「東アジア共同体の道」の副題がついている。
ナショナル・アイデンティティの確立は、グローバル21世紀の課題だが、それを越えた共通のアジア・アイデンティティ、未来のアジア構想「アジア共同の家(アジアン・コモンハウス)」を提唱している。「テリトリー・ゲーム」から「ウェルス・ゲーム」、そして「21世紀のアイデンティティ・ゲーム」の時代の次が、組み立てられなくてはならないと、次代を眺望している。
思想・イデオロギーの諸テーマは、時に「神学論争」などといわれて、私自身、失笑することもしばしばだが、判りやすく語れるかどうか――力量がこれほどあらわになるものはない。こんなにも明確にやさしく力みなく語れる松本さんは卓越した思想家だ。
勿論、論争の激しさをたたえていることも大変な魅力だ。
政治家の名言・格言に学ぶ最強の処世術100と副題がついている。「母屋で粥をすすっているのに、離れでは子供がスキヤキを食っている(塩川正十郎)」も名文句だが、それを評する伊藤惇夫さんの「"人生のロスタイム"で逆転のトライをあげたような感じ」との言も味わいがある。文章がいいのだ。
「幸せは長く、演説は短く」「サルは木から落ちてもサルだが、政治家は選挙に落ちたらただの人」「田圃と女房と選挙の票は、一度貸したら戻ってこない」
「やはり野に置けレンゲ草」「天の声にも、たまには変な声がある」「政治家は次の時代を考え、政治屋は次の選挙を考える」「理屈は後から貨車で来る」「声なき声を聞け」「政界は欲望と嫉妬の海だ」「政策に上下なく、酒席に上下あり」・・・・・・。話したその人の心情が伝わるようだ。「いると邪魔、いないと寂しい記者と珍念」が太田昭宏提供として出ている。
田中角栄の「政治は冠婚葬祭だ」を冒頭におき、石橋湛山の「人が国家を形づくり国民として団結するのは、人類として個人として人間として生きるためである」を100言目のトリにしているのはいい。バラバラになりがちなこうした本だけに、その完成度の高さを示している。
昨年の9・11総選挙に現れたものは何か。郵政民営化は「口利き政治」に終止符をうち、55年体制の終わりを告げる次代の幕開けだと田中直毅さんはいう。
「一気通貫となった政策・政党・首相候補」「既得権益の擁護を国益の名を借りて語る政治家の胡散臭さ」「小泉の政府赤字はへらし、政府保証の傘をすぼれる断固たる姿勢」「55年体制の崩れは(1)国際関係と国内関係の切り分け(2)「やさしい保守政治」の政策体系(3)先送り構造――の3つの耐久年限が切れたことによる」「次世代に厳しい負担先送りの仕組みと少子化」
「既得権益の擁護(弱者保護も含む)は改革ではない」「人口減少社会での持続性確保こそ現在の主要命題」「プライマリー・バランス回復の為には非効率は公共部門の骨組みにメス」「首尾一貫性のある社会保障システムづくり」――まさに、これらは55年体制の設計がきわめて不都合となり、改革を迫られているということになる。
そして、日韓、日中を論じて、世界を支えるシステムを日米同盟でいかにしてつくりあげるかは、金融も経済も安保も再位置付けが行われようとしていると指摘されている。有意義な著である。