政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN

NO.173 デジタル社会こそ「人間教育」を/「思考力」「共感力」「創造力」を磨け

2023年6月 5日

GIGA①.JPGこのところビジネスや生活を大きく変えるとされる生成AI(人工知能)による対話型サービス「チャットGPT」が注目を浴び、集中的に論議がされている。有効活用を求める声とともに、さまざまな課題や懸念が表明されている。個人情報や著作物を無断で使わないように法律で規制する必要があるという声とともに、国際的ルールを作るべきだという動きも始まった。なめらかな文章で「もっともらしい答えを出す」ゆえに、偽情報が拡散して見分けられないという危険があり、人々の批判的思考力や情報リテラシーの向上が不可欠となる。それがないと、社会の分断や民主主義の危機を招くことになる。先般、広島市で開かれたG7サミットでも、生成AIに関する国際的ルール作りを主導するためG7の見解を年内にまとめる「広島AIプロセス」に着手することに合意した。また政府も、AIにかかわる「国家戦略」を検討する新たな「AI戦略会議」が始動した。「巨象は動いたら止まらない」――。テクノロジーの進展は加速度を増す。早急に広範かつ深い、具体的な論議が必要だ。

規制や国際ルール作りが急がれるが、より重要なことは、「人間力」「人間教育」を強化することだと思う。人間を鍛え、思考力、共感力、感受性を磨くことだ。読売新聞が最近行った「デジタルと社会」の世論調査では、個人がネットで発信する情報について「偏った情報や考え方に影響される人が増え、社会の分断が深まる」との回答が63%あり、これが増幅される「エコーチェンバー」への警戒感が高まっているという。また、スマートフォンの使用により「自分で考える力が低下した」と「感じる」人は、「大いに」「多少は」を合わせて54%と半数を超えたという。書かなくなると、「漢字を忘れる」「読んでも覚えられない(忘れる)」という現象が既に起きているとは私たちでも実感するところだ。

1686012583201.jpg10年以上にわたって、数万人の小中学生を追跡調査し、脳科学の立場で分析した「脳トレ」の川島隆太教授率いる東北大学加齢医学研究所の恐ろしい研究結果がある(「スマホはどこまで脳を壊すか」榊浩平著)。そこで「このまま対策を講じなければ、オンライン習慣によって前頭前野の機能が衰え、『ものを考えられない』『何かに集中することができない』『コミュニケーションが取れない』、そんな人たちで溢れかえってしまうのではないかと危機感を覚える」と指摘している。前頭前野は、ものを考えたり、理解したり、覚えたりといった知的活動に必要な認知機能を支えるとともに、感情をコントロールしたり、他人の気持ちを推し量ったりするコミュニケーションに関わる機能を支えているものだ。とくにその成長期にあたるのが10代。勉強や仲間たちとの豊かなコミュニケーションを通して、前頭前野を意識的に「使うこと」によって鍛えることが重要だという。知らない言葉を調べる時でも、スマホやタブレットでの学習は脳が働かないが、紙の辞書を引いた場合は、脳の活動が急激に上がると指摘する。また「コミュニケーションが脳の発達には欠かせないが、オンラインと対面ではコミュニケーションの質が違う」と言っている。

米国の神経科学者、メアリアン・ウルフ氏は、本を「深く読む」ことの重要性を指摘する(「デジタルで読む脳×紙の本で読む脳」)。「紙の本は『深く読む脳』を育むが、デジタルで読む脳は連続で飛ばし読み、斜め読みになり、文章全体ですばやくキーワードを拾い、結論を急いでしまう。短絡的で真の理解ができない」という。見る・聞く・話す・嗅ぐ等の遺伝子が、人間には遺伝子的にプログラムされているが、文章を読むための遺伝子が備わっておらず、年代に合わせた大人・親からの忍耐強い文字教育があって初めて「読む脳」「深く読む脳」の回路が育っていく。「読解力」とともに「共感という他者の視点を持つ能力」「想像力や創造力」「フェイクニュースの犠牲を避ける推論・思考力」を育てることの重要性だ。

デジタル化が進む現代の社会は、情報が溢れ、常に新しい刺激を求め、注意力を散漫にしていく社会だ。忙しく、途中を飛ばし「結論」「答え」を求めるコスパ、タイパ社会だ。このなかで、「思考力」「共感力」「創造力」等を磨く、「人間教育」への努力をしっかり進めることが大事だと思う。

facebook

Twitter

Youtube

トップへ戻る