「生物と無生物のあいだ」「動的平衡」の福岡伸一さんが、ロックフェラー大学のノーベル賞受賞者たちと「生命科学」の最先端について対談する。そして最近の「社会的利益を実現し得る学問」への偏重に警鐘を鳴らす。そして、「生命科学の本質に立ち戻れ」「生命科学の本質は、生命とはいかなるものか、生命とはいかにして生命たりえているのか、そのHOWを解き明かす営みにあるはずだ」という。対談等のなかで、黙々と気の遠くなるような実験・研究を繰り返す研究者の日々が浮き彫りにされ、その謙虚、自然体、正確へひたむきな追求作業と科学の限界ギリギリを見つめて格闘する真摯な態度に感銘する。
対談は印象深い。「ロックフェラー大学という『科学村』の強み」「誰もが公正に扱われるチームづくり」「将来のリーダーを見つけ出す嗅覚」「科学における最大の障害は無知ではなく、知識による錯覚」「どれだけ目立って、インパクトを与えられるか」など、いずれも傑出した人間の境地を感じさせる。
テーマは「生命とは何か」「生命科学は何を解明してきたのか?」だ。生命科学史上、20世紀最大の発見はジェームズ・ワトソン、フランシス・クリークのWCによる「DNAの二重らせん構造の解明(二重とは相補性による情報の担保)」。「遺伝子の本体はDNAである」としてその端緒を切り開いたオズワルド・エイブリー。そして脳がどのように世界をコード化しているかという大発見に至ったデイビッド・ヒューベルとトーステン・ヴィーゼル(HW)。
「奔放で真摯な研究姿勢は、今の私の身体に深く染みついている」と福岡さんは語る。そしてGP2(グリコプロテイン2型)遺伝子を追い、ついに生命を動的平衡と捉えるに至った戦いの歴史を語る。膵臓、消化酵素、情報の解体たる消化、消化管は生命の最前線・・・・・・。じつに興味深い。
「『安いの労働力』から『戦力』へ」が副題。2016年、日本で働く外国人の数が初めて100万人を超え108万人となった。最も多いのが日系人や日本人の配偶者のいる定住する許可を得ている外国人で41万人(38.1%)、続いて留学生(就労目的で来日)で24万人(22.1%)、次に技能実習生21万人(19.5%)、そして専門的・技術的分野の在留資格をもつ高度人材19万人(18.5%)だ。いずれも厳しい生活・労働環境だが、とくに技能実習生、そのなかでも繊維・被服関係や農業・漁業関係では不正行為が頻発した。
日本は人手不足時代。低賃金・重労働の業種では外国人の労働力なくしては日本の産業は成り立たない。しかし、「使い捨て」「人権無視」は断ち切ることが大切だ。もう「安くて都合のいい労働力としてアジアの人材を使い捨てる時代は終わった」「外国人を日本人と区別することなく『労働者』として処遇していくこと」「"実習生""留学生"として覆い隠されてきた建前をとり、単純労働者が"労働者"として認められること」、さらには日本に住み、働き、税金を納め、家族を養って、二世も住み続けられる日本での「共生社会」の時代が来るという現実を直視することだ。
この数年で日本の体制は大きく変わった。建設関係で直接、仕組みづくりに携わったが、今が改革の時だ。「使い捨て」「人権無視」でなく、「共存」「共生」する日本の社会をめざして。
運命、縁、親子、善き人々・・・・・・。静かに丁寧に、そして正確に心の襞に入り込んでくる情感。そんな心持よい感慨が読後の味だ。
14年ぶりの私立探偵・沢崎シリーズ。沢崎の下に、金融会社の支店長・望月と名乗る男が訪れ、融資が内定している料亭「業平」の女将の身辺調査を依頼される。ところが女将はすでに死亡していた。沢崎が勤務先の金融会社を訪れると、突然の強盗事件が発生。しかも支店長は行方不明となる。巻き込まれた若者ともども、事件の深みに引きずり込まれていく。
情感がじわじわと迫ってくるが、沢崎と新宿署の警部、清和会のヤクザ等とのひねくれた会話のやりとりもアクセントを与える。事件というより、テーマは各々の人が宿命にさらされながらも「生きていく」ということか。「それまでの明日」とは、そういう時間軸。
今、自転車が活用されている。自転車レースが増えている――。27日、UCI公認国際自転車ロードレースの「2018 Tour of Japan」東京ステージが行われ、「チーム右京」のオーナー・片山右京さんにご案内いただき、参加しました。
このレースは、東京・日比谷をスタートし、大井埠頭を周回する112.7kmのコースで行われたもの。海外から8チーム、国内から8チーム、計16のチームが参加。5月20日に堺(大阪)から、京都、いなべ(三重)、美濃(岐阜)、南信州(長野)、富士山(静岡)、伊豆(静岡)、東京の8か所でレースを行い、優勝目指して競い合います。白熱のレースでもあり、駆け引きの巧みな攻防が見られ、大変に盛り上がりました。沿道にはお子さんから年配の方まで、多くの方が観戦され、歓声を挙げておりました。自転車ロードレースの人気の高まりを実感しました。
また、昨年5月に「自転車活用推進法」が施行され、この5月は自転車月間になっています。
スポーツとしても、地域の活性化としても、自転車は大いに期待されています。私も国交大臣時代に「自転車専用レーンの設置の推進」や「しまなみ海道を走る自転車の通行無料化」なども行ってきましたが、さらなる自転車の環境整備に力を注ぎたいと思います。
昇りゆく「日の出」は、希望であり、生きる力だ。国木田独歩の短篇「日の出」も名作だが、この長編は苦難を背負い続けて坂道を一歩一歩登りゆく人のにじみ出る輝きがある。
「浅間くんと馬橋くんの人生は、まさに波瀾万丈だね。事実は小説より奇なりだ」――。日清戦争が終わり、日露戦争へと突入せんとする時、13歳の馬橋清作は「徴兵逃れ」をして小松を飛び出し、美作、小倉、そして川崎、筑波へと名を隠しつつ鍛冶職人として生きる。襲いかかる苦難の連続。徴兵逃れの重罪、厳しいヤマの鍛冶屋の労働、うち続く炭鉱のガス爆発、朝鮮人の「地獄の採炭」、川崎・横浜の朝鮮人町、大正12年(1923年)の関東大震災における首都壊滅と朝鮮人暴動の流言・・・・・・。試練というにはあまりにも巨大で重苦しい。とくに朝鮮の人々には試練ではなく理不尽きわまりない苛酷さだ。生きることの辛さ、悲しさ、そのなかで懸命に生きることによって光を見出す。鍛冶職人は地味はもとよりのこと、たたいてたたいて鍛え抜く象徴といえよう。その人生の岐路にはいつも小松の先輩・浅田幸三郎が姿を現わした。
一方、時をへだてて清作を曽祖父とする平成の若い教師・あさひが描かれる。いずれの時代でも生きる者に平坦な道はない。「鍛冶は、1日に何万回も金鎚を打つ。しかし、二度続けて同じ鎚音が鳴ることはない。ひと打ちごとに鉄は鍛えられていき、鎚音がわずかに変わっていく」・・・・・。