1790514445923.jpg「国歌はどう生まれたのか」をそれぞれの国の成立、歴史の中から問い直す。根源的な問題だが、極めて重要かつ興味深い歴史が浮き彫りになる。面白い挑戦的な著作だ。

世界の国歌が「革命歌」「愛国歌」の士気を鼓舞するような歌が多いなか、「日本の国歌は、じつは世界でも稀有な歌なのである。世界で唯一、『我々』ではなく『あなた』の幸せを願う国歌」だと言う。オリンピックなどでもその違いは鮮明。勇壮ではなく荘重。誰しも実感しているところだ。

「アメリカ合衆国国歌『星条旗』と『アロハ・オエ』」――。作詞者はフランシス・スコット・キー(1779〜1843)。1814年9月、キーがボルチモアのマクヘンリー要塞沖の英国艦船上で作詞をしたとされている。独立したばかりのアメリカを、イギリスが権益を守ろうと艦船攻撃。マクヘンリー要塞にはためく星条旗を見てキーが詞を作ったとされる。曲はイギリスの「天国のアナクレオンへ」(イギリスの酒飲みクラブで歌われた曲)でキーが指定したとされる。敵国の曲であるのは「歴史の皮肉」ではある。この間の複雑な事情が本書で解明され興味深い。

特にこの1812年戦争において「インディアン連合」は、敵国イギリス側についた。「有力な法律家と軍部をインディアン掃討に当たらせることにした。その主要人物が、国歌『星条旗』を作り、奴隷制を擁護した法律家フランシス・スコット・キーだった」「『星条旗」の歌詞の中には、奴隷などの差別と排除のフレーズがある(それが合衆国国歌としての制定を送らせた)」と言う。そして南北戦争――。国歌を生んだボルチモアの市民は奴隷を必要としており、「マクヘンリー要塞守備隊は北軍支持、市民や市当局は南軍支持だった」「国歌の生まれた町が南北戦争の端緒のひとつとなった」と言う。

100年以上経った1931年、フーヴァー大統領が法的な「国歌」としてサインした。その後も、オリンピック国歌事件のように、黒人選手の国歌への抗議。そして、昨今のサンフランシスコのキーの銅像の破壊がある。最近も各地で、そうした銅像破壊がある。

もう一つ本書が指摘しているのがハワイだ。1894年、長年続いた「ハワイ王国」に代わって「ハワイ共和国」が独立宣言する。アメリカは「併合」に動くが、人口の半分を占める日系人やハワイ王朝、ハワイ住民の反米姿勢があり進まない。真珠湾攻撃の時に「ハワイは当時、州にさえなっていなかった」のだ。1895年、アメリカ軍によるハワイ・クーデターがあり、その後ハワイ併合が進められるなか反併合の訴えに訪米するリリウオカラニ女王支持をうたった歌が「アロハ・オエ」だと言う。ハワイにおける人々の心の中にしか存在しない国の歌である。

「中華人民共和国国歌と何日君再来」――。中華人民共和国国歌「義勇軍行進曲」の作曲者は聶耳(ニエアル、1912〜1935)だが、彼は日本の藤沢市の海岸で溺死する。作詞者は田漢(1898〜1968)だが彼は文革時代に投獄され獄死する。国歌の基本となったこの「義勇軍行進曲」は、1930年代、抗日映画の主題歌として生まれた「典型的な抗日戦用の大衆的プロパガンダ曲」と言う。「作詞者、作曲者とも日本で暮らし学んだ」「作詞者が文革で獄死する」もので、「中国国歌の誕生の一方で、労働者や兵士が聴き、歌ったのは『何日君再来』という曲だった」と言う。「義勇軍行進曲」が正式に国歌として解決されたのは文革後の1978年、田漢の名誉も回復される。何か沁み入る哀愁のある「何日君再来」は「『アロハ・オエ』や『オールド・ラング・ザイン』(蛍の光)などと共に、『厭戦歌』にあたるだろう」と言っている。人間というのはそういう両面を抱え込むものなのだろう。

「イギリスの『ゴッド・セイブ・ザ・クイーン」と『蛍の光』」――。イギリスがEUからの離脱が決定した場所で歌われた曲が英国国歌ではなく「オールド・ラング・ ザイン」だったと言う。スコットランド民謡、ロバート・バーンズ作詞、日本では「蛍の光」と言われる曲だ。英国国歌「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」は、法的にイギリスの国歌ではない。それは「隠れた歌詞」があって「激流の如き スコットランドの反乱を打ち破らん 神よ 我らが女王を護りたまえ!」とあるからだと言う。そこで出てくるのがスコットランドで歌われる「オールド・ラング・ザイン」というわけだ。

国歌と反国歌――国家と民族と人間、国歌と民衆の心の歌。人間はその間で生きてきたのだろう。歴史の根源を考えさせる書だ。


1790514477849.jpgシュレディンガーが、量子力学におけるコペンハーゲン解釈に投げかけた「シュレディンガーの猫」――。「箱を開けて観測した時、波動関数が収束して、猫の生死の状態が定まる」・・・・・・。そんな「誰かが密室の中を観測した時、2人の生死は収束し確定する」というまさしく「シュレディンガーの密室」とも言うべき、恐るべき事件が起きてしまった。

長野県の山中深くにある「蓮田生物学研究所」。iPS細胞を軸にした再生医療の研究所で、所長は菅家或人、資金提供して造らせたのは大門バイオメディカル社長の大門公一。

「お兄ちゃんに、大事な話がある」――菅家の養女となった妹の美羽からたった一行のメールを受け取って、フリーライターの朝倉匠は研究所に向かった。そこにいたのは菅家所長、志木沢副所長、研究員の名波、天野、ジュリエット・ピコ、医師の二場、そこに加わった研究者の羽々崎の8人。さらに大門社長、秘書の津雲、大門の親戚の霧谷円香の3人。この日、総勢11人がいた。そして円香は朝倉匠に「わたしの生まれた秘密を、調べてくれませんか」と突然言うのだった。

激しい豪雨となり、その夜突然、大規模な土石流が研究所を襲う。孤立した研究所、埋まった1階の実験室Eには、美羽と円香が取り残される。猛毒の硫化水素が1階のその実験室の周りには充満、部屋に突入すれば、入り口から硫化水素が入って2人は死ぬ。「中の2人が生きているなら――ドアを開けた瞬間、2人ともガスで死ぬ。開けてはならない。しかし2人が死んでいるなら、一刻も早く、遺体の臓器を回収しなければならない」。円香は、腎臓が悪く限界に達している大門のドナーで、死亡した後48時間以内の移植が必要だったのだ。突入か様子見か――意見は真っ二つ。まさに「シュレディンガーの密室」。山中は道路寸断、救援の手は望めない。

緊迫したなか、なんと所長の菅家が殺される。そして美羽の婚約者名波(美羽はそのことをお兄ちゃんに知らせたかったのか?) も突き落とされて死亡する・・・・・・。「誰が突入し、誰を救うのか(ガスマスクは1つしかなかった)」「円香の出生の秘密とは」「いかなる秘密研究が、ここで行われていたのか」「殺人事件はなぜ起きたのか」・・・・・・。緊迫した凄まじい展開と驚くべき結末、どんでん返しへ・・・・・・。

「読者が本書の『扉』を開いた時、あるいはこの『あとがき』の扉を開いた時、物語は観測され、結末が収束し、確定する。結局のところあらゆる物語は、本質的にシュレディンガーの猫のような構造を合わせ持っているのかもしれない」――。人生とは選択の連続、決断の連続だ。「誰もが無数の選択の上に立ち生きている。ひとつ選び取るたび、世界は変わる。正解などわからない。だが、それでも決断せねばならない」「観測者はいつだって自分だ」と結んでいる。量子力学の「シュレディンガーの猫」は、「パラレルワールド」「量子もつれ」へと、宇宙と生命の本質に突き進んでいる。人生論に還元するのは、次元を異にするが、人生は決断の連続であることは間違いない。


1790514490635.jpg京大相撲部出身で、あの「月刊相撲」の編集に携わり相撲に関わり続けた十枝慶二さんの著作。ただの「相撲好き」のレベルをはるかに超えた人生と言える。2019年出版の本。白鵬の「荒々しい相撲」が問題となり、貴乃花問題が世上を騒がせ、稀勢の里が横綱になりながら怪我をし引退していく頃の出版だが、今も生々しく、かつ「相撲」愛が溢れている。

相撲のルーツは、「古事記の出雲の国譲り」「日本書紀の野見宿禰と當麻蹶速の対決」。鎌倉時代の「曾我物語」の「珍手『河津掛け』のルーツは河津祐泰か蛙か」も面白い。「弓取式の始まりは、織田信長の上覧相撲」「勧進相撲が鎌倉時代から行われ、江戸時代も(一旦中止されたが深川の富岡八幡宮で再開されたのが1684年)」・・・・・・。

「横綱のルーツは寛政元年(1789)の谷風と小野川」「横綱は地位ではなく授与。イベントの時の称号。何故か初代のはずの谷風が第4代、小野川が第5代」「横綱が番付に載ったのはすねた横綱(第16代西ノ海)をなだめるため(明治21年)」「大関は空位がない(横綱大関)」「1場所全部引き分けの横綱がいた(18代大砲)」・・・・・・。

「戦後の大相撲復興のために生まれた『三賞』、優勝決定戦も昭和22年から」「四本柱がなくなった(昭和27年)」・・・・・・。「ビデオ判定は、昭和44年春場所の大鵬ー戸田戦があったので(実は大鵬が勝っていた)」――。観ていたので、記憶は鮮明だ。鏡里、東富士、吉葉山、栃若時代、柏鵬時代・・・・・・。今に至る間の相撲界の出来事はあまりにも鮮明だ。私の相撲との付き合いは、昭和20年代後半から、そして京大相撲部時代、卒業した後、そして浅草橋に住んでいた時代、多くの関取、相撲部屋とのつながりの国会議員時代・・・・・・。

激しい稽古、怪我は絶えない。死に物狂いで上を目指す若者たち。国技館での美しい相撲の裏にある著者の言う「絶対に逃げない(稀勢の里の魅力)」、「手を抜かない」「真剣勝負」があっての表の相撲人気だと思う。

思いのこもった著作だ。


1790512042294.jpg大手広告代理店の就職面接で大物議員や財閥の9人の子女が毒物を飲まされ、7人が死亡、2人が重体となった。同時刻、銃を持った男が電力会社に侵入、1人の女性に銃を突き付け、ビル全体を人質に立てこもった。

テレビで犯人を見た相模原市の猪瀬由佳子は、「え、お兄ちゃん⁈」と驚愕。長年ずっと家に引きこもっていたはずの体の大きい兄・順一だ。一方、大学2年生の阿藤翔矢は、「母さん?」と立てこもり犯に羽交い締めにされた女性が映るテレビ画面に瞠目した。そんな所にいるはずもない母。父に連絡するが、留守電のメッセージが流れるだけ。

犯人は叫ぶ。「聞け! 要求はこれだ! おれたちに、人生を返せ! 終身雇用制度を返せ! これほど派遣社員だらけになる前、規制緩和される前の社会を返せ! 新卒じゃなくても、まともな職に就ける世の中にしてみせろ!」・・・・・・。特殊部隊に囲まれるなか、飛びついた警備員とともに、非常階段のフェンスが壊れ落下。2人は死亡、人質の女性は重症で意識不明となる。特捜本部が設置され、「港区七人毒殺・千代田区立てこもり事件特別捜査本部」が立ち上がる。

猪瀬順一のパソコンを押収、鍵アカウントで5人で会話をしていたことが判明する。いずれも昭和47、48年生まれの就職氷河期世代。妹・由佳子は、「兄は"社会を憂う男"になってみたかったんですよ。世間を騒がせて、でかいことをやって、一目置かれたかった」と言い、仲間に乗せられたと言うのだった。捜査本部が、SNSの見元を洗っていくなか、YouTubeをはじめとする無料動画共有サービス4社に、犯行声明動画がアップロードされる。「おれたち氷河期世代の復讐を目の玉かっぱじって見ておけ」・・・・・・。

そうしたなか、翔矢の父・阿藤誠が遺体として発見され、新たに「大手総合商社『加納啓商事』」立てこもり事件が起きる。犯人は、「見てろ! おれたち氷河期世代が、ついに反乱のターンに入ったぞ!」と野次馬に向かって叫んだと言う。銃で3人が死亡、2人が重傷、犯人は自分のこめかみを銃で撃ち抜く最悪の結果となった。

ネットの調査が進み、氷河期世代の絶望と恨みが明らかになっていくが・・・・・・。

不遇を囲ってきた世代の怒りや悲しみ、怨念とともに、ネット社会の匿名性と隠れた連携の怖さがストレートにに描かれる。


1790512042294.jpg「『デュアルユース問題』とは何か?」が副題。デュアルユース技術とは、軍事目的と民生目的のいずれにも利用できる技術。そのいずれにも利用されてしまう状況を問題視するのがデュアルユース問題だ。「ロケットは宇宙開発の夢を運ぶ一方で、弾道ミサイルにもなる。バイオテクノロジーは、病気の治療に貢献する一方で、生物兵器の脅威もはらんでいる。ロボットは未来技術の象徴だが、AIを搭載したロボットは兵器にもなり得る」のだ。ウクライナを見ても、ドローンが主要兵器となっており、土木・建築の世界でドローンを有効な防災・減災・国土強靭化の技術として使っている者にとって、その恩恵と危害は直面した問題である。同じ技術が善と悪の両面を有する問題が、「善悪デュアルユース問題」である。

科学技術を禁止することは非現実的だが、全てを「仕方がない」と放置するのも非現実的。「科学技術を人々にどのくらい開放し制限するか、危害をどのくらい許容し拒絶するか、この線引きを探る境界問題といえる。そのため、技術の細部に立ち入ることが不可欠です」と言う。

「人間が想像できることは人間が必ず実現できる(SF作家ジュール・ヴェルヌ)」は事実だが、「2010年代前半までは『宇宙は軍事化されているが、武装化されていない』と言われたが、ここ10年、『軍事化から武装化へと時代が進展した』という見方が強まっている」と言う。

まず取り上げられているのが、「宇宙技術」――。GPSは、米国と同盟国のための軍事システムだった。これが今、民間に解放されている。民間開放のきっかけは、1983年の大韓航空機撃墜事件。ところがそのまま受け入れるというより、米国の都合で突然使用が停止する可能性をありとして、各国は米国のGPSを利用しつつ、自前の測位衛星を打ち上げ自前のGPSを構築しつつある。気象観測衛星も、起源は偵察衛星。米国は、独自の通信衛星を保有しているが、イーロン・マスクのスペースXのスターリンクは、無数の小型衛星をつなぐことで、地球上のありとあらゆるところから通信を可能にし、ウクライナ戦争でもロシアによって破壊されたウクライナ軍の通信網の代わりに、スターリングが通信網を代行した。宇宙における軍事活動も進んでおり、米国は2019年に第6軍として宇宙軍を誕生させた。日本も宇宙作戦集団が2026年度末に新編され、2027年度に航空宇宙自衛隊になる予定。軍事化から武装化の進展だ。

懸念されるのは宇宙ゴミ、いわゆるスペース・デブリの問題だ。兵器実験によるデブリ増加はこの10年顕著で予断を許さない。宇宙資源ビジネス、宇宙構造物も進む。軍事利用・テロ転用、地球に岩石を爆弾として撃ち込むマスドライバー、「コロニー落とし」など、宇宙の平和と軍事のディレンマが現在化してくる。

本書は、この「宇宙」に引き続き「バイオテクノロジー(バイオテクノロジーの恩恵、細菌やウィルスの軍事利用、生物テロの脅威)」「サイバー技術(現代のハッキング、マルウェアの登場と社会問題化、SNSの言論統制とダークウェブ、サイバー戦争の実践)」が語られる。

「A I」については、生成AIの誕生以来、局面は全く新しい段階に突入したと実感する。「ロボット・ドローン」の軍事利用は急速度だ。ウクライナ戦争で当初、ロシアが使用したドローンはイラン製のシャヘド。「撃墜したシャヘドを分解したところ、使用されている部品のうち、米国製の部品が55個、中国製の部品が15個、スイス製の部品が13個、日本製の部品が6個含まれていたとのこと」と言う。最新鋭のものは自律化が進んでいる。

「最終的に方針を決めるのは社会、すなわち私たち自身です。静穏・勇気・知恵を念頭に置きつつ、技術の未来を想像力で補完しながら、先手先手で対策していくより、他に道はないのだ」と言う。テクノロジーの最先端、全領域にわたる恩恵と危害----ますます苦悩と危機は深い。

プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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