「会社は誰のものか」という人がいるが、「誰のためにあるのか」だ。
株主のため、従業員のため、お客様のため、社会のため、国家のためで、金儲けのためなら会社をおもちゃのように売買したり、自由にしていいというのではない。国際競争力維持のために、この国は「人と技術」しかないのだから、科学・工学技術者の育成や、技術開発の基盤となる中小企業育成に十分な策を講ずべきだという。
「中間層に厚みを増す社会」という私の主張は、そうした面でも大切ということだ。改革力をつけるためには膿を全部吐きだし、身を切れ、とも。国際社会で勝つためには、借金経営の経営基盤の脆弱さを脱せよともいう。
経営者の感覚から「部分最適より全体最適を重視せよ」「日本人は手段を目的化する傾向があるから、仕事に命を賭けるな」「終身雇用、年功序列、成果主義への視点」「要は人づくりにある」「セーフティネットを設けた上での競争社会を」など、自らの苦闘のなかで培った哲学が示されている。
8年前、橘木さんの「日本の経済格差」は、ジニ係数を一般で使われる言葉にしてしまうほどの話題を呼んだが、今回の「格差社会」は、格差の現状と世界から見た日本社会の現状を、冷静に分析している。
こうした本は分析で終わることが多いが、第5章の処方箋は、かなりの分量を占めており、「税制における累進性」「雇用格差について貧困層を少なくする努力、同一労働・同一賃金、最低賃金制度の充実」「脱ニート・フリーターのための職業訓練への公共部門の関与」
「地域の力を引き出す街づくり戦略」「奨学金制度と公教育改革」「生活保護、失業保険制度の見直し(充実)」「税や社会保障制度の所得再分配効果の低下への対応」などを提起している。少子高齢社会、日本型慣行、雇用情勢の変化など、激変とせめぎ合いのなかで、国民の選択に委ねられるが、それであればあるほど、政治がどう提起するかだ。