kaigokakusa.jpg2025年は団塊世代が75歳以上となり、空き家が全国で900万戸、認知症が700万人となり、いよいよ人口減少・少子高齢社会の険しき山に差し掛かるという年だ。介護問題はいよいよ深刻化していく。そして10年後の2035年、団塊世代が全て85歳となり、団塊ジュニア世代は60歳を超える。まさに介護問題をどうするか――制度の改革、各人・各家族にとってどう備えるか。まさにこの10年は「勝負の10年」ということになる。

大事な事は、「すべての人が介護に直面する」、しかも「介護は急に訪れる(脳梗塞、転倒など)」「後遺症が残り、常時車椅子など家族の生活は一変する」ということだ。本書は、フィールドワークで得た現場の実態を踏まえ、介護における経済、医療・健康、情報、地域、親類・縁者、世代、意識の実情に光を当て、格差の実態を鮮明に浮かび上がらせる。確かに格差は大きく深刻。どうするかを考えさせられる。

「やっぱり『お金』次第?」――「経済的余裕があるか否かで介護生活は大きく変わる」「年金毎月10万円層が厳しい(遺族年金と自身の年金で10万円)(木造アパートで国民年金のみは大変)」「生活保護の方が楽」「年金から天引きされるが、13段階の介護保険料格差」「高齢者世帯の貯蓄格差は大きい(15%が貯蓄額がない) (3000万円以上は約10%)」・・・・・・。

「頼れる人がいるか否かで明暗が分かれる」――「身元保証人がいない。そこで請負業者がいる」「デイサービス等での人間関係など仲間の大切さ」。「医療と健康格差」――。「認知症を伴うか否かで、介護生活は一変する」医療的ケアを伴うか否かでも一変する」・・・・・・。

「介護人材不足と地域間格差」――介護人材不足で、介護事業所の倒産・休廃業が増え、2023年は過去最多。地方では、ヘルパーの高齢化があり、「公務員ヘルパーの積極的構築」が必要だと言う。介護保険料の地域差も大きい(小笠原村3374円、大阪市9249)。自治体の福祉サービス格差も大きい。「尋常ではない訪問介護の人材不足」「ケアマネジャーの不足」を指摘する。

大事なのは「介護は情報戦!」――。知っているか否かで違うし、介護施設の選び方を間違わないようにと強調している。

「団塊ジュニア世代の介護危機」――。団塊ジュニアは1971年から74(昭和46年から49)で、4年間で約800万人いる。「団塊世代は団塊ジュニアがいるので逃げ切れるかもしれないが、ジュニアの老後は支える人たちが不足し、介護資源が枯渇しかねないので厳しい。多重介護にも直面していく。ヤングキアラー、外国人のシングルマザー問題も深刻だと指摘する。

これらを踏まえて「厳しい2024年改正介護保険」「格差是正のための処方箋」を指摘、改革を提唱する。かなり思い切った提案であり、財源も相当必要となるが、それほど現場の介護問題は深刻ということだ。どう早期に整えるか――国も自分自身も考えを巡らせる著作となっている。 


hennaie.jpg中学生、高校生で最も読まれている小説。2023年、最も売れた小説だという。確かにとても面白い。謎解きに引き込まれる。

オカルト専門のフリーライターとして活動している私。知人から人生初の一軒家を買う決心をし、都内に理想的な物件を見つけたが、「間取りに不可解な点がある。1階に謎の空間あって、なんとなく気味が悪い」と相談を受ける。そこで、大手建築事務所に勤める設計士の友人・栗原に協力を求める。謎の空間だけでなく、2階の真ん中に子供部屋があるが、窓が1つもなく、トイレ付きでまるで監禁室のよう。3人家族だったというがベッドの数が1つ多い・・・・・・。不可解な間取りを指摘され、「殺し屋一家が作った殺人屋敷?」と、栗原は冗談のように言うのだ。

結局、彼は買うのをやめたが、そんな時、あの「変な家」の近くの雑木林で、左手首のないバラバラ死体が発見される。「変な家」を巡る栗原の憶測話を記事にすると、「あの家について心当たりがある」という女性・宮江柚希が連絡してくる。「私の主人が・・・・・・あの家の住人に殺されたかもしれない」と言うのだ。そこから恐るべき闇の事件に巻き込まれていく。

殺人のために建てられたと思われる東京、埼玉の2つの「変な家」。そこで暮らしていた姉を探す宮江柚希(実は片淵柚希)。彼女が語り始めたのは片淵家の実家で起きた従弟の不可解な死であった。その実家も奇妙な構造を持つ「変な家」であり、片淵家は「左手供養」の呪いに縛られてきたことが明らかになっていく・・・・・・。"八つ墓村"を思わせるような、いやそれ以上の氷りつくような恐怖。それを代々抱える片渕家の怨讐・・・・・・

今の中高校生がこういう本を読んでいるのか。ちょっと意外な気がした。 


madokanarau.jpg16世紀の蝦夷地。アイヌと和人とが激しく激突した今でいう函館、松前などの北海道南部先端。シリウチコタン(アイヌ集落として最南端)、大館(後の松前)、勝山館、エサウシイなど、和人とアイヌが混在する嶋南が舞台。アイヌの壮年シラウキは、この地の支配を目論む大館の蠣崎季廣の娘・稲を、とあることから攫ってしまうことになり、紛争の引き金を引く。

この地は、これまでも何度も和睦と称して相手を皆殺しにするという悲惨な歴史が繰り返され、アイヌと和人との間には不信と憎しみが充満していた。そうした絶望的な過去を抱えるシラウキ、領袖の娘として純粋な責任を背負う稲、蠣崎家家臣で稲の許婚の下国師季、泊村を支配する無頼の女傑・小山悪太夫、女真族で蠣崎二郎基廣(シラウキの友であった)の「有徳党」の一員の男・アルグンの5人は、紆余曲折を経たうえ結束し、和睦を成立させるために仲裁を求めて海を渡り、出羽国の檜山屋形(安東家当主・安東舜季)へと旅立つ。命をかけた難行苦行。それぞれが過去を背負い向き合いながら、ひたすら自分の内に秘すものを秘しながら、「アイヌと和人のとこしえの和睦」「円かなる大地」を目指して突き進む。

暴れる羆、過酷な自然、異文化の攻防――最初から、最後まで、息苦しいほどの戦いのなか、一筋の光芒が鮮やかに描かれ、一息つく思いがする。2019年の「アイヌ新法」「ウポポイの民族共生象徴空間」を想起する。 


daisanji.jpg「台湾有事のリスクと日本が果たすべき役割」が副題。台湾をめぐる米中軍事衝突は世界戦争へ直結する危険がある。「台湾をめぐる米中戦争の可能性は『起こりうるが回避も可能、もし起きたら世界が終わる』というのが現時点の評価だ。関係諸国の間で、それが、『世界の終わりは避けられないが、そんな未来はありえない』に変われば、筆者は枕を高くして眠れるだろう」と結論する。

「インド太平洋地域の内外で、多くの国が終末戦争の危険を減らそうと力を注いでいる」と、著者はその様子を伝え、各国の努力の評価を行い、抑止戦略の相関図を開示する。抑止努力は、「自由で開かれたインド太平洋vsアジアの安全保障はアジア人の問題だ」「台湾は中国人が解決すべき『国内問題』であるvs台湾は安定と人権と制海権をめぐる地域と世界の問題だ」との言説の報酬は危険な誤解を招きかねない。「台湾をめぐる紛争は、通常兵器しか使わない局所的な衝突なのか、それとも世界への波及が避けられず、核の使用まで想定する必要があるのか」――その損失と危険は容認しがたいと言う。過去の冷戦と違い、今の世界は2つのブロックにしっかり分かれているわけではなく、緊密かつ複雑な関係が絡み合っている。「今求められているのは、従来型の抑止戦略に加えて、その良い面を現代の外交と政治に再現することだ。新しい冷戦を始めなくとも、かつての冷戦から外交の枠組みが持つ価値を学べば良いのである」・・・・・・。

バイデン大統領の介入発言が「台湾とウクライナのリスクの差を鮮明にした」が、著者は米国が断固として介入する意思を持てるかどうか、それが台湾有事の焦点になると言う。米国が中国と向き合う意思を強固にし、日本が新防衛方針に沿って抑止力を高め、同盟国・パートナー国との連携を促進することの重要性を指摘する。アジア諸国のそれぞれの事情の違いを説明している。日本の安全保障政策と政局との関わりについては、正確ではない。


orokamonono.jpg北海道の厳しい自然環境のなか、人と獣の業と悲哀を圧倒的な迫力で描き続ける河﨑さんの最新作。

明治18年初夏、瀬戸内巽は政治活動をした国事犯として徒刑13年の判決を言い渡され、北海道の樺戸集治監に収監される。21歳だった。劣悪な5人部屋の雑居房。そこで一緒になったのが山本大二郎30歳。極寒、劣悪、過酷な日々が始まるが、この大二郎、女の話や食い物など囚人の欲望を膨らませる夢のような話で周りを巻き込む法螺吹き男だった。巽は親しくなるが、大二郎は、「俺の宝物なんだ」と小さな水晶の石を大事に隠し持っていた。あまりにも厳しい極寒の冬を何とか乗り切るが、翌春、2人は硫黄採掘に従事するため、道東の釧路集治監へ移送される。吹雪で仲間が命を落とすなか、中田看守と2人は、やっとたどり着くが、そこでの労働は、これまで以上に過酷、硫黄のために体を壊し死ぬものも多かった。大次郎は体をやられ、目を悪くする。

2年に及ぶ苦役を何とかしのぎ、明治21年暮れ、3人は再び樺戸へ戻ってきた。大二郎は明治221月末、収監されていた屏禁室が火事となり、脱走する。

「山本大二郎はどこの出身なのか、何の罪を犯したのか」「あの石は一体何なのか」「法螺話や大仰な話をして場を楽しませていた男の真実の正体とは」「火災はなぜ起き、大次郎はどこへ行ったのか」・・・・・・。明治301月、恩赦もあって、刑期を終えた巽だが、脳裏にはその疑問がつきまとう。中田看守から大二郎はかつて幼子2人を殺した男だと聞くが・・・・・・。

絵の名人であることを隠していた大二郎。「囚人というのは徹底して、看守に従順であることを課せられる。ならば、本当の自分を晒さないこと、それは当人にとってはささやかな抵抗として機能し得るのではないか」「山本大二郎は、相棒にまで絵の趣味を隠し、密かに集治監の体制に抵抗していた」・・・・・・。しかし普通の勝利への抵抗では全くない。地獄の中に住み続ける男の諦念の境地が、真実に迫るなかで心奥に伝わってくる。 

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プロフィール

太田あきひろ

太田あきひろ(昭宏)
昭和20年10月6日、愛知県生まれ。京都大学大学院修士課程修了、元国会担当政治記者、京大時代は相撲部主将。

93年に衆議院議員当選以来、衆議院予算委・商工委・建設委・議院運営委の各理事、教育改革国民会議オブザーバー等を歴任。前公明党代表、前党全国議員団会議議長、元国土交通大臣、元水循環政策担当大臣。

現在、党常任顧問。

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