「成瀬は天下を取りに行く」は大津市だが、今回は浜松市。学生時代からずっと同じマンションに住み、Webライターとして生計を立てている40歳、独身の猪名川健人。婚活事業を営む「ドリーム・ハピネス・プランニング」の紹介記事を引き受ける。雑居ビルに小さな事務所を置く零細婚活会社だ。手作り感溢れる地味なパーティーに取材に出かけると、そこに現れたのは、張りのある声で見事にパーティーを仕切る美しい司会者・鏡原奈緒子。彼女は、脅威のカップル成立率を誇る伝説の司会者(婚活マエストロ)と言われていた。
いつの間にか巻き込まれ、ドリーム・ハピネス・プランニングを手伝うようになってしまい、婚活パーティー、シニア向け婚活パーティー、婚活バスツアー、そして市が主催する大きな婚活パーティーにも参加することになる。そこで出会いや結婚を求める高齢者も含めた多くの人がいることを改めて知る。そこでの会話はマンションに閉じこもってばかりいた猪名川にとって、新鮮であり、新たな生活への窓が開くことになる。そして、伝説の婚活マエストロ・鏡原奈緒子に惹かれていく。
現在の婚活事情、出会いを作る婚活事業の現場が、伝説の婚活マエストロを通じて、生き生きと紹介される。そして40歳独身男の心が動き始める。
尾崎紅葉「金色夜叉」の初の完全漫画化!「金色夜叉」が書かれたのは、日清戦争後の明治30年1月1日から明治35年5月1日まで讀賣新聞連載。1900年前後の欧米化の波が押し寄せている時代だ。37歳で亡くなった尾崎紅葉の30代前半の作品。映画、ドラマ、舞台と数限りなく演じられた作品だが、漫画化は初めてと言う。新潮文庫では「前編」「中編」「後編」「続金色夜叉」「続読金色夜叉」「新続金色夜叉」と700ページにも及んでいる長編。
一高の学生・間貫一は、孤児であったが、鴫沢家で育てられ、娘の宮と将来を誓い合う。しかしお金持ちの息子、富山に宮を奪われ、ふられた憤怒と悲嘆から、学士どころか社会の嫌われ者「高利貸し」となって、拝金主義の社会と自分を捨てた宮への復讐を誓う。当時の家制度の重さで、宮は貫一を心から愛しながらも違う行動を取る。家制度、悪辣な高利貸し、妾を何人も持つ金持ちの男たち・・・・・・。当時の社会に押し潰された貫一と宮。そこに貫一を求める美人アイス(高利貸し=氷菓子)の赤樫満枝、友人の荒尾などが絡む。
貫一は、人間であることをやめ、あえて人でなしの人生を選ぶ。宮は富山と結婚したが魂をなくしたように生き身体を壊す。そして、2人は偶然再会するのだが、貫一は許さない。
数年後、高利貸しを止めて弁護士となった貫一は、栃木県、塩原旅館で若い訳あり男女に会い、心中から救う。ここからの結末を、のぞゑのぶひささんが付け加えている。
2025年は団塊世代が75歳以上となり、空き家が全国で900万戸、認知症が700万人となり、いよいよ人口減少・少子高齢社会の険しき山に差し掛かるという年だ。介護問題はいよいよ深刻化していく。そして10年後の2035年、団塊世代が全て85歳となり、団塊ジュニア世代は60歳を超える。まさに介護問題をどうするか――制度の改革、各人・各家族にとってどう備えるか。まさにこの10年は「勝負の10年」ということになる。
大事な事は、「すべての人が介護に直面する」、しかも「介護は急に訪れる(脳梗塞、転倒など)」「後遺症が残り、常時車椅子など家族の生活は一変する」ということだ。本書は、フィールドワークで得た現場の実態を踏まえ、介護における経済、医療・健康、情報、地域、親類・縁者、世代、意識の実情に光を当て、格差の実態を鮮明に浮かび上がらせる。確かに格差は大きく深刻。どうするかを考えさせられる。
「やっぱり『お金』次第?」――「経済的余裕があるか否かで介護生活は大きく変わる」「年金毎月10万円層が厳しい(遺族年金と自身の年金で10万円)(木造アパートで国民年金のみは大変)」「生活保護の方が楽」「年金から天引きされるが、13段階の介護保険料格差」「高齢者世帯の貯蓄格差は大きい(15%が貯蓄額がない) (3000万円以上は約10%)」・・・・・・。
「頼れる人がいるか否かで明暗が分かれる」――「身元保証人がいない。そこで請負業者がいる」「デイサービス等での人間関係など仲間の大切さ」。「医療と健康格差」――。「認知症を伴うか否かで、介護生活は一変する」医療的ケアを伴うか否かでも一変する」・・・・・・。
「介護人材不足と地域間格差」――介護人材不足で、介護事業所の倒産・休廃業が増え、2023年は過去最多。地方では、ヘルパーの高齢化があり、「公務員ヘルパーの積極的構築」が必要だと言う。介護保険料の地域差も大きい(小笠原村3374円、大阪市9249円)。自治体の福祉サービス格差も大きい。「尋常ではない訪問介護の人材不足」「ケアマネジャーの不足」を指摘する。
大事なのは「介護は情報戦!」――。知っているか否かで違うし、介護施設の選び方を間違わないようにと強調している。
「団塊ジュニア世代の介護危機」――。団塊ジュニアは1971年から74年(昭和46年から49年)で、4年間で約800万人いる。「団塊世代は団塊ジュニアがいるので逃げ切れるかもしれないが、ジュニアの老後は支える人たちが不足し、介護資源が枯渇しかねないので厳しい。多重介護にも直面していく。ヤングキアラー、外国人のシングルマザー問題も深刻だと指摘する。
これらを踏まえて「厳しい2024年改正介護保険」「格差是正のための処方箋」を指摘、改革を提唱する。かなり思い切った提案であり、財源も相当必要となるが、それほど現場の介護問題は深刻ということだ。どう早期に整えるか――国も自分自身も考えを巡らせる著作となっている。
中学生、高校生で最も読まれている小説。2023年、最も売れた小説だという。確かにとても面白い。謎解きに引き込まれる。
オカルト専門のフリーライターとして活動している私。知人から人生初の一軒家を買う決心をし、都内に理想的な物件を見つけたが、「間取りに不可解な点がある。1階に謎の空間あって、なんとなく気味が悪い」と相談を受ける。そこで、大手建築事務所に勤める設計士の友人・栗原に協力を求める。謎の空間だけでなく、2階の真ん中に子供部屋があるが、窓が1つもなく、トイレ付きでまるで監禁室のよう。3人家族だったというがベッドの数が1つ多い・・・・・・。不可解な間取りを指摘され、「殺し屋一家が作った殺人屋敷?」と、栗原は冗談のように言うのだ。
結局、彼は買うのをやめたが、そんな時、あの「変な家」の近くの雑木林で、左手首のないバラバラ死体が発見される。「変な家」を巡る栗原の憶測話を記事にすると、「あの家について心当たりがある」という女性・宮江柚希が連絡してくる。「私の主人が・・・・・・あの家の住人に殺されたかもしれない」と言うのだ。そこから恐るべき闇の事件に巻き込まれていく。
殺人のために建てられたと思われる東京、埼玉の2つの「変な家」。そこで暮らしていた姉を探す宮江柚希(実は片淵柚希)。彼女が語り始めたのは片淵家の実家で起きた従弟の不可解な死であった。その実家も奇妙な構造を持つ「変な家」であり、片淵家は「左手供養」の呪いに縛られてきたことが明らかになっていく・・・・・・。"八つ墓村"を思わせるような、いやそれ以上の氷りつくような恐怖。それを代々抱える片渕家の怨讐・・・・・・。
今の中高校生がこういう本を読んでいるのか。ちょっと意外な気がした。
16世紀の蝦夷地。アイヌと和人とが激しく激突した今でいう函館、松前などの北海道南部先端。シリウチコタン(アイヌ集落として最南端)、大館(後の松前)、勝山館、エサウシイなど、和人とアイヌが混在する嶋南が舞台。アイヌの壮年シラウキは、この地の支配を目論む大館の蠣崎季廣の娘・稲を、とあることから攫ってしまうことになり、紛争の引き金を引く。
この地は、これまでも何度も和睦と称して相手を皆殺しにするという悲惨な歴史が繰り返され、アイヌと和人との間には不信と憎しみが充満していた。そうした絶望的な過去を抱えるシラウキ、領袖の娘として純粋な責任を背負う稲、蠣崎家家臣で稲の許婚の下国師季、泊村を支配する無頼の女傑・小山悪太夫、女真族で蠣崎二郎基廣(シラウキの友であった)の「有徳党」の一員の男・アルグンの5人は、紆余曲折を経たうえ結束し、和睦を成立させるために仲裁を求めて海を渡り、出羽国の檜山屋形(安東家当主・安東舜季)へと旅立つ。命をかけた難行苦行。それぞれが過去を背負い向き合いながら、ひたすら自分の内に秘すものを秘しながら、「アイヌと和人のとこしえの和睦」「円かなる大地」を目指して突き進む。
暴れる羆、過酷な自然、異文化の攻防――最初から、最後まで、息苦しいほどの戦いのなか、一筋の光芒が鮮やかに描かれ、一息つく思いがする。2019年の「アイヌ新法」「ウポポイの民族共生象徴空間」を想起する。