政治コラム 太田の政界ぶちかましCOLUMN
NO.174 少子化対策に「共働き・共育て」/若い世代の所得増と雇用の安定を!
政府は6月13日、「次元の異なる少子化対策」の実現に向けた「こども未来戦略方針」を決定した。「来年10月から児童手当の所得制限を撤廃し、高校生まで支給。第3子以降は月3万円」「26年度をめどに出産費用の保険適用の検討」「就労要件を問わず時間単位の保育所利用を可能とする『子ども誰でも通園制度』の創設」「25年度を目標に『産後パパ育休』の給付金を引き上げ、男性の育休取得も促進する」などを示した。その財源確保については「徹底した歳出改革を行い、消費税など増税は行わない」とした。このように、報道等を見ると子育て支援策や児童手当増などの具体的施策や財源などに論議が集中しているようだが、より重要なことは、これらの政策一つ一つではなく、少子化対策に踏み込む考え方、その理念を通じて、社会全体の意識改革を促そうとしたことだ。
その意識改革は「30年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンスだ」という認識の共有だ。そして、その理念として、「若い世代への所得を増やす、将来の見通しが持てる雇用」「女性に育児負担が集中している実態を変え、『共働き・共育て』に職場も地域全体も支援(社会全体の構造・意識を変える)」「全てのこども・子育て世帯を切れ目なく支援する」を明示している。この意識改革が国、企業、社会全体に行き渡り、次元の異なる少子化対策が進んでいくかどうか。国あげての正念場だ。
日本の難しさは、人口減少をもたらす出生率の減少、高齢者数の増加、そして社会の支え手である働く世代の減少という、それぞれ要因の異なる3つの課題の同時進行にある。昨年の出生数は、統計上初めて80万人を割った。2024年問題が叫ばれ、残業規制が厳しく行われることになり、建設業やトラック、タクシーなど輸送業が苦境に陥ると危惧されている。それは2024年の問題ではなく、2024年からずっと人手不足時代が続くということだ。若い人が担う社会保険制度の持続性にも影響する。さらに人手不足とともに、忘れてはならないことは、国内マーケット規模が減ってしまう、消費需要の低下だ。経済への影響は大変なものになる。しかも、人口減少は時間との戦いであり、出生率が回復しても、すぐには人口減少は止まらない。 15から49歳再生産年齢は減少し続けるためだ。今後の日本の景色は深刻だ。
少子化対策は、全世代型社会保障・子育て支援策と重なる所と違う所がある。私は少子化対策というならば、「非婚」「晩婚」「晩産」「少産」という4つの壁を直接的に打ち破る政策が重要だと主張してきた。「非婚」については、若い世代の「所得増加(賃上げ)」と結婚支援(出会い等)」が要となる。「結婚したいができない」という声は、正規職員より非正規の職員・従業員に多い。またどの年齢層でも一定水準までは年収が高い人ほど配偶者のいる割合が高い。若い世代の雇用の安定と賃上げへの支援を国全体、社会全体が行うことが最重要だ。企業の役割りも大きい。
「晩婚」「晩産」の壁は大きい。とくに日本社会に根強い「仕事か、子育てかの二者択一」「出産退職などによる収入低下」の問題だ。これからの日本では「共働き・共育て」の考えを徹底することがポイントとなる。育休制度があっても、現実にはとくに男性の育児休業は取りづらい。メアリー・C・ブリントンは著者「縛られる日本人」で、それらを指摘し、「女性が男性の5倍以上も無償の家事労働を担わなければならないような働き方と、家庭内での役割分担を変えることだ」と言う。日本の男性は家庭で家事と育児の15%しか分担していないが、ノルウェー、スウェーデン、デンマークなどは40%となっている。この「男性稼ぎ手モデル」から「共働き・共育てモデル」にすることで、スウェーデンなどは出生率が高くなったと指摘している。今回の「こども未来戦略方針」で、「産後パパ育休」を掲げ、給付金を引き上げ、男性の育休取得を促進する施策は、「共働き・共育てモデル」だ。また日本の女性の3割は出産で仕事をやめるが、その将来までの逸失収入はなんと1億3千万円にものぼるという。子どもをもつと、収入が減り、子育てにカネがかかるという不安を解消することが大事なわけだ。子育ての負担軽減、出産時の経済負担の軽減、医療・教育費等の負担軽減、とくに「共働き・共育て」に、大きく踏み出すラストチャンスが今である。
少子化対策にまさに待ったなしだ。個別的な施策とその財源を議論するのではなく、少子化対策に向けての政府、企業、そして社会全体の大きな意識改革がいかに重要か。そうした全国民的取り組みが求められている。