政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN

NO.172 チャットGPTが招く人類的諸課題/「偽情報」「犯罪」「人権」など広範な議論を!

2023年5月12日

生成AI(人工知能)による対話型サービス「チャットGPT」が注目を集めている。人と会話をしているかのように文章を生成するという意味では、人類史的出来事ともいえる。チャットGPTは高度な自然言語処理能力をもつ「大規模言語モデル(LLM)」に大量のデータを学習させ、なめらかな文章を作る。携帯、スマホ以来ともインターネットが出た時と同じ位の衝撃ともいわれるが、課題も多く、広範囲な議論が欠かせない。「個人情報が無断で収集される」「生成した内容が著作権を侵害、文化・芸術・学術・報道などが侵される」「大学等の論文・レポート作成など教育現場への弊害が顕著になる」「企業秘密などの流出」「爆発物の製造などテロ、犯罪への悪用」「もっともらしく装った偽情報が社会に拡散する」「民主主義歪曲の危険」・・・・・・。問題は広範で複雑、かつ「人間と文明」「人間とテクノロジー」という根源的な問題が突き付けられているのだ。

チャット.jpeg政府は、AIにかかわる「国家戦略」を検討する新たな「AI戦略会議」の設置を決めた。チャットGPTなどAI全般について、活用や研究開発の促進と、規制強化の両面から議論する。4月末、日本で行われたG7デジタル・技術相会議では、共通ルールに基づき個人情報の保護や偽情報に対処した「責任あるAI」の実現に向け、①法の支配 ②人権尊重 ③適正な手続き ④民主主義 ⑤技術革新の機会の活用――の5原則を打ち出した。G7が技術基準やリスク評価、偽情報対策で連携をとり、年内に生成AIの利用指針を策定する。イタリアはチャットGPTの個人情報の収集に違法性があるとして、利用禁止措置を一時とった。厳しい規制をすれば、技術開発の妨げになるわけで、「デジタル敗戦」とコロナ禍で言われた日本としては、開発と規制を同時並行させる必要がある。統一ルールづくりをめぐっては各国の思惑が交錯し激論が交わされたという。中国が政府主導のAI開発を進めている状況を見ると、チャットGPTなどの現実展開が始まった今、G7が弊害除去に全力を尽くし、統一ルールづくりをしっかり行うことが重要だ。現代社会の安全・安心、人間にとっての安定した豊かさを脅かしかねない事態だと捉えなければならないと思う。

チャットGPTは「答えを出す」という特徴をもつ。インターネットが「調べたい」「知りたい」ことに応えようとして検索するのに対して、チャットGPTは「とり合えずの答えが欲しい」ことに応えるところに、大きな違いがある。そこで得られるものは「正しさ」ではなく、「もっともらしい答え」だ。もともと「膨大なデータから確率に基づいて出ているもので、意味を理解して作られた文章ではない。追求しているのは『もっともらしさ』で『正しさ』ではない」(新井紀子・国立情報学研究所社会共有知研究センター教授)のだ。"情報のつぎはぎ"ともいえる。しかも、正しい情報を積み重ねて更に学習が進んでいくと、チャットGPT100%正しい答えを出せるようになると思いがちだがそうではない。自然言語処理の過程でハルシネーション(幻覚)を起こす可能性があると新井紀子教授は指摘する。

東洋大学②.jpgそこで大事なことがある。チャットGPTが出した「答え」を見きわめる理解・分析する力(リテラシー)だ。チャットGPTに、高いリテラシーを持っていない社会での影響についてどう見ているかを聞くと「そのような社会において、高いリテラシーを持っていない人々に対して、チャットGPTは深刻な影響を与える可能性があります」と自ら答えている。知らないことには使わない。誤りが解る人が活用するのはいいが、そうでなければ偽情報に翻弄される。人々の批判的思考力や情報リテラシーの向上が不可欠だ。

ところが現代社会は、批判する思考力や情報リテラシーを磨滅させる方向に動いている。日本は年齢が若くなればなるほど、「結論を早く知りたい」「多忙と情報過多のなかで、タイムパフォーマンス思考が強まっている」という。「映画を早送りで観る人」(福田豊史著)では、「見たいのではなく知りたい。無駄は悪でタイパ、コスパこそ正義」となっていることを指摘している。中身の濃い芸術作品を目指す作り手とは食い違う。日本人の昨今の「タイパ志向」、もっともらしい答えの結論を求める心象」に、チャットGPTはもってこいのものになりかねない。「情報の正しさに気を留めなくなった時、民主主義は成り立たなくなる」と新井紀子教授は危惧する。人間を鍛え、思考力、共感力、感受性を磨くことがますます必要となる。

いずれにしてもAI時代は加速する。チャットGPTの投げかける問題を、徹底的に掘り下げることが大切であり、人類は今、その瀬戸際に立っている。

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