1782263887525.jpg人間の暗黒面を描いた圧倒的な深さと面白さを持つ凄みのある素晴らしい連作短編ミステリ。著者はドイツのライプツィヒ大学法学部教授で初のミステリ作品だという。訳も切れ味ある秀逸。ベルリンの刑事弁護士エーファが手がけた9つの忘れがたい事件と裁判。「人が罪を犯すのは、人生における最も弱く、最も暗い瞬間です。ほんの小さな決断が全てを変えてしまう。被害者の人生はもちろん、加害者の人生も。その暗黒の瞬間を描きたいんです」と著者は語り、訳者の浅井さんは、「華麗な法解釈、息詰まる法廷劇、謎が明らかになるときのカタルシス、それらを通して描かれる人間の矛盾と欺瞞----本書には読者が法や裁判を扱う優れたミステリに求めるすべてがある」と言っている。

30年以上、刑事事件に関わってきた辣腕弁護士のエーファはキャリアに幕を引くことを決意、自らが担当してきた9つの事件を振り返る。エーファは、依頼人のために全力、のめり込む。一つ一つが濃密で深く、人間の闇を切り裂く。

「第1の事件 正当防衛」――。年金生活者の老人が暴行され、高額の絵画を盗んで逃走する少年を猟銃で射殺。エーファの力で「正当防衛」が認められ無罪に。しかしこの老人は念入りに仕組んだようで・・・・・・

「第2の事件    生かしておく」――。名声を博していた小説家のラリッサが兄を殴って殺した。兄は小説家になろうとして挫折、妹につきまとい金を得ていたという。エーファは、「埋めよ」と隠蔽をアドバイス。しかしこの兄妹には持っても見ない驚愕の真実が・・・・・・

「第3の事件 少年兵」――。子供を誘拐して、少年兵として訓練してきたウガンダ反政府軍の元兵士。だが、彼自身が両親を殺され、反乱軍に育てられていた。「ストーリーには善と悪が必要だ。加害者と被害者が。だが、今回の事件では境界線が曖昧だった」・・・・・・

「第4の事件 塩」――。女子学生が、男性と浮気し、その家庭は崩壊。子供を預かった際、砂糖でなく塩を大さじ2杯もかけさせたところ、子供が死亡。裁判でエーファは過失致死で無罪を勝ち取ったが、女子学生は全く喜ばず失踪。「私、彼女から償いの機会を奪い取った。罰を受けることを私たちは妨げた。だから彼女は自分で自分を罰することにしたのよ」・・・・・・。罪と罰。

「第5の事件 人食い」――。「最大の望みは人に食べられること」と言う男を、処刑人46 を名乗る学校教師が己の性的欲求を満たすためにその一部を食べる。謀殺か嘱託殺人か? いやその前に、自殺していたと論証。殺人罪で起訴するはずの事件が、「人食いに執行猶予付き禁錮2年」の驚くべき判決となり・・・・・・

「第6の事件 遺稿」――。雪の中、薄いセーター2枚の女が死んだ。失恋して自殺だと思われたが----。その夫が約20年後に死んだが、小さな金庫が見つかり、それを開けると、「完全犯罪」という題の小説が・・・・・・

「第7の事件 強姦」――。若い女が集団レイプされ重傷を負う。11人が被告人となったが、1人だけ先に帰って無実の者がいるはずだった。しかし全員がそれは自分だと言う・・・・・・

「第8の事件 自白」――。イケメンの外科医が、裕福な実の母親を殺し、犯行を自白するが、どうも辻褄が合わない。エーファは策を巡らし、妻が逮捕され、本人には無罪判決。しかしどんでん返しの恐るべき真実が----。さらにそれをひっくり返すエーファの仕掛け・・・・・・

「第9の事件 シュテファン・ハインリヒ」――。これこそエーファにとって最も深い暗黒の瞬間の事件。シュテファン・ハインリヒは、ロシアの保健省の役人に100万ユーロの賄賂を渡した容疑で逮捕される。彼の雇い主である医療技術会社がロシアから大口契約を取り付け、2000万ユーロを超える医療機器をモスクワに販売していた。エーファは金は本当にロシアの役人に渡った贈賄の証拠は法廷では証明できないだろうと無罪を確信していたが・・・・・・。思わぬ背任容疑を同僚からも押し付けられ・・・・・・。そして最悪の惨劇の結末に。

罪と罰、法と正義、不可解な矛盾撞着の人間存在の暗黒、嘘と理、そして業・・・・・・。凄まじい事件の表と裏を法律の専門家が剔抉する衝撃的作品。面白い。


1781826470222.jpg「棺桶まで歩こう」とはびっくりするような表題。著者は外科医から在宅緩和ケア専門医となって17年、2000人以上の自宅の看取りに関わってきた。現在は自ら開設した「緩和ケア萬田診療所」の院長を務める。

「歩くスピードや歩幅で、その人の余命がほぼわかる。スタスタと歩ける人は、概ね10年以上生きられる。イスから腕の力を使わずに立ち上がれる方なら余命1年以上。立ち上がれない方は余命半年以内。ちょこちょことしか歩けない人は、余命数ヶ月、歩けない人は余命1ヵ月以内というところです」「人ががんが大きくなって死ぬのではなく、老いて弱って死ぬ。・・・・・・もっと生きたい? じゃあ、立ち上がろう、棺桶に入るまで歩こうよ」「入院すると歩かないから早く死ぬ。家に帰って歩こう」と言う。そして「人の寿命は歩幅と背筋でわかります」と背筋を伸ばして(体幹の持久力がある)、歩き座ることを勧める。

「タンパク質をとっている人は若々しく長生き。新しい細胞の原料はタンパク質。肉を食べている人は高齢でも若々しい」「歩くことにとって大事なのは筋肉ではなく『気力と根性』。『死ぬまで歩く』という目標を持った患者さんたちは、脳が元気になる。そして生き生きとして努力する」「筋肉が歩くには必要だが、大腿四頭筋という膝上の筋肉。この『立ち上がりの筋肉』を『貯筋』しよう」「1時間に10回立ち上がれば歩けます」「背筋を伸ばしてかっこよく座る」「大股でゆっくり、理想は早く歩こう」と言う。

「僕の仕事は『看取り』ではありません。患者とその家族が、自宅で穏やかに終末期を過ごせるようサポートするのが仕事です」と言っている。それは家族が「できるだけ死なないように」「医者が頑張れば頑張るほど、そして延命がうまくいけばうまくいくほど、患者本人の状態は辛く長くなる」と言う。だから「ピンピンコロリさせてくれない薬と救急車」「食べられなくなったら点滴もしないほうがいい」「我が家に帰る安心が一番の薬」「がんが大きくなっても歩けるなら死なない」と言う。

そして、「在宅緩和ケアが充実すれば、安心して一人で死ねます」「高齢になってから生活スタイルを変えることは死ぬよりも怖いこと。最後まで自宅で生きたいと思っている高齢者はたくさんおり、好んで一人暮らしをする方も少なくありません」「頼もしい訪問看護師、ヘルパー、ケアマネジャー、訪問薬剤師」などと語り、病院での終末期医療ではない「リビング・ウィル(治療しない意思を含む生前の意思)」の考え方を示している。

「歩けるうちは人は死なない」「歩けなくなるまでは人は死なない」「延命より満足を、治療より尊厳を」という選択を提唱している。 


1781825826297.jpg地方の衰退が進み、地方創生がますます喫緊課題として前面に出る。「脆弱国土を誰が守るか」「地方創生をどうするか」――田中角栄の「列島改造論」、大平正芳の「田園都市構想」、累次にわたる「全総」「新全総」は高度成長、人口ボーナスのある時代のものだが、人口減少・少子高齢社会、デフレ・低成長、人手不足の日本における「国土のグランドデザイン」をどう考えるかが私の重要な政治テーマの1つであった。国土交通大臣時代に専門の有識者とともに作り上げ、国交省として発表したのが本書だ。

国土を1キロメートル四方のメッシュで分解すると、2050年はなんと、「63%の地域で人口が半分以下になり、19%の地域は人が住まなくなる」となった。2050年の日本をどう作るか――。「人口減少・少子化」「異次元の高齢化」「グローバリゼーション進展の中での激しい都市間競争」「巨大災害の切迫とインフラの老朽化」「食料・水・エネルギーの制約と地球環境問題」「ICTの劇的な進歩」の6つの時代の潮流と課題を上げ、12の基本戦略を立てた。

基本コンセプト、キーワードは「コンパクトネットワーク」「対流促進型国土形成」――。都市をコンパクトシティーにする。特にその都市の個性を磨く。個性ある都市と隣接する個性ある都市を結ぶ。連携革命を起こす。その主軸は道路。都市の違いがあるからこそそこに対流が起きる。人・モノ・情報の対流こそが活力の源泉。「対流促進型国土」の形成である。なおコンパクトシティーの外側も「小さな拠点」に集約する。こうした構想だ。

先日、東三河の豊橋市、田原市を訪れたが、提唱した三河と遠州の浜松市、長野県南信の飯田市を結ぶ「三遠南信」構想。対流促進型国土形成モデルだが、これを結ぶ道路が今、70%が完成、30%が事業中というところまで来ている。それぞれの個性ある都市が対流を起こし、相乗効果をもたらすようになるところまで来ている。南信、飯田市にはリニアが通り、三河の海を得ることになる。人流、物流が活性化する。

最近では1キロメッシュではなく、500メートル、500メートルのメッシュが国交省から発表され、どこに人がいるか、どう活性化できるか、どう都市の生き残り戦術を図るかがわかる戦略的基礎データが発出されている。

改めてこの本を読んだが、様々なヒントがあった。


1780401882857.jpg戦後日本の保守思想を根底から問い直す。特に著者自身が長年師事した西部邁の軌跡をたどりながら、同じく衝撃的な死を遂げた三島由紀夫、江藤淳、さらには中上健次、折口信夫、井筒俊彦、北畠親房の「神皇正統記」などから保守思想の源流を解読し、近代日本の正体に迫る。

「豊かな『日本』を取り戻すとの政治的スローガンの熱狂のなか、しかしそこに露呈しているのは現在の日本の巨大な空虚である。今度の焼土はいわば精神の、霊性の灰燼である。守るべきものはそこにあるのか。保守すべき価値とは何なのか」――。「1991年のソ連崩壊は、『歴史の終わり』でも『アメリカの勝利』でもなく、フランス革命以後の『人間の自由意志こそ最高の権威である』という近代の固定観念の終焉だった」「新自由主義、グローバリズム、リベラル・デモクラシーなどの潮流へ追随する現代社会----。このような『保守』頽落、混迷と倒錯は、この近代200年の国家と社会の近代性、モダニティにあられもなく従属することで、人間と社会が本来的に保守すべき超越的な価値の在処を見失い、その理念を喪失したところに生じてきたもの。保守思想は神なき人間中心主義の近代世界において、その本質を問われることになったのである」・・・・・・

本書に名前を連ねる知識人は、明治以降の近代化=西洋の表層を受容することに抗った。大衆社会化状況における個の埋没や幼児化傾向を指摘したオルテガやホイジンガを西部邁が取り上げ、私は感銘。その「死生論」について自裁した新井将敬と語り合ったことを思い出す。「人間の過信を諫め、無謬の理性を疑う『保守』は、絶対者の存在抜きには成立し得ない。しかし、近代日本は超越的価値を蔑ろにし、進歩主義的イデオロギーに身を投じてきた」のだ。「『万世一系の天皇』といい、『わが国の悠久の歴史』といい、それは明治以降の近代化=西洋化の中での『贋の偶像』と化してしまったことは、繰り返し確認してきた通りである」と本源的に掘り下げて論述している。

「敗戦から80年。世界史的な『非常時』が再び来ている。今日、保守を自称する政治勢力が『日本』というワードを頻発させる。そこでは『日本』がひたすら水平軸(伝統)に内面化され、一切の外部(他者)性が排除される。これが轍である。真の保守はこれを批判する。保守思想は伝統を大切にするが、固着しない。それは人間理性を超える不可知の力によって、常にリフォームされコンサーブされるからである」「自裁するまでの40年に及ぶ言論の戦いは、大衆社会が惹起するあらゆる病を摘出する実践であり、そのプラグマティズムは、この国の同胞を、ファシスモ(束ねる)ための何がしかの超越的原理を探し求める熱情に支えられていた。どこに探し求めたのか、歴史の中に、伝統に、あるいは国家という共同体にか。・・・・・・矢が尽き刀が折れ、満身創痍になっても、西部邁は人間の知性と合理と良識への最後の信頼を決して手放すことはなかった。その『信』が自死という形をもたらしたのだとしても私にそのことを批判することはできない」と結んでいる。そして「20世紀後半からの『奇妙な保守ブーム』は、この国でも今その波の頂に達しているように思われる」と言う。 


1781050499760.jpgなんともシャレた知的センス溢れるテンポ良い5つの短編集。

「パズル」――。「解けない謎があります」と書いておくと、「マッチングアプリでしか出会えない『名探偵』」に会える。「僕(秀麿)」が付き合っている朝田寧々。ところが最近、どうもよそよそしくなり、「彼女は他の男性とも交際してる可能性がある」と謎の女性から忠告されたと言う。そこで何が起きているかの謎解き相談だ。

「完全数(自分以外の約数を足すと自分になるのが完全数。628496。プロ野球初の完全試合は1950628日、40で藤本投手の投球数96 実際は92)。ぴたっとはまるすごい偶然があるものだ。人間関係でも、他の何でも、「ぴたっとはまる相手の求めるパズルのピース」はなかなかない。「他人のことはパズルだと思うよりも、天気だと思った方がいい。頑張れば、パズルはどうにかなるかもしれないが、天気は努力ではどうにもならない。いかに合わせるか、いかに楽しむかしかない」・・・・・・。秀麿の母、別れた父の所在と相続、その娘が絡む面白い展開が・・・・・・

「竹やぶバーニング」――。仙台七夕まつり。出荷した竹にかぐや姫が混入、大捜索が始まった。そして火事が・・・・・・

「透明ポーラーベア」――。動物園で姉の元恋人の富樫さんとその彼女に会う。8年ぶりの偶然だ。姉はシロクマ好きで富樫さんと別れて行方不明になっていた。人の「繋がり」には何かの力、法則が働いているように思うが・・・・・・。「僕」も恋人・千穂と転勤で遠距離恋愛になってしまう不安を抱えていた。「成田山の法則」――なぜ人は元日からの三日間に分散するのだろう。

「イヌゲンソーゴ」――。主人公は犬のポチ、そしてムサシ。「その男を見た瞬間、全部の記憶が蘇ったんだ。俺はあの男に殺された。生まれ変わる前に、だ。」「そいつが、あの時の、あの隣人、あの男だ」・・・・・・。花咲か爺さん、ブレーメンの音楽隊、渋谷の忠犬ハチ公・・・・・・。まさに自由自在の展開。

Weather」----。友人・清水の結婚式に参加した大友は新婦からある相談を持ちかけられており、「清水の言動を結婚式当日まで観察する(特に女性関係)」ことになる。話がやばい方向になる時、役立つのは、「世界で最も無難な話題、天気の話」。やたら天気に詳しい大友。レストランで行われた結婚披露宴で清水の仕掛けたサプライズに、皆泣く。「俺は泣いていない。みたいなものだ。激しい雨とは1時間に30ミリ以上50ミリ未満だ」・・・・・・

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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