「掛け値なしの面白さ 著者初の現代ミステリー」と帯にあるが、ミステリーというよりも蓄積された心の奥がにじみ出る4篇の小説。
尊敬する高名なグラフィック・デザイナーの叔父から、死後に日記が届く。その意味するものを探る「晩秋の陰画」。飛行機恐怖症の男が、人の余命日数が見えてしまう特殊能力をもつようになり、その結末を描く「秒読み」。アラン・ドロン、リノ・バンチュラの「冒険者たち」に魅せられた人たちを描く「冒険者たち」。そして音楽評論、オーディオ評論、音にかけた男たちの人生の終章「内なる響き」。
これまで抱いてきた山本一力さんの世界が一変し、フランスへ、アメリカへ、音へ、ハーレーへ、深層心理へと時空を乱反射する。
国際情勢は想定外の出来事も含めて激動の渦中にあるが、その背後の因果・相関関係を見抜く歴史的大局観が必要――その観点から二人が転換期の核心を語り合っている。
激流を象徴する事件の1つが、2014年3月のロシアによるクリミア併合(ウクライナ危機)。それは世界が再びナショナリズムの時代に回帰しはじめた、「力による領土不拡張」という戦後国際社会のルールを変えたことだ。もう1つは、世界中で経済格差の広がりがあり、貧困が固定化される。中層階級が直撃され、移民や既存のエリートに強烈な"怒り"をぶつける「ダークサイド」の社会現象があるという。こうしたダークサイドのマグマが噴出する世界の大きなうねりに、各国は今、その対策に苦慮している。
そうしたなか、中東、中央アジア、欧州、アメリカ、中国、そしてイスラム、IS、トランプ現象、中国の戦略等々・・・・・・。世界を一周して、歴史的大局観から解き明かす。
「日本の国家戦略を考える」と副題にある。20世紀最後の四半世紀と21世紀の現在のアジア情勢がいかに変化しているか。グローバル化と中国の台頭を受けての米国の戦略と東南アジア諸国の考え。大陸部東南アジアと島嶼部東南アジアの違い。グローバル化・都市化・期待の革命の進行。中国の「一帯一路」と「天下」の秩序。
きわめて緻密に今を分析し、踏まえるべき事項と未来への戦略を浮き彫りにしている。「日本は超大国ではない。大国だ。超大国は、国際的なルールを、自分で、あるいはみずからリーダーシップをとってつくれる国だ。それに対し、大国は、超大国が国際的なルールをつくろうとするときに、超大国と交渉し、ルールづくりに実質的に参加できる国だ」「われわれは、どういう世界をつくりたいのか。現在の秩序の上に、もっと自由で公平な世界をつくりたいのか。それとも"自分たちだけがよければ"といって"虫のよい生き方"(吉田茂)を続けようとするのか」「大きな方向としては、大日本帝国の過去と折り合いをつけ、戦後日本がその下で平和と安定と繁栄を享受してきた自由主義的国際秩序を守り発展させる」――。海洋アジアと大陸アジアを軸にした地域全体の構図を示し、日本の安全保障と経済の戦略を提示している。
埼玉県行田市にある100年続く老舗・足袋業者の「こはぜ屋」。足袋業がジリ貧であることは明白。社長の宮沢は、足袋作りのノウハウを生かしたランニング・シューズの開発に乗り出す。
中小企業の脆弱性、資金難、妨害・・・・・・。苦難の連続だが、仲間の強い結び付きで乗り越えていく。
社長の宮沢を支える社員の安田、あけみ、富久子。新しいソールのシルクレイ製造に人生をかけたシルクール元社長の飯山、シューズマイスターの村野、銀行の融資担当であった坂本。抵抗する経理担当の富島玄三もいい。長男の宮沢大地、長距離選手・茂木裕人も真っすぐ。「企業は人」「人は覚悟」「企業はチームワーク」が貫徹されて心持よい。
「茂木にはわかったことがある。自分は人気取りや世の中からの賞賛を得るために走っているのではないということだ。自分が走るのは、自分にとってそれが人生そのものだからだ。そして何より、――走るのが好きだから」「勝つために走る」――。苦難を乗り越え登場人物が皆強くなっていく。苦難にあうごとに覚悟が堅固になる。「波浪は障害に遭うごとにその頑固の度を増す」――。
