合流していく。1日と思えたのが20年だったという驚きの結末でもある。


1764635592676.jpg「大谷翔平世代の今」が副題。異次元のスーパースター大谷翔平の世代は2024年度に30歳になった。同世代の野球少年には、大谷に"負けた"と言わせた「怪物」や「天才」がいた。藤浪晋太郎はその先頭を走っていた。その「天才」たちは、大谷を横目で見ながら、どう生きてきたのか。そして今は・・・・・・

「藤浪晋太郎、30歳の告白」――阪神時代、「眠れなくなった」。「大坂智哉、怪物中学生は今」――「大谷に"負けた"と言わせた少年」だ。「渡辺郁也、消えた東北の天才」――「大谷が落選した楽天ジュニアのエース」だ。

「岡野祐一郎、超無名中学生の逆転人生」――「母親のウソ(特待で聖光学園の嘘)で、ドラフト3位に」を描く。一歩一歩積み上げて中日ドラゴンズ投手に。「北條史也、高卒エリート組の後悔」――「大谷にも藤波にも聞けなかった」。伝説の光星学院の3番田村、4番北條。阪神に2位指名。藤浪は「別格」、大谷は「別」と語る。また「誠也がいちばんかわいそう。大谷が居るから、これだけの成績を残しながら、こっちが麻痺しちゃっている」と言う。「田村龍弘、大谷世代"最後の1人"」――「アイツのことは話せない」。ロッテで今も現役だ。

「天才たちの孤独」――中学校と高校、大学、プロはレベルがあまりに違う。「挫折があったときに頑張れるかどうか。頑張れなかった。うちのめされちゃったんで」と渡辺は言う。「早熟なものにとってのウィークポイントは『やらなくてもできてしまったところ』」と著者は言う。渡辺は、「私もどっちかっていうと、できちゃったタイプ。特に練習を頑張ったという記憶もなくて。気づいたら、周りがすごい、すごいって言っていた。挫折は早い方が良いと思いますよ」と語る。早熟という悲運に泣かされて消えていく。年相応に成長していく選手がいちばん大成するというわけだ。渡辺は「プロになったやつを見てると、身の程知らずなところがある」と言う。天下の身の程知らずは大谷、大谷ほど非常識な思考の持ち主もいないわけだ。

20167月の藤波、「161 球事件」。懲罰の意味合いのあるこの事件は、藤波に「劣等生」のレッテルを貼ることになった。苦しい時代を乗り越えて勝った武豊との交流は藤浪を支えた。武豊は「大変だと思ったことはない。『俺は武豊だと思ってるから』。自分はスペシャルなんだ」と言ったという。

「誰も歩いたことのない道を行ってみたかった」と大谷は若い頃よく言っていたという。藤浪は「アメリカに来た時点で、人生としては成功」と語ったという。「藤浪にとっての成功の反対。それは失敗ではない。踏み出さないことなのだ」と著者は言う。そして大谷と同世代の「怪物」「天才」は今、「彼らはすでに自分の道へ一歩踏み出していた」と結んでいる。 

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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