1788311134197.jpgイベリコ豚を求めてスペインに足を運んだノンフィクション作家の野地さん。それがどんどん進んで、日本でイベリコ豚のハムを作り上げ、製造販売に至る。その感動の物語。押し寄せる難題、つながる人の連鎖。「ハムが作れるとは想像したこともなかった。・・・・・・商品を作るのは能力ではない。情熱だ」「おいしい食品になるかどうかは、最終的には経営者の魂だ。完璧なものを作れるかどうかは理屈じゃない、魂だ。食べ物のブランドは経営者が作るものだ」「リーダーには熱い気持ちがなくてはダメだ。『絶対に何とかしてやる』という気持ちを持つことだ。リーダーはとぼとぼと歩いてはいかん。『湯気が出ている背中』を下の人間に見せなくてはいかん」「プラド美術館にあるゴヤの黒いシリーズにある『砂に埋もれる犬』----。絵を見た人は沈鬱になって展示室から出てくるのだろう。けれど、私は逆だった」・・・・・・。みんな砂に埋もれないように、懸命に手足を動かして生きている。「意気軒高になって、『ハムを毎年、売らなければ』とそれだけを念じてホテルに向かった」と言っている。イベリコ豚を追い求めるとともに、ハム作りまで行ってしまった著者のノンフィクション。

「イベリコ豚は、スペインのイベリア半島固有の畜種、イベリカ種」「イベリコ豚は生産効率を追求した豚ではない。放牧で時間をかけて育てる」「どんぐりを食べる豚と言うが、樫の木の熟した実を食べる(樫の実が落ちる12月から3月位までの4ヶ月のシーズン)」「最高級のイベリコ豚は純イベリカ種のベジョータ)」「一般の豚の場合、母豚は1年に25頭〜30(1年に2度の出産)だが、イベリコ豚はせいぜい15頭」「日本では一般には、どんぐりを食べるベジョータと呼ばれるものだけがイベリコ豚と思われているが、どんぐりを食べさせられていないセポというイベリコ豚もいる(どんぐりの収穫量が少ない時、大麦や小麦の穀物を食べて育てるイベリコ豚)・・・・・・。野地さんは、スペインで放牧場、屠場、食肉加工場を回る。「どんぐりを食べているイベリコ豚は1割しかいないし、その生ハムはもっと少ないとは驚くべき話だった」「生ハムは切ってすぐ食べるのではなく、常温で温め、脂肪が溶けてから食べるもの。脂肪が溶け出さない生ハムは質が良いとは言えない」「日本でどんぐりを食べるベジョータの生ハム、精肉、加工品を国内で食べたことのある人は非常に少ない」・・・・・・

イベリコ豚取材はとてもうまくいったが、「レヒーノから、2頭のイベリコ豚を購入することとなった」のだ。そして「輸入業者を探す」「イベリコ豚を使った新製品を開発する」「販売手段を考えて売り出す」という新たな3つの仕事が待ち受ける。本書の後半覇権まさにこの3つの新たな仕事で悪戦苦闘する姿が描かれる。小説ではない。本当の話。これがまた実に感動的。「夢を持ち、叶える」男たちの連携の姿、知恵・創造の姿、食文化にかける人たちの姿、そして経営というものの本質が描かれる。人の連鎖の感動である。

10年前の著作だが、今も生々しい。イベリコ豚を何度も食したが、これからはイベリコ豚をちゃんと食べなければ、と思った。


1787791514199.jpg現代ミステリの傑作短編集だが、実に面白く、うまい。

「サボテンの花」――。61組の思いもかけない卒業研究。「教頭先生、僕たち、どうしてもやりたいんです。だって、サボテンには、本当に超能力があるんです」。サボテンの超能力研究だ。リーダー格の稲川信一が、「僕たちみんなサボテンです。誰にも剪定されないから」と言う。卒業研究発表会で、「この植物が透視力とテレパシーをもっていることを発見した」と皆の前でやってみせる。生徒が定年退職となった教頭に送ったサボテンによる粋なプレゼント・・・・・・

「うそつき喇叭」――。古書店で、万引をしてつかまった十歳の少年が発する懸命SOS ・・・・・・。それを書店の老店主がキャッチし、ある罠をかける。「すぐ近くに、あの子をあんなふうに虐待している『うそつき喇叭』がいる。あの子は、それを告発したかったのだ」・・・・・・

「十年計画」――。「人から聞いた話である」から始まる聞いた話。40代半ばの女性がタクシー運転手の女性から車内で聞いた身の上話。社内恋愛をして手酷い捨てられ方をする。「お嬢さん、人をひとり殺してやろうと思って、それで運転免許を取ろうと決めたんです」「10年計画で」・・・・・・。女性の職場も少なく、ましてや、女性のタクシー運転手さんが少なかった時代だった。

「人・で・なし」――。会社の先輩と仕事後、飲み懇談。困り者、マタハリ男、人でなし野郎が会社を辞めてよかったと言う話の後、「実は僕、昔、かなり変な経験をしたことがあるんですよ」と語り始める。中学時代、父母がマイホームを手に入れるが、変なことばかりが起き、家族4人とも体調を崩すことになる。ノイズ、駅の階段で父が転んで救急車で運ばれ、家の前で家族写真を撮っても家自体は写らない、姉の視力が落ちる、家族全員が生命力を吸い取られる・・・・・・。「僕ら、間違ってた。僕らがこの家を人間みたいに扱ったから、この家は人間みたいな振る舞いをするようになっちゃったんだ」・・・・・・。そして引っ越しをする。その後、予備校生となった「僕」は、その家に寄ったところ、意識を失い、悲惨な事件が・・・・・・

この世には、わけのわからない不思議な出来事がある。人の心の内もわからない。それらが見事に描かれる。


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時折り雨がパラつく8月29日・・・・・・。開催できるかどうか心配でしたが、第52回になる伝統の東京大塚阿波おどり大会が今年も盛大に行われました。

「今年もみんなでやっとさー‼︎」が掲げられたテーマ。こんな涼しい阿波おどり大会は初めてのこと。開会式で実行委員会代表、高際豊島区長らが挨拶。5時から大塚合同連、桃李連、巣鴨っ子連、三鷹商工連、豊島区役所連、大塚商興連・・・・・・。街に元気が吹き込まれました。多くの方々とも懇談できました。関係者の皆様、ありがとうございます。

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1787791113654.jpgAI時代の生命線は「意思決定」にあり。「判断の主導権を、握り続けてください」――これが、A I時代の急所。「AIは膨大なデータから統計的に正解を導き出すことはできても、答えが立ち上がってくる場を生きることはできません。これこそが人間に残された決定的な役割です。そして日本文化は、何百年も前から、この生き方を継承してきました。武道の型として、茶道の一期一会として、ものづくり現場の暗黙知として、商人の場の差配として・・・・・・それを既に身体に持っています」と、一人の頭の中でなく、関係の中から答えが「自ずから」立ち上がってくる身体的知恵を持つ日本人にエールを送る。

A I覇権戦争----それは国家レベルから個人レベルまで、あらゆるレベルの意思決定を支配する階層構造をめぐる争いだ。その構造を知らないことは、自分自身の意思決定を、知らぬ間にA I覇権を握る人たちに明け渡すことを意味する」と言う。A I派遣戦争の構造は、「AIアプリケーション層」の下に、「AIモデル層」「クラウド層」「物理基盤層」がある。AIサービスの裏側では、大量の計算資源が稼働、その計算を狙っているのは、高性能なGPU (画像処理半導体)であり、それらを束ねたデータセンターだが、それを動かすには膨大な電力が必要となる。半導体と電力にかかっている。この土台がクラウド層と物理基盤層だが、「この2つの土台は、驚くほど少数の企業に手に握られている」。世界のクラウドインフラ市場シェアは、AWSが約29%Microsoft  Azureが約20%Google Cloudが約13%。物理基盤層では、データセンター向けGPU市場ではNVIDIAがなんと98%を占める。先端半導体製造シェアでは、TSMC9割のシェアを占めている。半導体を設計する企業(ファブレス)と製造する企業(ファウンドリ)があるが、ファウンドリのシェアは、TSMC53%、Samsung17%。ここにラピダスなどが参入、半導体製造装置では東京エレクトロンが5強の一角を占め、「塗布現像装置」では世界の90%を占めると言う。また「材料」の製造では、日本企業が突出した存在感を放っていると言う。「日本企業は、製造装置と材料で重要な立ち位置を担っている」と紹介している。それに加えて、日本文化の「無限定環境の中で、関係を育みながら生きてきた日本の知が、今世界に必要とされている」と言うのだ。

A Iの進化は永遠に続くように感じられるが、そうではなく、「Epoch  AIはその進化が長くは続かないことを定量的に指摘する」と言う。2027年から2028年の間に、最初の壁「データ枯渇問題」、これに追い打ちをかける生成AI自身による「データの汚染」問題が起きると言う。そして、「AIは、データ枯渇問題を皮切りに次々と限界をあらわにし、無限定環境への対応ができないという根本問題を残したまま、2030年前後に『頭打ち』を迎えることでしょう」と言うのだ。そして「どんなに優れた道具であっても、それを運用する人間が、進化・成長しない限りは、その潜在能力を活かしきることはできません」「AIを運用する側である私たち人間の役割と責任はますます大きくなる」と指摘する。

AI格差より深刻な『能力形成力格差』 人間拡張のためのA I」――。既に「提案書の質は標準以上だが、その提案書を作った社員自身が自分の頭で考えていない」という現象が起きている。A Iは矛盾に弱く、人間はAIに容易に騙される。大事なことは「AIを利用する前に、人間が仮説を持っておくこと。『仮説立て』だ」。「仮説設計力」を鍛えることが大事になる。何をAIに任せ、AIを使い、自分の判断で結果を出すか。リーダーが自ら仮説を立て、AIとどう協働するか。A I時代を創った人々は、コンピュータは、人間の能力を「置き換える」ためのものではなく、人間の知性を「拡張する」ためのもの、思考のパートナーへと変えた。「AIをどう導入するかではなく、能力が形成され続ける環境をいかにして設計するか。この設計がないと、人と人、組織と組織の間に『能力形成力格差』が静かに広がる」と言う。

A I覇権戦争の現在地、そして楽観できない未来、そのなかでの人間の責任と価値がよくわかる。A Iと産業・企業・個人----キーワードは「意思決定」であることを鮮やかに浮かび上がらせる。


1787148029469.jpg「ほんとうに、読んでばっかいます」と言う江國香織さん。小説や作家についての書評や解説、そして所感、随想をまとめた著作。日本のみならず外国の小説も多数ある。よくある書評、解説とは次元を異にし、ワクワク感が伝わり、文章表現もなんとも鮮やか、冴えわたっている。出てくる本を何冊か買った。

庄野潤三、瀬戸内寂聴、石井桃子(いしいももこ)、佐野洋子、谷川俊太郎、川上弘美、金原ひとみ、川上未映子、北村薫、小川洋子・・・・・・。ビアトリクス・ポター、アリス・アトリー、ジョン・アーヴィング、ピーター・キャメロン----。私は外国の小説はあまり読まないが、江國さんはそれも自由自在、「読んでばっか」そのものだ。読書家はいつでもどこでも読んでいるものだ。面白いし、この世は知らないことばかりだ。

「私がはじめてお会いしたとき、寂聴さんはすでにいまとおなじ、すっきりと丸い頭をしておられた(白いドレス)」――。最初の一行が、どれもとても良い。そして「まー、香織ちゃん、大きくなったわねー」「あのね、あなた、物を書くにはストリップする度胸が必要なのよ」・・・・・・。「石井桃子(いしいももこ)という名前は私にとって昔から、親しい、特別なものだった」「石井さんの書かれる日本語はすてきだ」「石井桃子さん出現以前と以後があると私は思っていて、自分が以後に生れたことに、とても感謝している」「石井桃子さんが生活をたくさん楽しんだ人でよかった」「書物というのがどんなに豊かで幸福なものか、石井桃子さんほどふんだんに教えてくれる人は他にいない」・・・・・・

20世紀全半のロンドンに住む少女ペネロピーが、16世紀のダービシャーに何度も滑り込んでしまうこの物語の、ためいきが出るようなおもしろさと、繊細な美しさを、どう言えばいいだろう(アリスン・アトリー『時の旅人』)・・・・・・。「庄野潤三さんの文章世界には、純粋な読む喜びがある。・・・・・・ひっそりと在る。唯一無二(庄野潤三さんの文章世界)・・・・・・。「須賀敦子さんの脚本を読んでいると、どうしてだろう、雨が降っている気分になる(雨の日を繙く)・・・・・・。「佐野洋子さんは私にとって、ずっと"あの妹"だった。『わたしが妹だったとき』という本が大好きだったからだ」・・・・・・

「ご本人に何度かお会いしていてもなお、川上未映子さんが生身の肉体を持った一人の人間であることが、私にはどうも納得がいかない。生身の人間に、あんなふうに言葉をマジカルに――天然資源の奔流的な、野蛮さとのびやかさをもって――扱えるのだろうか。私は川上さんの新刊を読むたびに驚愕し、この人は何?精霊?妖怪?言葉の化身か何かなのか?と思う」と言っているが、そのまま江國さんにお返ししたい。「金原ひとみさんのこと」では、「ありあまるエネルギーを内側に秘めている子猫」と言い、「最近の彼女の小説を読めばすぐにわかる。ますます猫の目が輝き、爪が鋭くなっている」・・・・・・

「一冊まるごと全部が、言葉にならないはずのものでできている。・・・・・・一編ずつが、しずかな奇蹟だと私は思う(川上未映子『愛の夢とか』)・・・・・・。「わくわくする本だ(北村薫『水  本の小説』)・・・・・・。「この野蛮で色鮮やかな小説の魅力を、どう伝えたらいいだろう(ドナルド・レイ・ポロック『悪魔はいつもそこに』)・・・・・・

「自由だなあ。最初にこの本を読んだ時、そう思ったことを覚えている。融通無碍。佐野さんの筆は、刃の光る裁断バサミで、布を切るときのような緊張感と何気なさで、じょりじょりと物語を切りとる(佐野洋子『そうはいかない』)読者は、蜂の巣である」・・・・・・

抜け出た作家と小説を丁寧に両手で包んで出してくれている。圧倒的だが、そんな気がした。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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