浄瑠璃の近松半二の生涯――。穂積成章は浄瑠璃狂いの父・以貫から近松門左衛門より譲り受けた硯を託されて浄瑠璃作者へと導かれ、近松半二を名乗る。道頓堀には歌舞伎、操(あやつり)浄瑠璃などの芝居小屋が建ち並んでいた。浄瑠璃に魅せられ栄枯盛衰の波に翻弄されながらも突き進む作者、人形遣い、太夫、座本たち。
思い、狂い、苦しみもがき続けた近松半二はついに「妹背山婦女庭訓」に全てを結実させる。連日、竹本座は蘇って大賑わい、隆盛の歌舞伎芝居に一矢報い、借金も返す夢のような大入りの日々に竹本座の面々は涙する。
仏典には「心如巧絵師」とある。心は無量無辺の三千世界へと飛び、夢と現、この世とあの世のあわいを生き、実が虚となり、虚が実となり、実となってまた虚へと裏返る。庶民を虚実混然一体の渦の世界へと誘い、熱狂を生み出すエネルギーは凄まじい。
「ままならぬのが人の世だ。艱難辛苦に翻弄され、泥にまみれていくのが人の世だ。醜い争いや、失望や意図せぬ行き違い、諍い、不幸な流れ。辛い縁に泣き濡れて、逃れられぬ定めに振り回されていくばかりが人の世だ。それなのに、なぜうつくしい。悲しみも嘆きも、苦しみも涙も、なぜうつくしい。そうよな。それが操浄瑠璃よな。・・・・・・この世は汚いまんまやけどな。そんでも汚いもんの向こうにうつくしいもんがある」・・・・・・。庶民を夢中にさせた道頓堀の芝居、そのために自らを異次元の狂の世界まで突き詰めた作者や人形遣いの人々の鼓動が伝わってくる。
様々な避難者に配慮した避難所運営を考える――。8日、「北区堀船地区避難所運営の図上訓練」が行われ、参加。きわめて実践的で重要な訓練だと実感しました。
大災害のたびに膨大な避難者が発生、学校等の避難所では「避難者が夜中にも集中し、ドアやガラスが破壊されたり、負傷者や遺体が運ばれたり、救援物資が届いても置く場所や配るルールが定まっておらず、大混乱をきたした」「ストレスがたまり、避難者同士の衝突が起きた」「水洗トイレが使えず処理に困った」「水を求めて1時間以上も並んで待った」など、大変な事例が次々と起こってきたのが現状。避難所設備等の配置、利用計画の作成、避難所のルールや方針が決まっているかどうかが重要です。しかも避難所は、近隣の在宅避難者(在宅被災者)の物資をはじめとする連携拠点、支援拠点でもあります。
また全て行政でできず、地域でのルールある助け合いを生かした運営が不可欠となります。この日は、こうしたことに対しての実践的な訓練が行われました。夜には大型台風15号の関東への襲来もあり、きわめて重要な訓練となりました。
山幸彦という不可思議な名をもつ佐田山幸彦は化粧品メーカー直属の研究員。常に"痛み"に襲われて苦悩する。腰痛持ち、頭痛持ち、40肩(30代なのに)、鬱病。ところが従妹の女性・海幸比子(通称海子)も同様の"痛み"で苦しんでいた。この変な名前は祖父の画策で、「山幸彦」「海幸彦」の神話に基づいていた。そこに実家の店子・鮫島氏から手紙が来て、その長男が宙幸彦と知って仰天する。一族に降りかかる理不尽な"痛み"の根源を訪ねて祖先の地・椿宿に向かう。
「痛みというアラームが体に鳴り響くと、自分という大地を構成する地層の奥深くにある何かが、今にも大きく揺らいで、大げさに言うと、存在の基盤のようなものが崩れ落ちそうになる。"痛み"が昔馴染みの"不安"を強烈に覚醒させ、活性化するからだと思っている。まことに厄介なことだ」・・・・・・。椿宿の実家には、江戸時代、藩の凄まじい惨劇があり、さらに昔には網掛山からの火砕流、大地震で生まれた天然ダム湖の決壊、山体崩壊の大災害があり、今も「治水」が大テーマになっていることを知る。滑落する山、滑り落ちていく神社を知り、「私の幼い頃からの不安の根源がここに、この滑り落ちていく、という感覚そのものにあったのだ」と"不安の核心"に触れたような気になる。自然・災害とどう折り合うか、先祖代々受け継がれる自然との共生のなかに生じる生命、人間の体と心と自然と営みの歴史、そのなかで生まれる神話と宗教、"痛み"と鍼と経絡・・・・・・。「痛みが終わった時点で自分の本当の人生が始まり、有意義なことができるのだと思っていたが、実は痛みに耐えている、そのときこそが、人生そのものだったのだと思うようになりました。痛みとは生きる手ごたえそのもの、人生そのものに、向かい合っていたのだと」「先祖から・・・・・・負の遺産として引き継がれたものだとしても、それはミッションで、引き受けるよりほか、道はない」――。あまり出会ったことがない不思議な哲学的小説。
きわめて現実的、重要な著作。日本は世界有数の自然災害多発地、災害列島だ。とくに水害。伊勢湾台風から60年、昨年の西日本豪雨も232人の死者・行方不明者を出した。
地球環境の変化もあり、台風も雨の降り方もおかしい。首都直下地震等の大地震もいつ起きてもおかしくない。本書は豪雨、台風、高潮、地震洪水、大水害への備えの緊急なこと、最善の避難策をきわめて現実的に訴えている。
東京には江東5区等、ゼロメートル地帯が広がっている。土屋さんは、「ゼロメートル地帯江戸川区のハザードマップ作り」にも、「江東5区大規模水害広域避難計画」にも携わり、現場で具体的に推進してきている。東日本大震災で大被害を被った女川町の海の見える町の土地区画整理事業も進めてきた。
災害は現場で起きている。「正常バイアス」は危い。マニュアル任せは危険だ。「命山」「スーパー堤防」がゼロメートル地帯には重要だ。これらは実は、最近のことではない。先人が知恵を出して何百年もやってきたことだ。東京の今の堤防にはまだまだ弱点がある。地下鉄等も世界では類例のない発展をしている。「首都東京ゼロメートル地帯『命山』計画」を強く主張している。全く同感。「ハザードマップ」「タイムライン」「マイタイムライン」のソフトも含めて、命を守り抜く防災・減災対策を更に強化する必要がある。「警告」というより「叫び」として読んだ。